第1期対談第25回 モノはもう売れない! お客さまが求めているのは“新たな体験”だ

2017.02.1

業界展望

admin

新製品を出してもモノが売れないと嘆く企業がある一方で、爆発的ヒットを飛ばしている会社もある。勝者と敗者を分けるのは何か、顧客はモノではなくコトを消費したいのだと、美容経済新聞論説委員 野嶋朗氏は指摘する。美容業界はどうすれば顧客のココロをつかむことができるのか、美容経済新聞編集長 花上哲太郎がインタビューを行った。

人々はモノではなく
「体験」を買っている

野嶋 今日はトースターの話から始めてみましょう。花上さんは『BALMUDA The Toaster』という製品をご存知ですか?

花上 聞いたことはあります。

野嶋 バルミューダ株式会社という会社が2015年に発売したトースターです。もともとキッチン家電を作る会社ではなかったのですが、“体験をデザインする”というコンセプトのもとに開発したこの商品が20万台を超えるヒットとなったのをきっかけにして、家電製品に参入しました。

花上 スチームテクノロジーを駆使しているようですね、試してみたくなります。

野嶋 もう一つ、村上春樹の新作『騎士団長殺し』が2月24日に発売されたのも記憶に新しいことでしょう。いくつかの書店では、24日の午前0時からこの本を発売するカウントダウンイベントを開いていたようです。

花上 本が売れない時代、いろんな工夫をしていますね。

野嶋 この二つに共通しているのは、人々が欲しいのはモノではなくコト、新たな体験なのだということです。『BALMUDA The Toaster』の根底にあるのは、“人々はトースターが欲しいのではない。おいしいトーストが食べたいのだ”ということ。村上春樹の新作も、わざわざ並んで買うことそのものが楽しいと感じられているのです。

花上 経験や体験はSNSでシェアすることもできますね。

野嶋 「体験」は五感からのインプットによって作られています。五感からインプットされるからインパクトが生まれる。モノで溢れた現代は、クルマでも家電でも、「新しい商品が出たから買わなきゃ」というニーズはもうありません。買い替え需要があるだけ。だからこそ、モノではなく体験、コトを買ってもらう「体験経済」になっているのです。

顧客のライフスタイルを理解し
消費を喚起する

野嶋  美容業界に目を転じてみましょう。現在の美容業界は、マーケティングの面ではまだまだ課題があります。特に消費を喚起するのが苦手だなと感じています。

花上 発想次第でいくらでもチャンスがあるのに、残念ですね。どうしてでしょうか。

野嶋  例えば、サロンのスタッフがラグジュアリーブランドについて知らないし語れない、そのため、お客さまの話についていけないのだという悩みをオーナーから聞いたことがあります。高級志向のサロンなのに、お客さまのライフスタイルやこだわり、大事にしているものをスタッフが理解できていないのです。これでは的確に訴求するのは難しいですよね。

花上 よくわかります。

野嶋  オーガニックを大切にしているお店で、店販品もオーガニック製品をそろえているのに、サロンからタバコの臭いがするというお店もあります。これでは、お客さまもいずれ離れてしまうでしょう。

花上 目指すところと現状との違いは、お客さまからもすぐ見透かされてしまいそうです。

野嶋  そうですね、こういう状態が続くと、「こんな製品があったら嬉しいな」という消費者のニーズをキャッチできないのです。一方で、まだ少数ですが消費者のニーズをしっかり把握して消費喚起できているお店は着実に成果を出しています。

花上 どのように対策を立てればいいのでしょうか。

野嶋  これまでの連載でもお話をしてきましたが、まずはお店や会社の「強み」をしっかりと把握すること。次に、その強みがお客さまに伝わっているかを再確認することが重要です。また、価格競争に流れてしまっていないかもチェックしてください。

花上 分のお客さまを理解したうえで、世の中の趨勢、どんなものが流行ってるのか、どんなものが売れているのか、常にアンテナを張っておく必要がありますね。本日はありがとうございました。

 

▼この企画について
美容経済新聞では、サロン経営に携わる方に役立つ情報を常にお届けしています。2017年は、論説委員である野嶋朗氏を迎え、今後の市場の変化にいかに対応していくべきか、ヒントを探って参ります。

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