野嶋朗氏第29回 やみくもに「おもてなし」はもう古い。「当たり前品質」こそ飛躍の鍵だ

2017.06.1

業界展望

編集部

経営者は他店と差別化すべく「魅了品質」ばかり強調するもの。しかしその一方で、「当たり前品質」がおろそかにされていると美容経済新聞論説委員 野嶋朗氏は指摘する。「当たり前品質」の実現のために機械化は必要なのか、「おもてなし」をどうとらえるべきなのか、美容経済新聞編集長 花上哲太郎がインタビューを行った。

 「当たり前品質」がおろそかなサロンが増加
機械に置き換えることができるものは置き換えていい

野嶋 今日は「当たり前品質」と「魅了品質」についてお話ししてみましょう。花上社長はこの二つをご存知ですか?

花上 「当たり前品質」は、提供されて当然の品質であり、これができていないと不満につながってしまうものですね。「魅了品質」は、提供されなくても構わないけれど、あれば満足というものだと認識しています。

野嶋 その通りですね。「魅了品質」は、あくまでも“ここまでやりたい理想の話”。経営者としては現場に求めたいものでもあります。しかし、いまエステティックサロンやヘアサロンで起きているのは、この不一致。経営者が理想としているものに、現場が追いついてこないのです。

花上 追いついてこないとはどういうことでしょうか。

野嶋 例えば、接遇、清掃、挨拶、金銭の授受といった「当たり前品質」ができていない現場に、いくら“最高の品質”を求めても無理なのです。この、「当たり前品質」ができていないサロンがとても多い。しかも、高級店の方がこの不一致が生まれがちです。

花上 その原因はどこにあるのでしょう。

野嶋 やはり人手不足は大きいと思います。経営者の立場からすると、金額やサービスといった「当たり前品質」を強化しても他店と差別化ができないのです。だからつい「魅了品質」ばかり追い求めてしまうのですが、深刻な人手不足に悩まされている美容業界や飲食業界では、「当たり前品質」の方がおろそかにされてしまうのです。

花上 飲食業界の方がその傾向が顕著かもしれませんね。

野嶋 私としては、機械に置き換えられるものは置き換えてもいいのではないかと思っています。例えば、今では外食チェーン店では当たり前のように券売機が置いてありますが、昔は金銭の授受は人間がやっていた。同様に、ヘアサロンではオートシャンプーにしたり、回転寿司ではシャリを自動で握ってくれるロボットにしたりと、これから変わってくるところは多いと思いますし、それでいいと思います。

花上 機械の方が衛生的で美味しいという場合もありますね。

野嶋 キャッシュレス化もどんどん進んでほしいと思います。電子マネーだと釣り銭間違いもないですし、レジ閉めにも時間がかからない。機械に任せた方が効率的で早いし、何より大切な人材を疲弊させなくていいというメリットが大きいのです。

高品質・低価格の店に
そもそも「おもてなし」は必要なのか

野嶋  2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まった数年前は、サービス業においてはしきりに「おもてなし」が強調されました。この「おもてなし」は「魅了品質」のことですね。でも、「当たり前品質」という土台がおろそかにされ、レベルアップの話ばかりが脚光を浴びていたのではと思います。「当たり前品質」を満たすために、機械に任せられるところは任せれば、それまでにかかっていた労力を「魅了品質」の実現に回せるのではないでしょうか。

花上 外食チェーン店のように金銭の授受を機械化すれば、お客さまへの「おもてなし」に割ける手間も増えますね。

野嶋  もう一つ問題提起したいのは、日本のお店はサービスが過剰ではないかということ。日本は長年のデフレで、とにかくモノが安い。中国の都市部の方が高いぐらいです。「この金額でこの品質は驚きだ」ということで外国の方が訪日しているのですから、おもてなしよりも安さに魅了されているのです。そういう方は、本当に「おもてなし」を求めているのでしょうか。

花上 「おもてなし」が過剰すぎるということでしょうか。

野嶋  難しいところですが、品質が良くて安いというお店で、スタッフを疲弊させるような「おもてなし」を強制させるのは、本当に大丈夫なのかと心配しています。

花上 そもそも「当たり前品質」がきちんとできていたのかという不安もありますね。原点や原理原則、基礎……これがなくて応用はないものです。

野嶋  ヒューマンエラーの心配もなくなりますし、習得に数年かかっていた技術を機械化することで、サービスを安く提供できます。

花上 弊社で発行している『エステティック通信』は、10月号から編集方針を改定していく予定です。伸び悩んでいるお店に対して、基礎理論や当たり前の技術、ベーシックな部分をもう一度見直してもらおうという企画です。

野嶋  とてもいいと思います。この連載でも度々指摘してきましたが、店舗数が増えると「当たり前品質」がおろそかになるものです。

花上 美容業界では「当たり前品質」を見直して、ぜひさらなる飛躍を遂げていただきたいです。本日はありがとうございました。

 

▼この企画について
美容経済新聞では、サロン経営に携わる方に役立つ情報を常にお届けしています。2017年は、論説委員である野嶋朗氏を迎え、今後の市場の変化にいかに対応していくべきか、ヒントを探って参ります。

 

連載記事
執筆者:編集部


野嶋 朗 (のじま あきら)
株式会社ノートラック代表取締役
ハリウッド大学院大学教授(ビューティサロンビジネス論 クリエイティブビジネス論)

美容と健康分野の組織活性、人材強化、業態開発、販売強化を支援する株式会社ノートラック代表。
1988年株式会社リクルート入社。進学事業カンパニーオフィサー、北海道支社長、街の生活情報事業ユニット長、ビューティ総研センター長を経て2014年12月末日に円満退職。

ビューティビジネス学会理事、日本化粧品検定協会理事、ビューティコーディネーター協会顧問、日本リラクゼーション業協会顧問、米国CCE認定GCDFキャリアカウンセラー、華道草月流師範。

著書
「美容師が知っておきたい 50の数字」㈱女性モード
「うちの新人を最速で一人前にする技術 美容業界の人材育成に学ぶ」㈱講談社
「一生離れないお客さまをつくる方法」㈱女性モード
「データで見るエステティックの今とこれから」㈱フレグランスジャーナル
「美容師が知っておきたい 54の真実」㈱女性モード

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