漢方は体の不調の背景にある心の問題も治す

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2017.09.21

編集部

公益社団法人東京生薬協会(東京都小平市)主催の2017年度第6回薬草教室「ストレス社会と漢方」が20日、東京都薬用植物園内で開催され、講師の東海大学 医学部 専門診療学系 漢方医学 教授の新井信氏は、「漢方医学では、心と体は密接不可分な相関関係にある。体の不調の背景にある心の問題も治すことができるのが漢方のおもしろいところだ」と強調した。

現代の西洋医学では、病変部や検査異常などを医師側で発見して治療を行うのに対して、漢方医学では体の不快な自覚症状などを基に患者側からアプローチして治療していく。もともと“げっぷ”の治療を求めて来院した患者が、検査の結果、肝硬変と食道静脈瘤が発見されたため、硬化療法が行われた症例を例に挙げ、「患者の主訴は“げっぷ”なので、半夏瀉心湯+生姜汁を投与したら“げっぷ”が改善できた」(新井氏)といい、西洋医学と漢方医学の病気に対するアプローチの違いを紹介した。

ただし、西洋医学も漢方医学もそれぞれ得意領域があることに言及。「漢方薬を飲んでいるから大丈夫というわけではない。西洋医学と漢方医学の両方で診ていくことが大切だ」(新井氏)と強調した。

現代はストレス社会と言われ、ストレスは避けて通れないものとなっている。このストレス(心の問題)により体に不調をもたらす“心身症”には、慢性胃炎、消化性潰瘍などの消化器疾患や、呼吸器疾患、循環器疾患が含まれる。こうした病気に対しては、「心身一如の立場をとる漢方による治療が適している」(新井氏)。

心身一如の考えについては、漢方復興の祖と言われる大塚敬節も、自身の書「漢方の特質」の中で紹介している。同書では、文豪・夏目漱石が弟子の鈴木三重吉にあてた手紙の一節「・・・・・・肝癪が起こると妻君と下女の頭を世宗の名刀でズバリと斬ってやりたい・・・・・・」を取り上げ、これに対して大塚は「漱石の胃病の原因はこの肝癪を我慢するところにあった」と分析し、清熱解鬱湯を勧めている。

漢方薬によるストレス治療の特徴としては、「ストレス以外によると思われる症状も改善できる」「心身一如の医学なので心身症に対応しやすい治療体系である」「服用に手間がかかる(つまり煎じ薬)分だけ病気に対して前向きに考えるようになる」などが挙げられる。

治療上のポイントの一つを挙げると、治療の有無にかかわらず、ストレスによる症状は必ず軽快憎悪の波があるので、長期的な視点から治すように心がけなければならないという。現在の症状を前日ではなく、一番悪い時と比べて評価することや、漢方治療の目標は症状のアップダウンを小さくして、そのレベルを下げていくことが重要だとした。

具体的な治療法を見ると、抑鬱・不安に対しては6つのタイプを紹介した。動悸、驚きやすい、興奮、不眠、高血圧などがある「交感神経緊張タイプ」は、竜骨と牡蛎のペアを含む処方を検討。ファーストチョイスとして柴胡加竜骨牡蛎湯を挙げた。息苦しさ、呼吸困難感、咽喉頭異物感、抑鬱気分などがある「(気鬱による)呼吸困難タイプ」には、厚朴と蘇葉のペアを含む処方が良く、代表処方として半夏厚朴湯がある。

ホットフラッシュ、多愁訴、イライラなどがある「更年期障害タイプ」には加味逍遥散など、興奮、のぼせ、不安焦燥感、不眠などのある「興奮のぼせタイプ」には黄連解毒湯など、便秘や腹部膨満などがある「がっしり便秘タイプ」は大柴胡湯など、疲れやすい、意欲がないなどの「疲労困憊タイプ」には加味帰脾湯などをそれぞれ挙げた。これらの他、不眠がある患者に対する漢方処方をいくつか紹介。このうち、睡眠の質が悪い、中途覚醒があるなどの症状に対する代表処方として酸棗仁湯を挙げた。

新井氏によると、数多くの臨床経験から「患者が自分の体に目を向けるようになってくれる」と“病気が治ったサイン”だという。痛みを例にしても「どんな時にどのように痛むのかなど、意外と患者は自分の症状に無頓着。自分の体は自分で治すという考え方が大切で、漢方薬は自分を治すための補助にすぎない」(新井氏)といい、普段から自分自身の健康に関心を持ってほしいと訴えた。

参考リンク
公益社団法人東京生薬協会

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