【連載】化粧品各社のイノベーション研究【25】ナノキャリア① ~ミセル化ナノ粒子技術を化粧品開発に応用~

2016.05.24

特集

編集部

ナノキャリア株式会社(千葉県柏市)は、東京大学や東京女子医科大学の教授らが研究してきたミセル化ナノ粒子技術による医薬品開発を目的に設立された創薬ベンチャー。創薬ベンチャーが新たに化粧品分野に参入した。

ミセル化ナノ粒子技術は、生体適合性のポリエチレングリコール(親水性)とポリアミノ酸(疎水性)を分子レベルで結合させたブロックコポリマーが水中で拡散することによって、外側が親水性ポリマー、内側が疎水性ポリマーという二層構造を有する直径数十ナノメートルの高分子ミセル(以下、ミセル化ナノ粒子)を形成する。

このミセル化ナノ粒子を医薬品に応用して静脈内投与した場合、血中に薬物が長時間滞留し、徐々にがん組織等の病変部へ集積する(EPR効果)ことで、治療効果が持続することを東京大学、東京女子医科大学の研究グループが証明した。

このミセル化ナノ粒子を実用化し、日本発の新しい創薬技術を世界に発信したいとの想いから、1996年6月にナノキャリアを設立した。2008年3月には、東証マザーズ市場に上場した。

ミセル化ナノ粒子技術を応用した薬には
①薬物を血中に長時間滞留させ、効果を持続させることによる治療効果の増大
②より多くの薬剤をがん細胞に直接届けるため、正常組織へのダメージが少なく副作用を軽減できる
③利便性の改善や患者さんのQOL(生活の質)の向上
④医療費の削減 等が期待されている。

一方で、世界中の医療現場で使用されている抗がん剤の中には、薬物自体及び製剤化のために添加されている溶解剤による副作用が問題となっているものが多数ある。また、中には、体内ですばやく分解されてしまう抗がん剤もある。

そうした現状を踏まえて同社は、ミセル化ナノ粒子技術を応用することで、特に治療効果を高めることができると期待される抗がん剤の開発に特化して開発に取り組んでいる。

現在のビジネスモデルは、ミセル化ナノ粒子製造技術を基盤とした
①自社開発
②共同研究
③ライセンスアウトの3パターンである。

自社開発に関しては、臨床試験の段階までを手がけその後は、ライセンスアウトに移行し、契約一時金やマイルストン収入(非臨床試験・前臨床試験等に基づく成果報酬)を得ている。 現在、7品目程度の開発を進めており、そのうち3品目が臨床試験段階にある。

ミセル化ナノ粒子同社の基盤技術「ミセル化ナノ粒子」(100nm以下の粒子)は、血液中の赤血球や血小板等の血液成分及び大腸菌などに比べて小さくウイルスの大きさと同じ程度(データ図にミセル化ナノ粒子を示す)。

この粒子の内部(ポリアミノ酸部分)に薬物を封じ込めたもの(封入したもの)がミセル化ナノ粒子である。また、同社のミセル化ナノ粒子の表面を覆うポリエチレングリコールは、免疫機構から異物と認識されにくい性質を持つことから、粒子を静脈内に注射した後、血液の中を長時間循環することが可能で、より薬の効き目を高めることが期待される。

こうした中で同社のイノベーションとなったのが、ミセル化ナノ粒子を応用した化粧品の開発であった。

 

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