【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証①政府主導ベンチャー政策、米シリコンバレーの創出と経済活性化狙う

2017.03.1

特集

編集部

我が国経済の閉塞感を打破して一段と経済を活性化させて行くためには、高コスト構造を是正し、新たな産業の創出による雇用の拡大を図ることが必要不可欠となっている。
こうした中で、独創的で斬新な技術、製品、サービスを開発して新たな事業に取り組むベンチャー企業の出現は、経済の活力と雇用の創出を図る重要な担い手として大きな期待が寄せられている。

そもそもベンチャー企業やベンチャービジネスとは何か、を定義づける。ベンチャー企業とは、新技術、新商品、新サービス等を開発する技術開発型企業のこと。そうした技術に特化した企業が自ら創出した新規事業に果敢に挑戦して市場に打って出るビジネスをベンチャービジネスという。
こうした技術開発型企業は、化粧品・美容関連業界であれIT業界、医薬業界、バイオ業界であれあらゆる産業界に広く存在する。
いずれも事業化にあたって業種・業態の違いや産学連携による大学発ベンチャー、サラリーマンからの独立開業などの違いがあるものの、独創的で斬新な新しい技術、新しい商品、新しいサービス等を開発し、それによって新規事業を興して事業を成長軌道に乗せる共通の目的を持つ。
創薬、バイオ等の大学発ベンチャーの中で新たな化粧品原料と成分を探索する研究開発の中で、化粧品の事業化に乗り出す動きが顕著にみられる。大学での研究成果を民間企業に技術移転し、新法人を設立するなどして事業に乗り出すもの。また、化粧品や美容関連ベンチャーの場合、新たな処方で成分の配合を行い、新化粧品の開発に取り組むベンチャーが数多くみられる。同時に、ネットを使って販路開拓や新たなサービスの提供に乗り出すベンチャーもみられる。
我が国においてこうした独自の独創的な技術を開発して新商品・新サービスによる事業化に乗り出すベンチャーの輩出を誘引する契機になったのは、通産省が1963年に中小企業基本法を制定し、官製ベンチャーキャピタル(VC)「中小企業投資育成株式会社」を設立して金融支援に乗り出したことに始まる。

経済産業省(旧通産省)、中小企業庁は、米国の中小企業向け金融支援制度、投資制度、税制制度、株式制度などを真似て政策導入した「政府主導型ベンチャービジネス」に負うところが大きい。
 政府主導型ベンチャービジネスの最大の眼目は、米国の成功事例に習い、地域ごとに米シリコンバレー(写真=カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリアの南部に位置するサンタクララとその周辺地域の名称)のような高度技術開発型企業と大学などが集中した技術集積地を形成し、その中から新たなビジネスに取り組む新興企業「ベンチャー」を創出して上場に繋げることで、日本経済の活性化を図ることが狙い。特に、ベンチャー政策を主導した経産省・中小企業庁は、ベンチャー企業を創出するため
①創業・開業の促進
②新規事業の促進
③産学連携による研究開発・事業化の促進
④中小企業の技術開発力の強化
⑤中小企業の第二創業の促進などの視点から各種の中小企業支援法を制定し、法律を根拠に金融支援制度などの支援体制を組んでベンチャービジネスを推進した。
いわばベンチャー政策を創業・開業、新規事業、技術開発の観点から法律を立案し、補助金、ファンドなどの金融支援制度、税制制度を設計して経産省の地方出先機関、自治体、独立行政法人、政府系金融機関、政府系株式会社、公益法人などを窓口にベンチャー政策を推進した。

当時の日本は、欧米から開放経済体制への移行を迫られ中小企業の国際競争力の強化と近代化に迫られていた。
このため通産省は、中小企業の過小資本の転換による資本の充実や技術開発による体質の強化を狙いに同基本法を制定。同時に、中小企業の自己資本の充実と成長を後押しするため投資事業(出資)を行なう中小企業投資育成会社(東京、大阪、名古屋)を設立して中小企業のスケールアップに打って出た。
1970年代に入り、円の切り上げと第一次オイルショック(1973年)で経済成長が鈍化したことから通産省は、中小企業近代化促進法(1963年制定)を改正し、中小企業の知的集約化を図り新技術、新製品開発による経営体質の強い中小企業輩出を打ち出した。
折しも、米シリコンバレーモデルの創出による我が国経済の活力を意図していた通産省は、中小企業投資育成による中小企業への投資件数が1970年単年度で153社に達したこともあり、中小企業のニュービジネスに自信を深めた。
ちなみに米国には、今もってベンチャー企業やベンチャービジネスという言葉はない。米国で、ベンチャーに該当するのは、中小企業、いわゆるスモールビジネスカンパニーを指す。したがってベンチャーやベンチャービジネスといっても欧米では通じない。
日本流の言い方でベンチャーは、アドベンチャー(冒険者)をもじって名付けた説が有力だが、未だに定かではない。

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