【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑥投資家に投資減税、ベンチャー企業の社員等に自社株保有の権利付与

2017.03.13

特集

編集部

通産省は、1997年に投資減税「エンジェル税制」(*注釈)及び「特定新規事業円滑化臨時措置法改正」によるベンチャー企業の役員と社員に自社株保有の権利を与える「ストックオプション制度」(同)を導入した。

エンジェル(個人投資家)税制とストックオプションは、ともに米国の制度を真似たもの。

米国におけるエンジェル税制は、1958年に新興企業への資金供給の担い手となっている個人投資家に対して投資損失を他の所得と相殺できる税の優遇措置。

この米国でのエンジェル税制に着目して通産省は、それまで「投資額をその年のキャピタルゲインから控除できること」のみとしていたものを1997年の税制改正で、未上場のベンチャー企業に投資して株式を取得した個人投資家に対して、「投資した時点」と「株を取得した時点」「株を譲渡して利益や損失を出した時点」の3つの時点で、減税措置が受けられるようにした。

例えば、ベンチャー企業に500万円投資した時点に他のベンチャー投資で譲渡益が700万円あった場合、700万円のうち500万円が繰り越し対象となり、残り200万円に対して課税される。また、取得した株を譲渡して損失した場合、翌年以降、3年間にわたって繰り越しができ他の株式譲渡益から控除できるなどの特例措置が適用されるようにした。個人投資家に投資減税の恩恵を与えることで、ベンチャー投資を促進するのが狙い。

一方、ストックオプション制度は、米国で1920年代に中小企業の税制優遇措置として導入され、1950年に普及した制度。その後、1990年初頭にシリコンバレーの新興企業で、経営者の高額報酬制度、優秀な技術者集めの手段として急速に普及した。

ストックオプションは、未公開ベンチャー企業の役員や社員に対して会社が自社株を購入、譲渡できる権利を付与すること。予め期間(権利行使期間)と価格(権利行使価格)が決められている。この権利を保有する役員や社員が上場時に保有する自社株を売却することで、キャピタルゲインを得られるメリットがある。自社株を購入した段階で所得税、住民税がかかるほか株式売却時に課税される。

会社の役員や社員に成功報酬(インセンティブ)型のストックオプションを付与することで、業績の向上による上場を実現するのが狙い。しかし、株価低迷などで未公開ベンチャーのストックオプション付与率も同時に低迷するなど成果が出なかった。

翌年の1998年11月には、投資事業組合に代わって投資家保護と年金資金などを投資に振り向けてベンチャー企業への資金供給を円滑化させることを狙いに民法上の組合の特例法として「投資事業有限責任組合法」(有限責任組合法=ファンド法=注釈)を施行した。

同法律の基本的要件として有限責任組合契約に当たって無限責任組合員(*注釈)と有限責任組合員(*注釈)から成る事を定義付けたことが特徴。

これまでの民法による任意の組合による投資事業組合は、出資者の有限責任は、担保されていないことや組合員に対する情報開示もルール化されていなかった。このため機関投資家の年金基金や海外投資家が投資事業組合に出資しない原因にもなっていた。

有限責任組合法が施行されたことでVCは、資金の調達の有無によって無限責任組合員や有限責任組合員になることができるようになった。また、有限責任組合の設立は、投資家の投資意欲を背景にファンドの組成が多くなることで、VCが一社当たりのベンチャーに投資する投資金が少なくて済み、リスク分散が図れること。同時に、ファンド自体の資金規模が大きくなることから、投資の囲い込みがしやすくなるなどの効果が期待された。

ファンド法の施行に伴い65あったファンド数の内、半分の30ファンドがファンド法に準拠したものとなった。また、1998年3月に投資残高が10兆1000億円(ファンド数211本、投資残高6900億円、VC直接投資4000億円)と初めて1兆円の大台に乗せた。

*注釈

エンジェル税制
1997年の税制改正により創設されたベンチャー企業に出資する投資家(エンジェル)の投資を促進するための優遇税制(所得減税)のこと

ストックオプション制度
ベンチャー企業の役員や社員があらかじめ決められた価格で自社株を買う権利をいう。企業は、取締役や社員の意欲、士気を高める一方で上場時に株価の値上り益を通じて報酬を与えることができる

投資事業有限責任組合法」(ファンド法)
ファンド法とは、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」(1988年成立)の通称。リスクマネーがベンチャー企業などに流れやすくすることを目的に設立された。民法上の任意組合とは異なり、有限責任社員を設定できるため、投資家にとってリスクを投資額に限定した投資が可能。これまで投資対象が未公開の中小企業に限定されていたが、現法ではこの規制は撤廃され、上場企業にも投資できる

無限責任組合員
投資事業組合の組成と有限責任組合員への出資依頼をはじめ投資活動、成功報酬、組合員である出資者への投資情報の提供など業務上の運用・管理全てに責任を負う組合員のこと

有限責任組合員
投資事業組合の債務について出資額の範囲内で責任を負う組合員のこと

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