【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑪新規事業に補助金交付、上場促進も狙う

2017.03.27

特集

編集部

バブル崩壊で経済が底冷えし廃業が続く中、我が国経済のダイナミックな活動の源泉として中小企業の成長・発展は欠かせないとして通産省・中小企業庁は、1999年4月に新たに中小企業基本法を定めた。1963年に大企業の二重構造(下請)を解消する目的で制定した中小企業基本法を抜本的に見直したもの。

新たに制定した中小企業基本法は、基本理念として中小企業を大企業の二重構造から脱却して国際化に対応した自立した成長・発展を遂げると規定。そのために、中小企業を地域経済や市場経済、技術創出、雇用の機会創出などの担い手として我が国経済の牽引者となることに期待を示した。

1990年代後半の日本経済は、製造業を中心に過剰設備、過剰雇用に陥り、経済活力の低下や雇用の悪化に直面した。完全失業率は、過去最高水準に達するとともに米国の開業率13.8%に比べて国内開業率が3.7%と低水準にあるなど、新事業創出による日本経済の活力を呼び戻すことが焦眉の急となっていた。

そこで通産省・中小企業庁は「我が国経済の活力を促進するためには、新しい商品やサービスを提供する分社化を含めて創業(起業)や新規事業を活発化し、上場計画を持つベンチャーを輩出することで経済の閉塞感を打破することが不可欠」として、1999年2月に中小創造法に続いて中小企業支援法「新事業創出促進法」(新規事業法=注釈)を施行した。

同法は、テクノポリス法(*注釈)と頭脳立地法(*注釈)の二法を統合したもので、ベンチャー・中小企業の新規事業を創出し経済の活力に繋げるのが狙い。

新規事業法を根拠に、創業者や5年未満の法人(中小・ベンチャー企業)が作成した新製品開発、生産、販売計画を記載した新事業分野開拓実施計画について、国が認定するバラマキ型補助金制度を打ち出した。

独創的な技術や新製品を開発または事業化を計画する創業者やベンチャー予備軍などに対して新事業分野開拓実施計画を作成させ、全国8ヵ所の通産局に申請して審査を行い大臣認定(お墨付き)した。店頭市場に代わるベンチャー専門の株式市場開設が具体化してきた事をにらんで、5年以内の短期間に株式公開するベンチャー創出を狙いとした。

同計画の認定審査基準は
①研究開発中又は開発済みの技術、製品の新規性、独創性及び技術の深度、ビヘイビア
②開発した製品の市場規模やライバル企業に与える影響、波及効果
③事業化に伴う収益性、成長性発展性
④研究開発、事業化等に関わる資金計画
⑤特許取得の有無、5年以内に株式公開が可能かなどについて評価・承認する。

新規事業実施計画の認定を受けた創業者に対して無担保・無保証による融資を支援。また、同計画の認定を受けた創業5年未満の中小・ベンチャー企業に対する金融支援として研究開発費の3分の2を補助。同時に、研究開発や事業化などの資金を調達するために発行すによる債務保証、利子補給及び政府系金融機関(旧国民金融公庫、商工中金、中小企業金融公庫からの新事業育成貸付や政府系VCの「新規事業投資㈱」(*注釈)や㈱中小企業投資育成からの投資、中小企業事業団からの直接助成(100万円から500万円)など金融支援措置を打ち出した。

同年3月には、VCのファンド組成に弾みを付けるため、民間VCが有限責任組合を設立してファンドを組成する際に、政府が出資することを狙いとしてファンド法を改正し、中小企業総合事業団にファンド出資の役割と機能を持たせた。また、起業家や創業まもない新興企業が研究開発するための賃貸施設「インキュベータ」(注釈)施設を整備する自治体、中小企業事業団に対して地域振興整備公団(*注釈)から助成する措置も打ち出した。

このように官がお墨付きを与える補助制度や承認基準、金融支援制度は、新規事業法によって一応、骨格が体系づけられた。

未曾有の不況で民間VCの投資が減少する中で、民間VCと比べて投資資金が潤沢で安定している政府系VCの新規事業投資と中小企業投資育成だけは、投資実績を確実に伸ばした。当時、通産省でベンチャー政策を推進する担当課長は、「今日だけで政府系VCと投資契約を交わしたのは、20社にのぼる。それも政府が法律(新規事業法)に準拠して新製品、新技術の研究開発事業を認定したベンチャー企業ばかり」と喜びも有頂天に達した。

*注釈

新事業創出促進法」(新規事業法)
 新商品の生産又は新サービスの提供、 事業方式の改善その他の新たな事業の創出を促進するため等の措置を講じること により、活力ある経済社会を構築していくことを目的とした法律。株式公開を目指すベンチャー企業を支援することを目的としており同法に基づき「新事業分野開拓の実施に関する計画」(以下「認定計画」という。)の認定を受けた企業は、ストックオプションの特例など商法の特例措置の利用が可能となる。2005年4月13日をもって廃止され、中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律へ統合(中小企業経営革新支援法、新事業創出促進法、中小企業の創造的事業活動の促進に関する臨時措置法を統合)した

産業基盤整備基金
昭和61年(1986年)に、当時の大蔵省と通産省が共菅する特殊法人として設立された。設立目的は、民間企業による特定産業施設の整備を促進するために必要な資金の借り入れに対する負債を保証するのが狙い。2004年に同基金は、中小企業総合事業団(1980年設立)と地域振興整備公団(1974年に前身の産炭地域振興事業団を改組)の2特殊法人とともに現在の独立行政法人中小企業基盤整備機構に統合された。現在、同機構が民間のVCキャピタルが組成するベンチャーファンドに出資している

テクノポリス法
工業集積の著しい地域を中心に,高度技術に立脚した工業開発を 促進することにより,地域経済の自立化を図る目的で1983年に制定された高度技術 工業集積地域開発促進法の通称。1988年12月の新事業創出促進法によりテクノポリス法廃止

頭脳立地法
テクノポリス法から5年後の1988年に制定され、情報処理、ソフトウエアなど26の地域計画が承認された。しかし、2005年の新事業創出促進法によりテクノポリス法とともに廃止された

株式会社新規事業投資(現社名DBJキャピタル)
1990年6月に特殊法人産業基盤整備基金と民間企業との共同出資で設立した政府系VC。ベンチャー企業への直接投資とVCが組成するファンドに出資

インキュベータ
ふ化したばかりのベンチャーの事業拠点施設。独自の創造性に富んだ技術、経営ノウハウ等を持つベンチャー企業の旺盛な起業家意欲に着目し、経営アドバイス、資金調達へのアクセス提供、企業運営に必要なビジネス・技術サービスへの橋渡しを行う地方自治体に対して国が助成金を交付(中小機構窓口)して施設を整備している

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