【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑬新事業創出に補助事業、官の組織を総動員し支援

2017.04.3

特集

編集部

新事業創出促進法が施行(1999年2月)された当時の我が国の経済状況は、戦後最大の不況期にあった。そこで、通産省は「経済の活力を取り戻すためには、新たな事業を開始しようとするベンチャーや中小企業を積極的に支援することにより地域経済の自立的発展を目指すことが急務」とし、新事業創出支援体制として「地域プラットフォーム」の設立と新たな補助事業を打ち出した。
地域における新事業創出を加速させるため、中核支援機関として地域プラットフォーム(*注釈)に都道府県がなり、具体的な支援内容を記載した基本構想「マスタープラン」を作成して補助事業として推進。同時に、この中核支援機関の下部組織で実際の支援を行う新事業支援機関に地元の大学や工業試験所、商工会議所、ベンチャー財団などが行う仕組みとした。
マスタープラン作成は、国が技術開発、技術移転、資金供給、販路拡大、財務経営指導、市場と新製品開発のマッチング、インキュべ―ション、人材育成などのメニューを用意し、マスタープランの中から自治体が支援事業を選択して補助事業として行う。
通産省は、地域支援機関の整備補助事業費として、1999年度23の都道府県に交付する総額11億7000万円の予算を計上。また、23の交付先の中で、手始めに事業化計画を記載してマスタープランを作成し、承認された富山、滋賀、徳島、高知、長崎の5県に1県当たり4000万円、計2億円の補助金を交付した。
通産省は、新規事業の創出と支援を行う地域支援機関設立について「地域から新規事業を起こし地域経済を活性化させること。同時に、中核支援機関は、創業者やベンチャー企業の技術力、成長力などを総合的に判断し、店頭公開まで育てて行く役割を担う」と説明するとともに1999年度、2000年度の2年間で60の地域プラットフォーム設立を計画」すると言明した。
さらに、通産省は、1996年6月に227にのぼる支援機関を総結集した全国組織「日本新事業支援機関協議会」(名称:JANBO=注釈)を旗揚げした。当時、新事業支援機関として存在していたテクノポリス財団(*注釈)や中小企業振興公社(*注釈)などを整理統合し、地域イノベーション支援機関や産学連携関連機関などの官益軍団を再結集して立ち上げたもの。新事業創出を旗印にして官益軍団に金と仕事を与える官益の構図、官益の肥大化を象徴的する動きだ。
同協議会は「財団法人日本立地センター」(*注釈)に事務局を置き、通産省から委託事業として地域の中核支援機関が行う事業の情報交換や新規事業を創出した企業の表彰、米国で成果を上げている起業家のビジネス支援「ビジネスインキュベーション」の普及とインキュベーションに携わる専門家「インキュベーションマネージャー」(IM)の教育研修・認定(業界認定資格)などを行った。
だが、中核支援機関や執行機関は、役所と官益軍団で構成され、役所と公益法人等に仕事と金を与える官益の構図と比喩された。
地域から新規事業を創出する実効が見えず中核支援機関は完全に形骸化するなど支援の実態も尻すぼみになった。だが、通産省は、中核支援機関と日本新事業支援機関協議会が形骸化しても新事業創出促進法が切れる2009年までの10年間にわたり補助事業を行った。
こうした中、地域プラッフォームの資金供給の役割を担う機関に位置付けられたベンチャー財団のVC投資(間接投資)は、ベンチャーから経営が安定している老舗企業などの中小・中堅企業に投資の矛先を変えた。
それまで同財団は、中小創造法の認定(認定総件数1996年度、1012件、1997年度1240件、1998年度1450件)を受けた中小・ベンチャー企業に主眼を置いて投資してきた。 それをベンチャー企業から中堅・中小企業に投資の矛先を変えたことについて当時、地元の地銀から埼玉県のベンチャー財団に出向して投資を担当していた部長は「投資に値するベンチャー企業が少ない。基金の財源が目減りする中で、ハイリスクを背負ってまでベンチャーに投資することはできない」と投資の転換を図った事を強調した。
しかし、新事業創出促進法は、2005年に中小企業新事業活動促進法に継承されるとともに、プラットフォーム補助金も廃止された。

*注釈

日本新事業支援機関協議会(JANBO)
1999年6月に地域プラットフォームの全国ネットワークとして創設された。同協議会は、地域プラットフォーム事業に関する情報交換や経験の共有を図るためのセミナーや優れた事業を顕彰するJANBO Awards事業などを実施した。また、新事業創出を図る方法として米国で大きな成果を挙げていたビジネスインキュベーション(BI)手法を導入し、この普及とこれを促進する人材であるインキュベーション・マネジャー(IM)の養成を行った。2000年からIM養成研修事業を開始するとともに、2001年に「ビジネスインキュベーション将来ビジョン」を策定した。本事業は2002年度からは経済産業省補助事業として実施し、約600人を養成した。 2009年4月に「全国イノベーシ推進機関ネットワーク」を立地センター、中小機構などと創設、新組織に転換を図った

テクノポリス財団
テクノポリス法に基づく地域の開発計画の推進に必要な業務を行うため 設立された法人を「テクノポリス財団」という。道府県等が出資するなどして 造成された地域産業活性化基金等の運用と技術革新に取り組むベンチャーへの補助金交付活動を行う

公益財団中小企業振興公社
47都道府県に設置した中小企業向け支援組織。主な事業活動として創業支援、研究開発、販路開拓などの補助金事業

日本立地センター
財団法人、昭和37年1月に企業の立地、誘致策の立案、調査研究等を目的に設立。日本新事業支援機関協議会の事務局も務めた

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