【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑮SBIRを錦の御旗にするも中小企業踊らず(上)

2017.04.7

特集

編集部

通産省は、1999年10月に米国のバイドール条項(*注釈)を盛り込んだ「産業活力再生特別措置法」(*注釈)を施行した。承認TLOに対する特許料を最高3年間免除、審査請求料を2分の1に減免する。同時に、政府の資金供給による委託研究に関わる特許権は、それまで全て国に帰属していたものを100%委託先企業に帰属するようにした。

通産省がバイドールを適用した件数は、1999年度で1111件にのぼる。さらに、バイドール条項導入と同時期(1999年10月)に同特別法を根拠として米国のSBIRを真似て政策導入した「日本版SBIR制度」(*注釈)を創設した。

米国のSBIR制度は、1983年に米政府が実施した研究開発資金の助成による中小・ベンチャー企業支援策。
米国の内務省や中小企業庁、商務省、環境省、国家航空宇宙局(NASA)など11省庁、関係機関が参画する中小企業技術開発国家戦略プロジェクト。
米国は、各省庁が個別に行っていた助成制度を中小企業庁が運用ガイドラインを統一して、各省庁の研究開発予算の10%から15%を中小企業の研究開発費に配分することを義務付けたもの。
同制度の目的は
①米国の技術革新を刺激すること
②中小企業の技術開発力を活用して政府の研究開発ニーズを満たすこと
③技術者個人の参加を促す
④研究開発の商業化を増加させるなど、4つの目的を図りながら、中小企業の育成に繋げる狙い。

その狙いを達成するため米政府は、支援方法としてフェーズⅠ(フジビリティスタディ=事業化の実現可能性に関する技術、市場等の調査・研究)、フェーズⅡ(プロトタイプの開発)、フェーズⅢ(商業化の段階)の三段階制を設け、各段階別に中小企業が応募した研究開発について審査を行い、政府の開発計画にマッチングし、先行き成長が期待できる技術、製品であると認定された中小企業に対して補助金を交付する。
補助金の交付額は、フェーズⅠが約10万ドル(約1200万円)。平均7件に1件の割合で補助金が交付されている。フェーズⅠに認定された企業だけがフェーズⅡを申請できる。フェーズⅡの開発期間は、2年間。補助金交付額は、2年間で75万ドル(約9000万円)。

米国のSBIR制度は、単に政府が補助金を交付するだけではない。同制度の最大の特徴は、フェーズⅠとフェーズⅡの補助金を活用して開発し、事業化、商業化の段階に位置付けたフェーズⅢに盛り込まれている入札による政府調達だ。
フェーズⅢは、政府との間で製品又は生産プロセスなどについて契約を取り交わし、政府自らが製品を調達(購入)する。1億ドル以上の外部研究開発委託予算の内の25%を別枠予算に設定して調達に充てている。

中小企業にとっては、最大の難問である販売を政府自らが風穴を開けて購入することで、与信に裏付けされた販売の拡大に繋がるものとして歓迎されている。また、政府は、ベンチャーキャピタルなども紹介してマッチングを図るなど、民間資金の活用支援も行っている。さらに、技術開発して取得した特許は、全て開発者の中小企業に帰属しているため、中小企業の特許申請意欲は極めて高い。

特に、評価結果をフィードバックしている点も注目に値する。専門家による審査結果を専門家が名前を記載して当落結果とその理由のコメントを付けて応募企業に知らせるなど審査の透明性と公平性を担保している。

*注釈

バイドール条項
各省庁が政府資金を供与して行っている全ての委託研究開発(特殊法人等を通じて行うものを含む)に係る知的財産権について、100%受託企業に帰属させる。従来、政府の委託研究を通じて得られる知的財産権については、国に100%帰属することとなっていた。 平成11年10月1日から施行した

産業活力再生特別措置法
 1999年に制定。補助事業として他社から事業譲渡を受けて事業を行う経営資源化計画や2以上の異業種企業により革新的事業を行う経営資源融合計画など7つの補助事業について認定し、債務保証、登録免許税・不動産取得税の軽減など行政支援を受けられる。2003年と2007年の適用範囲を拡大したうえで、期限が延長された。しかし、2014年11月に産業競争力強化法に引き継がれた

日本版SBIR制度(中小企業技術革新制度)
 1998年に米国のSBIR制度を参考に導入した。政府が必要とする技術の研究開発を行う中小企業に補助金を交付し事業化を支援。同時に、補助金を活用して開発した製品を政府が調達・購入する。同制度の根拠法は、新事業創出促進法であった。しかし、同法が2005年4月に廃止され、1000年に制定された中小企業革新事業活動促進法に統合された

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