【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑰マザーズなどベンチャーの株式市場を開設、赤字でも上場可能

2017.04.12

特集

編集部

ベンチャー企業のストックオプションやエンジェル税制の創設、中小企業等有限責任組合法の施行と中小企業総合事業団によるベンチャーファンド事業などベンチャー制度の整備に取り組んできた通産省は、日本経済の成長鈍化、バブル崩壊によって経済が閉塞状況に陥る一方、金融制度改革「金融ビッグバン」(*注釈)による規制緩和が政策課題となっていた。
そこで、通産省と大蔵省は、それまで中小・ベンチャーの株式公開市場だった店頭市場に代わって、米国経済を牽引していた新興市場「ナスダック市場」のような新たなベンチャー専門の株式市場を日本にも創設することを目論んだ。
当時、通産省は、新事業創出促進法の一部を改正(1998年12月)する中で、ベンチャーの定義を「事業の新規制、事業の成長・発展性があり5年以内に株式公開を実現できる企業」と位置付け、「新たに開設する新興市場に2~3年間で、500社のベンチャーを上場させ、米ナスダック市場と肩を並べる一大ベンチャー市場にする」と大見栄を切った。

1999年10月に最初のベンチャー市場「セントレックス」(名古屋証券取引所)が開設されたのに続いて、同年11月に東京証券取引所(東証)が「マザーズ市場」(*注釈)を開設した。
この2市場開設に続いて、2000年4月から5月にかけて「アンビシャス」(札幌証券取引所)、「ナスダックジャパン」(大阪証券取引所)、「Qボード」(福岡証券取引所)が開設され、ベンチャーの株式市場として5市場が整備された。
5市場の中で、ナスダックジャパンは、ソフトバンクと全米証券協会(米ナスダック市場運営)が折半出資して設立し、大阪証券取引所と業務提携して2000年6月に取引を開始した。しかし、株価低迷で全米証券業協会が撤退したことから2002年に大証が業務を引き継ぐとともに、市場名をナスダックジャパンから「ヘラクレス」に変更した。

これらのベンチャー市場が開設された当初は、金融の規制緩和を反映して各取引所とも上場時の基準を上場時点で「時価総額」(*注釈)が5億円以上と規定しただけで、利益、株主資本(*注釈)、設立経過年数などの基準を“なし”とするなど、上場の基準緩和を図った。「例え、赤字であっても先行き成長が見込めると証券会社が判断すれば上場できる」としたことから、マザーズ市場が開設された1ヵ月後に早くも2社のベンチャー企業が上場した。
しかし、上場基準を緩和する半面、上場したベンチャー企業に対して、株主向けに3ヵ月ごとの業績内容を記した四半期ベースの決算書作成と決算内容を説明する会社説明会の開催を義務付けた。
東証マザーズ市場が開設された翌年の2000年に上場した累計上場数は、IT、外食、サービス業を中心に27社、ヘラクレス市場33社にのぼった。しかし、札幌、名古屋、福岡のベンチャー3市場の新規公開は、2004年まで僅か1社と精彩を欠く状況が続いた。

*注釈

金融ビッグバン
1996年から2001年度にかけて金融機関の代理業解禁などの規制緩和などを行った金融制度改革

マザーズ市場
利益に関する上場基準や設立後経過年数を大幅に緩和し、赤字会社や最初期段階のベンチャー企業でも上場可能とした

時価総額
企業の資産や利益、成長力など総合力を表す企業の価値。発行済株式数に株価をかけて算出する

株主資本
貸借対照表の純資産(資本)の部を指す。企業の元々の出資額である資本金や経営活動によって生まれた剰余金からなり、この金額が株主の持ち分であることから株主資本ともよばれる。自己資本、純資産と同義

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