【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証⑱ベンチャー上場で創業者利益とキャピタルゲイン実現

2017.04.14

特集

編集部

ベンチャー企業の株式公開は、ベンチャー企業とオーナー経営者(創業者)の双方にメリットがある。
ベンチャー企業のメリットは
①公募による時価発行増資などで株式市場から直接、資金調達ができる
②社会的信用や知名度の向上
③人材の安定確保と社員の労働意欲の向上、など。
オーナー経営者のメリットは
①自ら保有する株式を上場時に売却することで創業者利益が得られる
②株式市場を通じて保有している自社株の売買ができるため資金確保が容易
③相続や贈与を行う場合、株式の評価額が市場価格で評価されるため、合理性がある。

一方、上場に伴ってベンチャー企業と経営者に生じる負担も大きくなる。企業業績が株価に反映するため、株主や投資家に対する経営責任が増大する。また、投資家の投資判断に必要な経営情報、業績情報などについて、決算報告や有価証券報告書で開示する義務がある。さらに株主総会の運営や株式の買い占め対策、経理事務、株式事務の増加など新たな負担が生じる。
だが、銀行、保険、証券VCにとってベンチャーの上場によるメリット、デメリットは二の次の問題。第一は、投資先のベンチャー企業が確実に上場を実現し、投資以上のキャピタルゲインを手にすれば良い。

VCの投資、キャピタルゲインの算出モデルになるのが「投資先ベンチャーが上場した時点で、1株当たりの予想当期利益(EPS=注釈)、株価算定などの収益勘定をはじき出す物差しになる資本政策だ。
資本政策は、株式公開時における安定株主名と株主の持ち株比率、発行済株式数、増資計画などを盛り込んだ資金調達と株式公開に向けた工程表のこと。
ベンチャー企業の資本政策立案プロセスは
①利益水準や監査法人の監査期間を勘案して株式公開時期を決定する
②株式公開までの事業計画書を作成し、同計画書に盛り込んだ財務データ(利益計画、貸借対照表)を数値化する
③公開時の発行済株式数と一株当たり予想当期利益の設定
④株主構成と持株比率の決定
⑤旧株式を新株式に分割して株式の流動性を高める
⑥新株予約権(*注釈)の発行や第三者割当増資など増資方法の設定
⑦増資の実行、などの手順で行う。
VCは、資本政策に盛り込んだ利益計画と発行済株式数から算出した1株当たりの予想当期利益などを参考にして必要な利回り(内部収益率)を計算し、ベンチャーの増資に合わせて投資を行う。投資を行ったVCは、ベンチャー企業が立案した資本政策の株主名簿に持株比率と一緒に記載される。

ベンチャー専門市場が開設された時期からVCは、ベンチャーの資本政策を一段と重視して投資を行うようになった。
株式公開を決定又は計画中のベンチャー企業にとって、資本政策と合わせて公開審査の対象となる「経営管理体制の整備」についても上場前に準備しておく必要がある。

経営管理体制の整備は、大きく分けて合議による社内の意思決定の確立と責任体制を明確にした組織的経営の確立の2つについて整備することにある。
意思決定の確立は、役員、監査役を構成した取締役会や経営会議、稟議などの整備と規定、議事録を定めて合議による経営を行うこと。また、組織的経営は、社内の管理、業務、職務の分担を規定し責任体制を明確にした内部統制を確立することにある。しかし、上場を果たしたベンチャー企業の多くは、合議の意思決定を図り経営の管理体制を図ったとは言え、事業が急成長して俄か人材を採用したため、言葉使いや対応が粗雑で、責任ある対応ができないなど、社員教育の未熟さを露呈する場面が数多くみられた。

*注釈

EPS
Encapsulated PostScript(エンキャプサレイティッド・ポスト・スクリプト)の頭文字。1株当たりの利益を意味する。企業が1年間に売り上げた当期純利益を発行済株式総数で割って算出する

新株予約権
新株予約権とは、あらかじめ定められた条件で会社に対して新株式の発行または自己株式の提供を請求し、それを購入できる権利のこと。 特に、会社の取締役や従業員などに対して付与するものをストックオプションという

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