【連載】化粧品・美容関連ベンチャーの考証㉛化粧品・医薬部外品等の大学発ベンチャー輩出、危機的状況

2017.05.25

特集

編集部

大学発ベンチャーとは、大学の教授、准教授などの教官や自治体等の工業試験所、公的研究所などで行っていた基礎、基盤技術を技術シーズとして事業化する目的で、法人組織を設立または大学での研究成果を民間企業に技術移転して創業する技術開発型ベンチャー企業のこと。

経済産業省は、大学発ベンチャーに関する実態調査を2015年、2016年の2年間実施し公表した。現存する大学発ベンチャー数は、2016年度で1851社と2015年度調査時の1773社より増加。

この現存する大学発ベンチャー数のうちで、バイオ・ヘルスケア・医療機分野のベンチャーの割合が約30%と大きいことが判明。他方、学生ベンチャーについては、IT(アプリケーション、ソフトウェア)の割合が約40%、共同研究ベンチャーについては、バイオ・ヘルスケア・医療機分野の割合が約30%、環境テクノロジー・エネルギー分野の割合が23%を占めていることが明らかになった。
一方、黒字化した大学発ベンチャーの割合は、2016年度55.7%と2015年度調査時の55.6%とほぼ同様であることが分かった。

大学発ベンチャーの設立は、文部科学省所管の科学技術振興機構(JST)運営の大学発新産業創出プログラム(START)を活用して事業化に取り組むケースが多い。
STARTは、民間のベンチャーキャピタルが大学における有望な基礎研究を選定し、JSTからの公的資金を活用して事業プロモーターと大学等の研究者をつなぎ、研究開発と事業育成を支援する。
事業プロモーターの活動を支援する「事業プロモーター支援型」と大学等でのプロジェクトを支援する「プロジェクト支援型」から構成される。

STARTは、2012年度に文部科学省が行っていたが、2015年度からJSTが文部科学省の委託を受けて運営している。
STARTの目的は、事業化ノウハウを持った人材(事業プロモーター)ユニットを活用し、大学等発ベンチャーの起業前段階から、研究開発・事業育成のための公的資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、リスクは高いがポテンシャルの高い技術シーズに関して事業戦略・知財戦略を構築しつつ、市場や出口を見据えて事業化を目指す。これにより、大学等の研究成果の社会還元を実現し、持続的な仕組みとしての日本型イノベーションモデルの構築を図るのが狙い。

現存する大学発ベンチャー1851社のうち、大学での化粧品や医薬品、医薬部外品等を開発し起業・事業化に取り組むベンチャー企業は、エイジングケア化粧品原料と化粧品販売を行う京都大発・大阪市立大発ベンチャーの「ナールスコーポレーション」をはじめ、機能性ペプチドの研究成果を生かした医薬品、化粧品の事業を行う大阪大発ベンチャーの「フランペップ」やアンチエイジング効果のあるショートペプチドを用いた化粧品、育毛剤等の開発を行う大阪大発ベンチャーの「アンチエイジングペプタイド」、それに貼る微細針=マイクロニードル技術を用いた経皮吸収医薬品や化粧品などの開発に取り組む京都薬科大発ベンチャーの「コスメディ製薬」等がある。しかし、現存する大学発ベンチャー1851社のうち、化粧品や医薬部外品の事業化に取り組むベンチャー数は約20社とわずか0.8%に過ぎない。しかも、業績不振で大学発ベンチャーの設立数が減る傾向にある中で、化粧品等の事業化を目指す大学発ベンチャーの輩出は、楽観視できない状況にある。

#

↑