『ヌーヴェル・エステティック』日本版リニューアル新装刊記念特別企画
Japan-France『NouvellesEsthétiques』座談会
今回は、『ヌーヴェル・エステティック』の歴史、リニューアルした『ヌーヴェル・エステティック』日本版の今後を含め、日仏両国のエステティックの現状と今後について、LesNouvellesEsthetiques社会長 Michèle de LATTRE氏、ヌーヴェル・エステティックフランス版編集長 Laure JEANDEMANGE氏、株式会社トゥールビオン代表取締役 森柾秀美氏、株式会社美容経済新聞社代表取締役 花上哲太郎の4名で座談会を開催しました。その内容を抜粋してご紹介します。
エステティック業界を牽引する『ヌーヴェル・エステティック』の歴史
花上:本日は、お忙しい中、ご出席ありがとうございます。2025年より、『ヌーヴェル・エステティック』日本版を発行することになりました美容経済新聞社の花上です。リニューアル新装刊に向け、皆さまには多大なご協力を賜り、誠にありがとうございます。
Michèle:リニューアル新装刊、おめでとうございます。我々も、『ヌーヴェル・エステティック』を世界中に展開することができて嬉しいですし、日本でも発行されていることを誇りに思っています。
花上:本日は、LesNouvellesEsthétiques社とヌーヴェル・エステティック誌の歴史について教えて頂き、現在、そして今後の美容業界についてご意見を聞かせて頂きたいと思っています。
Michèle:では、資料を交えてご説明していきます。
『ヌーヴェル・エステティック』の歴史は、イタリアの青年・ピエンラントーニが、フランスでひとりのエステティシャンと出会ったことから始まりました。文学・法律・医学を学んでいたピエンラントーニは、彼女を通してエステティックが「女性に美と安らぎをもたらすこと」を知り、1952年1月、エステティシャンのための雑誌『ヌーヴェルエステティック』を創刊します。当時は、4ページしかない白黒のタブロイド判で雑誌とは名ばかり。エステティシャンという職業も、得体の知れぬものとして、各界から非難される存在でした。
そこで、ピエンラントーニは、誌面で「エステティシャンよ、決して負けるな」「エステティシャンという職業を認めよ」などと題した記事を掲載し、エステティシャンを擁護すると同時に、エステティシャンの知識や技術の向上、内面的な成長を促しました。
エステティックを科学的にとらえ技術力を高め結果を出すこと
Michèle:エステティシャンのために情報を発信し続ける中、当時、力を入れたのは裏付けのあるデータを掲載し、エステティックを科学的にとらえることでした。一貫した姿勢は、時間と共に読者の信頼を勝ち得ていき、フランスで発刊した『ヌーヴェル・エステティック』は、ピエンラントーニの祖国イタリアでも発刊されました。その後、スペイン、ギリシャなどでも創刊され、日本では1995年に創刊。「エステティシャンの技術向上への貢献」を使命に、今では世界20ヵ国で発売されています。
さらに、毎年、フランスで開催される「ヌーヴェルエステティック世界大会」では、多くの人々が技術を披露し、解説をし、多くの企業の新商品の展示やデモンストレーションを行いエステティック業界の向上に貢献しています。
第一回大会の参加者はわずか50名ほどでしたが、繰り返し開催することで知名度があがり、参加者が増え、今ではメインステージで技術を披露することが、世界中のエステティシャンの憧れとなっています。
森柾:私が初めてフランスのコングレに行ったのは、1988年でした。エステティックの本場で開催される大会を肌で感じたい、見てみたいという思いで一般入場者として訪れました。雑誌があり、そこから情報を得る事、コングレに直接足を運び、メーカーさんと直接話をして納入業者を検討できる。この両輪があったから、毎年多くのエステティシャンが会場に足を運んできたのではないでしょうか? 初参加以降、毎年通い続けています。
Michèle:現在では、毎年セミナーを担当して頂き、講師としての参加となっていますよね。
森柾:本場のコングレを見てみたいと思ってパリに行き、一度でいいからステージに立ってみたいと憧れました。しかし、本当にステージに立てる日が来るとは……。
Laure:森柾先生のセミナーは、常に満員で人気No.1です。
森柾:ありがとうございます。とても嬉しいです。本場の展示パリの地を訪れ、この25年位は、講習を行うために毎年パリを訪れています。直近では2024年12月に渡仏しましたが、それが121回目の渡仏となりました。
Laure:それは、凄い!!
森柾:技術講習では、世界各国のエステティシャンの方と触れ合わせて頂いています。最近は若い方が多く、とても熱心で、将来この仕事で生きていこうという熱い思いを感じます。
花上:今後の美容業界を担って行く方たちが熱心に学ばれているのは心強いですね。
Michèle:そうですね。まさに、ピエンラントーニが目指した『ヌーヴェル・エステティック』の役割を実現できているということですね。
日本とフランス美容ケアの共通点、相違点とは?
花上:現在、日本のビューティビジネスは、エステティックと美容医療の競争が熾烈ですが、フランスではいかがですか?
Michèle:フランスでは美容医療とエステティックの競争はありません。医療は広告が禁止されていますし、フランスの女性の多くは、医療を受けて痛い思いをするケアをしようとは考えません。根本的に美容医療に反対という考え方を持っている女性も多く、これらの人はエステティックサロンに通っています。美容医療の失敗を恐れている人も多いです。
Laure:日本では美容医療の広告を出すことは可能ですか?
森柾:可能です。テレビ、SNS等で美容の専門家が出演する場合、近年は美容医療に携わる医師が出演することが増えてきています。
Michèle:医療エステティックと美容外科の境が、だんだんと曖昧になっていますが、我々は医療の診療所内で、エステティシャンが施術を行う医療エステティックと美容外科を混同してはいけないと思います。日本では、美容医療とエステティックの境界はありますか?
花上:提供する内容としては全く違いますが、結果を求めるお客さまの関心が、エステティックから美容医療の方にシフトする傾向にあるとは思います。
Michèle:現在、フランスでは、医師がサロンを開業して、医師はボトックス、ヒアルロン酸などの注入を、エステティシャンが施術を行うという、医師とエスティシャンが共に施術を行うスタイルの医療エステティックが流行しているのですが、日本ではこのような業態はありますか?
森柾:日本でも増えてきています。
今までは、美容医療とエステティックは分かれていました。ところが、美容医療では注射をする、糸を入れるなどの施術を行えば終了です。その後もビジネスをするためには、エステティックを一緒に受けられるようにし、化粧品も販売するという業態にしてお客さまが通い続ける必要性を持たせるところが増えてきています。また、医療エステティックのような業態をとる店舗が増えている理由として、医療側が、エステティックを吸収する形で広がっていること。美容医療の競争が激しく、金額が安価になってきているため、一般の方が美容医療を受けやすくなっていることが挙げられます。現在は、お客さまが美容医療とエステティックの境界を感じずに、受けたい施術を選ばれているように思います。
花上:日本のエステティックに来るお客さまからは結果を求められます。フランスのお客さまはいかがですか?
Laure:ウェルビーイングであろうと、スキンケアであろうと結果を求められます。最近フランスでは、ロボットマッサージ機がでてきて、ロボットが腕でマッサージをしてくれるのですが、これは大変好評です。
Michèle:現代のエステティックサロンでは、有名ブランドの粧材を扱っても成功が約束されているわけではなく、何かに特化することが重要となっています。テクノロジーがあるサロンは成功していますし、最先端のブランド(コスメ)を使用することで特化した施術を提供できることが、サロン成功のカギとなるようです。
今後の美容業界の成長の可能性を考える
花上:最後に、これからの美容業界の成長の可能性についてのお考えをお聞かせください。
Michèle:私は、世界中の多くの女性がより長く、より若く美しくあるためにするケアについて関心を持っていくと思っています。そんな中で、エステティックサロンは、より近代化(進化)していかなければならないと思います。どのような技術を提供できるか、どのように結果がでるかといったことをきちんと、広報する必要があります。
ビジネス面では、個人サロンのエステティシャンは経営者でありますが、フランスのエステティックスクールでは、企業経営については教えませんから、個人で学ぶことが必要です。現在、ネイル、アイラッシュ、アイブロー、フェイスケア、ボディケアと、何でもするエステティックサロンは支持されません。お客さまを獲得したいなら、何か特化したもの、ここでしか受けられない独自性を持つべきだと思います。
森柾:それは、日本も同様ですね。
Laure:数年前、『ヌーヴェル・エステティック』で何千人もの女性に「ご自身を美しいと思いますか?」と質問する調査を行ったところ、これに「イエス」と回答したのはわずか2%でした。この結果からも、美しさを求める女性たちに向けて、私たちには成すべき事が多くあると考えます。
森柾:私は、初めてフランスに行った頃、日本とフランスのエステティックは全然違うと感じていました。当時の日本のエステティックは、大人が通う場所というよりも、働く人が高額ローンを組んで通う場所でした。大手サロンと呼ばれるところが主でしたが、私はフランスのエステティックを肌で感じた経験から、地に足の着いたサロンが生き残るのだと考えていました。現在は、日本もその方向に進んできていますし、本日のお話を伺い、今は日本とフランスのエステティックが非常に近い状態だと感じました。
花上:本日は、皆さまの貴重なご意見を伺えました。『ヌーヴェル・エステティック』日本版は、これまで業界誌として発行されていましたが、今後は、一般誌として、技術者向けだけではなく、美容・健康に興味関心が高い人々にお届けしていきたいと考えております。今後とも、さまざまな情報交換を行い、美容業界の成長の一助となる活動を行っていければと思います。ありがとうございました。
森柾 秀美(もりまさ・ひでみ)/Esthetic MORIMASA 学院長、株式会社トゥールビオン 代表取締役、フランスシャンブルドメチエ(手技術商工会議所)講師、フランス ヌーヴェルエステティック講師