埼玉小江戸漢方カンファレンス、精神科とフレイルの漢方治療を解説

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2016.10.11

編集部

川越市医師会と同市薬剤師会の学術講演会「埼玉小江戸漢方カンファレンス2016秋」がこのほど、埼玉県内で開催され、東京女子医科大学 東医療センター精神科 教授の山田和男氏が「精神科領域における漢方治療の実際」について、鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 心身内科学分野 教授の乾明夫氏が「フレイルと漢方」についてそれぞれ講演した。

「精神科領域における漢方治療の実際」では、山田氏が「軽症の全般不安症や“身体症状症”に対しては、漢方薬単独での治療が奏功することが多い」と指摘し、精神科外来において患者も漢方薬による治療を希望することが多いとした。

身体症状症とは、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)-5により診断基準が示されている比較的新しい病名で、臨床検査を行っても症状を説明できる所見がない上、ほかの精神疾患の診断基準に当てはまらないものをいい、以前は神経症、自律神経失調症、病名の頭に神経性・心因性などがつく病気のことを指していた。

これまで身体症状症には、ベンゾジアゼピン系薬剤などのGABA-A受容体作動薬が使われてきたが、臨床用量依存症に悩む患者が少なくなかった。そこで、代わりに漢方薬を使えば「GABA-A受容体作動薬に見られる有害作用をきたす可能性はほとんどない」(山田氏)。

各種身体症状症に対する具体的な処方例として、胃部不快感に六君子湯など、慢性倦怠感に補中益気湯など、咽頭部異物感に半夏厚朴湯など、多愁訴に加味逍遥散などを挙げ、「身体症状症の治療に際して、心理・社会的アプローチを増強するツールとなりうる」(山田氏)と漢方薬の有用性を強調した。

このほか、両側前腕の疼痛とこわばりに悩む60代後半の女性患者に対して、焦燥感が強いことや腹診による所見から抑肝散加陳皮半夏を処方したところ、症状が寛解したという症例も報告した。

一方、「フレイルと漢方」については、人参養栄湯のフレイルに対する有用性が示された。フレイルとは、定義に若干違いがあるものの、体重減少、疲労感、活動度の減少、身体機能の減弱、筋力の低下の5項目中3項目以上該当する症状のこと。肥満、糖尿病、慢性肝疾患などが基礎疾患となる。80歳を超えると有症率が高く、病態が進展すると要介護状態となるため、高齢化社会を迎えた現代ではその予防・治療が大きな課題となっている。

フレイルの治療には、食事療法、運動療法、生活習慣の改善が重要。高齢者のフレイルは、様々な疾患を伴うことから補剤の漢方薬に期待が寄せられている。そこで乾氏は人参養栄湯に着目し、研究を重ねている。人参養栄湯はもともと、病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、顔色や皮膚につやがない、かさかさして潤いがない、四肢のしびれなど気血両虚を補う代表処方。

近年の臨床研究によると、多発性骨髄腫のメルファラン治療効果の増強(全身倦怠感の軽減)、シェーグレン症候群患者の疲労感・食欲不振、骨粗鬆症患者の貧血、嗅覚障害、男性不妊、健忘、抑うつなどのさまざまな改善効果が報告されている。中でも乾氏が注目しているのはアンチエイジング効果。人参養栄湯が健康寿命の延長につながるとして、その作用機序の研究をさらに深めていくと強調した。

参考リンク
埼玉小江戸漢方カンファレンス
川越市医師会
川越市薬剤師会

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