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ホテルスパ経営に欠かせない財務とマーケティングの監査活用



スパをどのように発展させるべきかを考えて、多くの疑問を抱き、時に不適切な判断を下してしまうよりも、まずは財務・マーケティング・商業的観点からの監査を実施することをお勧めします。そうすることで、自分たちの現状を明確に把握することができます。利益や損失の状況、予想以上にうまくいっている点、そして改善できる点を正しく認識できるのです。

監査で重要な財務とマーケティングの分析ポイント

スパ監査とは、施設の運営・財務・戦略に関わるあらゆる側面を総合的に分析するものです。単なる覆面調査によって、顧客体験に関するチェックリストを得るだけで、実際の数値データが欠落しているといったものではありません。監査を本当に有益で実行力のあるものとするためには、次のような項目が含まれていなければなりません。

収益性の分析

  • 主要な数値の調査(総売上、人件費、リネン費用、消耗品、電気・水道などのエネルギーコスト)。
  • 売上の内訳と収益構造の分析(施術、商品販売、会員契約やスパ利用料の比率)。
  • 市場基準との比較により、注視すべき課題や改善のための手がかりを特定。

組織と生産性

  • 施術室および施術者の稼働率、活用が不十分な時間帯の分析。
  • セラピストのスケジュールに組まれているにもかかわらず、予約されていない時間帯を把握し、機会損失や潜在的な売上減少を特定。
  • 勤務スケジュールを監査し、チーム内の業務配分を最適化するための提案を行う。

サービス提供と販売戦略

施術メニューのポジショニング評価、そして現状の顧客層(宿泊客・外部顧客)との整合性を確認。さらに、現時点で取り込んでいる顧客だけでなく、今後新たに惹きつけたい顧客層に対しても適切であるかを検討。

  • 最も収益性の高い施術と低い施術、さらに需要の高い施術と低い施術を特定し、不必要な研修や商品在庫を維持することを避ける。
  • 現在最も需要の高い施術に基づき、顧客の定着を高めるために導入すべきパッケージや会員制度について提案する。

コミュニケーションと予約ツールの効果

活用しているマーケティング媒体(主にウェブサイトやSNS)を分析し、可能であれば数値データに基づいて効果を評価する。

  • 予約システムや顧客とのコミュニケーションチャネル(スパ公式サイトでのオンライン予約、または電話での直接予約)の評価。
  • 新規顧客を獲得し、初回施術予約へとつなげるために活用しているコンテンツ戦略の分析。

インフラと設備の診断

  • 施術室や設備(マッサージベッド、ハマム、サウナなど)の状態を確認。
  • 快適性や顧客が感じる品質を高めるために必要な投資を特定。

スパの物語性とホテルのストーリーテリングとの一貫性

この要素は数値では測定できませんが、顧客体験を差別化し、スパサービスの価値認識を高める上で重要です。これらの要素を個別に、また相互に関連付けて分析することで、経営判断に直結する明確な示唆を得ることができます。

監査結果を活かした経営改善の実践方法

この監査により、スパの現状を正確に把握し、改善の方向性を明確にすることができます。具体的には以下のような成果を得られます。

強みと弱みの特定

何が予想以上にうまく機能しているのか、また逆にどの部分に問題があり、早急に対応が必要なのかを把握できます。

収益性の評価と改善策の特定

売上を人件費、リネン費用、消耗品、エネルギーコスト、さらには季節スタッフの宿泊費などすべての費用と照らし合わせることで、正しい方向に進んでいるのか、あるいは価格改定、不採算サービスの削除、人件費削減といった迅速な意思決定が必要なのかを判断できます。

次の投資計画の準備

数値データに基づいて、合理的かつ根拠のある判断を行うことができます。

  • 施術者が常に稼働しており予約を断り続けている場合は、新しい施術室の設置。
  • 施術者の稼働率が低く収益性を妨げている場合は、チーム体制の再編。
  • 季節営業のホテルを年間を通じたウェルネス目的地へと発展させるための拡張計画。
  • ホテルのストーリーテリングを拡張し、顧客体験全体を豊かにする、または新たな競合に対抗するために市場での提供価値を再定義する。

監査を適切に実施すれば、財務・マーケティング・商業面からのスパ監査は、経営陣や投資家に対し製品開発への投資必要性を説得する有効な意思決定ツールとなります。さらに、数値を裏付けとして、ウェルネス分野が宿泊やレストランと同様に「収益を生み出す重要な柱」として位置付けられることを示す手段にもなります。理想的には、スパ事業に本格的に取り組むと決めた時点で、最初に実施すべき行動がこの監査なのです。

監査で押さえるべき重要なポイント

残念ながら、ウェルネス業界全般、特にスパ分野は「数値文化」が根付いているとは言えません。多くのホテル経営者はいまだに「スパは利益を生み出せない」と考えており、スパマネージャーに数値目標を設定しないケースが多いのです。そのため、スパマネージャーは数年間も数値に関する知識を習得せずに業務を続けてしまうことがあります。しかし、スパは人件費や設備投資が非常に大きい分野であり、定期的な指標管理や監査を行わないのは大きな問題です。現状では、このような状況がいまだによく見られ、監査の実施を複雑にしているのが実態です。ここでは、必ず押さえておくべき三つの重要なポイントをご紹介します。

1. 必ず数値データを回収し、曖昧な推測に頼らない

高度な管理ソフトを利用している場合

近年、一部のスパ管理ソフトは非常に詳細な数値データを提供してくれます。ただし、活用する前に正しいデータが収集されているか確認することが不可欠です。ホテルのPMSと連動していれば、非常に包括的なデータベースを利用できます。抽出時には必要な項目にすべてチェックを入れるようサポート担当者に相談しましょう。唯一の難点はデータ量が膨大で、抽出前に項目選択を行う必要があるため、ツールに精通していることが前提となる点です。

シンプルな管理ソフトを利用している場合

Googleカレンダーや簡易的なスパ用ソフト(PMSとの連動なし)を使用している場合は、Excelで独自のファイルを作成するのが有効です。顧客名を縦軸、施術メニューや分析項目(宿泊客か否か、再予約かどうかなど)を横軸に設定し、数式を組み込むことで必要な数値を短時間で算出できます。多少の手間はかかりますが、日々自分で入力することで指標への理解も深まり、分析を始める前から全体像を把握できる利点があります。

いずれの場合も、「なんとなくの感覚」や「スパだから誤差があっても構わない」といった姿勢で臨んではいけません。

2. 財務部門のコントローラーに監査を任せない

スパマネージャーやスパディレクターの中には、収集した数値を財務部門に渡し、そこで公式な数値を分析・報告してもらうという体制を取っている人もいます。しかし、これは大きな誤りです。なぜなら、スパは独自の指標や業務プロセスを持つ特別な領域だからです。

スパが特別な領域である理由

例えば、マッサージでは施術者が1時間まるごと専念しますが、レストランのスタッフは同時に複数のテーブルを担当できます。収益性の比較は明らかに異なり、この違いはスパの専門家には当然でも、ホテルの財務担当者には理解されないことが多いのです。そのため、スパ側が主導しなければ「スパは利益を生まない」という誤った認識が広まってしまい、ホテルの主要な提供価値から外されてしまうリスクがあります。

3. 数値に不慣れなスパマネージャーだけに任せない

誰しも不得意を認めるのは難しいものです。現状では、スパマネージャー養成課程において数値管理や指標分析の教育が十分に行われていません。そのため、多くのスパマネージャーはホテル経営の知識やビジネス指標の構築・分析力を欠いており、投資を促す提案(新設備の導入、新規スタッフ採用、新しい施術室の設置など)を行う力が不足しています。

スパマネージャーを監査でどう支援するか

このような場合は、外部のコンサルタントを招くことを検討すべきです。専門的知見に基づく中立的な監査を行うだけでなく、スパマネージャーに数値管理の重要性を伝え、今後は内部で監査を行えるように育成する役割も果たしてくれます。さらに、外部の専門家による監査結果は、経営陣や投資家にとってより信頼性の高い材料となる可能性が高いのです。

市場競争と投資判断に活かすスパ監査の重要性

こうした監査を実施することで、スパの収益性を明確にし、必要に応じて最適化を図ることができます。問題点を修正し、懸念される指標を監視する仕組みを整えることが可能になります。例えば、数週間にわたって施術需要が減少している場合、チーム体制の調整が必要かどうかを判断できます。

さらに、監査結果を経営陣に正しく伝えれば、単なる数値分析にとどまらず、地域競合や市場動向を把握し、新たな投資や市場再ポジショニング、あるいは独自のストーリーテリング戦略に基づいた対応を検討する助けにもなります。では、あなたのホテルスパで最初の監査を始める準備は整っているのではないでしょうか。


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FLORENCE KOWALSKI

FLORENCE KOWALSKI

ウェルネス・コンサルタント

フランス雑誌「Les Nouvelles Esthétiques」の寄稿者であり、ウェルネス分野のコンサルタントとして活躍しています。ウェルネスやコスメティクス分野のウェブ記事編集者でもあり、美容分野でCAP資格やBTS資格を取得後、ホテルスパ業界の発展を目指してマーケティングと経営のコンサルタント会社「Spaboosting」を設立しました。顧客エクスペリエンスの向上や収益性の確保を目的とした手法を開発し、スパ収益性のエキスパートとして高く評価されています。

  1. ホテルスパ経営に欠かせない財務とマーケティングの監査活用

  2. フランス出身マネージャーが語るスイス美容業界での働き方と魅力海外スパでのキャリア

  3. パレスホテルのスパ運営―経営戦略とマネジメントの実践

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