メディカルツーリズム、政府が2020年市場規模約5500億円と予想
2013.08.6
編集部
医療機関と旅行会社が提携して外国人旅行者に人間ドッグや整形、医療手術などを施し、合わせて観光サービスも採り入れた滞在型医療・観光サービス事業「メディカルツーリズム」に参入する動きが顕著だ。国内医療ツーリズムの潜在需要について政府は、2020 年時点で年間43 万人、市場規模約5500 億円、経済波及効果約2800 億円と試算、新成長産業に位置付けたメディカルツーリズムに賭ける期待は大きい。
国内の病院でいち早く医療観光に取り組んだのは、千葉鴨川市の「亀田メディカルセンター」。2009年に国際的な信頼を保証するJCI(国際病院評価機構)の認証を国内で初めて取得し、メディカルツーリズムに乗り出している。
JCIは、米国の国際的な医療評価機関。現在、世界36ヵ国、約300の病院が認証されている。認証審査は、医療安全、感染管理、職員の資格確認、組織のリーダーシップなど350の評価基準にパスする必要があり世界の医療患者にとって病院選びの最低条件になっている。
同クリニックの1日の外来者数は、3000人と国内最大規模。JCIの認定効果が大きいことを物語る。
全国の自治体の中でいち早く医療観光に取り組んだのが徳島県。中国人向けに糖尿病検査ツアーを大手旅行会社の日本旅行と組んで実施した。県内の大学病院と提携して全身を一度で診療・診断できる陽電子放射断層撮影や徳島県産の海藻を使った低カロリー食品、うず潮観光などをセットで提供している。
警備大手のセコムは、世界80ヵ国から医療旅行客を受け入れている米クリーブランド・クリニック(オハイオ州)と提携。国内病院の医師や職員を同クリニックに派遣して海外の患者を受け入れる際のチーム医療や海外の富裕層との接し方、ビザや保険などの手続き代行などについて研修。提携医療機関の千葉県松戸市の病院が富裕層向け病棟を建設し、海外患者の受け入れを始めた。
南海電気鉄道は、脳外科手術で豊富な経験のある富永病院、心臓手術に定評のある岸和田病院など沿線の医療機関と提携し事業に参入した。
子会社の南海国際旅行が韓国や中国の旅行会社向けに「予防医療健診ツアー」を売り出し、海外患者の受け入れ強化に走っている。
JTB は、会員制リゾート運営のリゾートトラストと組んで事業に参入した。JTB が中国やロシアの提携旅行会社を通じて利用者を募集。リゾートトラストが経営コンサルを手掛ける医療機関で検査サービスを提供。
近畿日本ツーリストは、観光メディカルプロジェクトチームを発足。陽電子放射断層撮影装置(PET)を利用する健康診断ツアーを中国、ロシア、中近東向けの富裕層向けに販売している。
このようにメディカルツーリズムの進出は、旅行会社や医療向けコンサル会社が主力事業に付加価値を付ける狙いで参入したもの。メディカルツーリズムの先進国タイやシンガポールなどが国策で行っているのとは一線を課す。
政府は、メディカルツーリズムを新成長産業に位置付け日本の高騰する医療費を外貨で稼ぐメディカルツーリズムに期待する。しかし、「中央と地方」や「官と民」の密接な連携が不可欠であり患者を受け入れるJCI(国際病院評価機構)認定の医療機関が極端に少ない。また、受け入れ体制や日本の高度医療のPR不足などの課題も抱える。
医療ツーリズムは、行政と民間が一体化して事業を推進する必要があり日本独自の高度医療技術を生かした医療・観光を組み合せた官民プロジェクトの立ち上げが期待される。