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未来の「@cosme」も、ユーザーとブランドが出会う場に|@COSME ・吉松徹郎氏 インタビュー



いまAIが世の中を大きく変えようとしています。ちょうど25年前にBeauty×ITで@cosmeが登場した頃に似 た空気感が漂っていたりと、新しい時代は期待と不安でいっぱいです。1999年、株式会社アイスタイルは、 @cosmeを立ち上げ、以来、国内化粧品・美容産業をけん引し続けています。同社代表取締役会長 兼 CEO の吉松徹郎氏は、当時何を考え何処を目指し、そしていま、日本の美容にどんな未来を描いているのでしょ う。「未来の美容産業、未来の@cosme」についてお話しを伺いました。

ビューティーはきっと日本の未来を担う成長産業になる!」

 会社を始めた25年前は、まだまだ雑誌が強くてインター ネットをメディアとは呼べない時代でした。その頃に感じてい たのは、化粧品選びには「口コミ」が大事とされていたのに、「ユーザーの声がブランドやメーカーに全く届いていないの では⁈」ということ。大きな問題だと思いました。そこで、 @cosmeは、「本当の使用感をどうシェアするか」の課題解決 からスタートしたのです。しかし単なる口コミサイトを作って も面白くない。どうやってビジネスにしていくのかを考えました。商品の使用感コメントは実際に使って初めて書けるものです。それまでブランドはそのデータをお客さまから採りたくても採れなかったのです。そこであらゆるブランドやメーカーの口コミデータを集めて、商品に関する書き込みを誰でもみることができるプラットフォームなら絶対支持されるはずと考えました。私たちが追い求めていたのは、いかにユーザーと メーカー、ブランドを、しっかりとつなぐかでした。WEBをスタートさせ、ECをやり、店舗展開へと進んできましたが、どのシーンにおいてもその考えは変わらないままです。

 こうして深く業界に関わっていくにつれ、美容産業はとてつもなく大きな可能性があると感じていました。化粧品だけでもメイクアップに留まらず、スキンケア、エイジングケアへと広がっていきます。しかも、コラーゲンドリンクのようなインナーケアアイテムを食品ブランドが展開したり、クリニック系のブランドがドラッグストアで展開するような商品を発売するなど想定もしなかった製品が次々登場してくるようにもなっていました。それらの動きを見ていると、例え少子高齢化の時代といわれても、必ず「ビューティー」は日本の未来を担う成長産業になると思えました。

 ところが、目の前の現実は厳しいものでした。@cosmeがスタートした頃は、人気女性誌が40万~50万部売る時代。 @cosmeがいったいどれくらいにリーチすれば業界に対してインパクトを与えるかと考え、まず100万人を目標にしました が、実際に100万人を超え、さらに200万人を超えてもブランドからの言葉は冷ややかでした。「@cosmeでどんなに評判になっても、その商品が売れるとは限らない」と。後に分かったのは、ブランドにとって一番大事なのはやはり小売で、その小売が仕入れでもっとも重要視するのは、営業マンからの情報とテレビCMの露出量だったのです。結局@cosmeの情報は、 ブランドからは相手にされません。このままでは、ネットでただ人気というだけで、流通に影響力を持つことはできません。

「これができたら業界が大きく変わる」と実店舗展開へ

@cosme東京

 思い切って行動に移した、@cosmeのデータを使う卸売最大手への新事業案や、小売店への@cosmeのランキング棚を作る提案も、全く上手くいきませんでした。だったらいっそ、@cosmeで集めたデータによるロジックで仕入れをする店を作ってしまおうと動いたのです。「これができたら業界が大きく変わる」、そんな熱い思いを込めて準備を進め、2007年、ついに新宿に自分たちの実店舗『@cosme STORE』をオープンさせました。

 最初は、通販でしか買えない商品やデパートでしか買えない商品も店頭にテスターを並べました。もちろんこれらの商品は@cosmeSTOREでは売れませんが、それを見たお客さまには、「ネットやデパートに行けばお買い求めできますよ」とご案内する、そんな店のカタチです。ところがこれは普通の小売店の常識ではあり得ないことらしく、「その場で買えないなら在庫切れと同じだ」と業界では低評価。でも私たちの考え は逆で、@cosme STOREをお客さまにとって「商品に最初に出会う店」にしたかったのです。店頭の仕入れ原価と在庫の回転率に加え、接触頻度にも注目しました。つまり、何人来てコンバージョンがどれくらいか。普通、ネットだとせいぜい1% もないのですが、@cosme STOREでは20%の人に買ってもらえました。ところが通常、小売店では店に来てもらえるなら 50%~60%が当たり前らしく、20%だとお客さまに見合う商品がなかったと判断して、もっと品ぞろえを良くしなければいけない数字だそうです。私たちは例え80%の人たちに買って もらわなくても問題ない。まずはここに来ていただき、商品と出会い、購入の参考にしていただくことこそが重要で、その結果20%の人が買ってくれれば良いと考え、方針を変えることはありませんでした。

「美」を入り口に暮らしにもっと深くリーチする

 20代で会社を始めた私も今では50代ですし、少子高齢化の中でも間違いなく美容年齢は上がってきたと感じています。ライフスタイルも考え方も多様です。明らかに化粧品メーカーは化粧品というプロダクトを売るだけでは限界が来ます。これからは、その人が美しくイキイキと生きるためのサービスやサポートへと広がっていくのだろうと思います。

 外資系の高級ブランドの表参道のブティックがリニューアルされ、コスメとファッションを融合させた売り場になりました。別の外資系の高級ブランドは、香水だけでなくリップバームを手掛けています。これらが意味するものは、化粧品はラグジュアリーブランドの世界観を体験するためのエントリーという位置づけなのです。その先にはアップサイドがあって、10 万、50万、100万円と、より高級な商品を購入していただく入口になっている。そう考えると日本の化粧品メーカーにも、このような先のステージがあってもいいですね。食品業界もインナーコスメへと進んでいます。いろいろなジャンルとのコラボレーションも増えるでしょう。私たちの新ブランド 「@cosme+」(アットコスメプラス)でも、飲むセラミドをご提供したのを手始めに、今後は他社の化粧水と連携することもあると考えています。また美容クリニックでも施術だけでなく、顧客との長い関係を考え、LTV(顧客生涯価値)を上げるためにクリームやサプリメントを作り始めています。このように、化粧品は事業を拡大するさまざまな可能性を秘めているのです。

店舗はブランドの世界観を体験する場

 その視点から、私たちの店舗は単なる化粧品売り場ではなく、各ブランドの世界観を広げるためのエントリーモデルを体験する場だと考えられます。ドラッグストアやデパートでは 難しかったことが、私たちの自由なスペースで展開することで、「あっ、こんな世界観があったのか」とセレンディピティな出会いにつながると期待しています。例えば美容クリニックのドクターズコスメを@cosme STOREで体験して関心を持ち、 実際にその美容クリニックに行ってみたいと思うかもしれない。ただ商品を売るだけではなく、その世界観を知っていただく入口として機能していることが重要なのでしょう。

 今は男性の分野に活気があって楽しくて、原宿の店が入りやすいこともあってか、男性2人で来たりします。YouTubeや 各種SNSを見てもらうと、メンズコスメに興味のある人たちがお店でいろいろと手に取って見ている動画がたくさんアップされています。デパートにはまだなんとなく行きづらいし、ドラッグストアだと長い時間は楽しめる気がしないのか、今、 @cosmeは男性ユーザーの入口になっています。原宿店で 「男性はオープン1時間前から自由に来ていいですよ」と、美容の相談会みたいな機会を設けようかと考えているところです。ここでは別に商品を買ってくれなくてもよくて、いろいろな 商品を体験しに来てくれるだけでも十分面白いと思うのです。でも、そこでいいなと感じたら、別の機会で買ってくれるでしょう。原宿という場所で入口体験をやると、なかなか化粧品が買えなかった地方に住む男の子が、「東京に行ったら絶対に原宿の@cosme STOREに行きたい」と思うでしょう。

「AIありき」の時代に起きる変化とチャンス

 これからの将来一番大きな変化となるのは、「AIネイティブ」がど真ん中に来るということです。例えば、英語を調べるのに「検索する」ではなく「AIに聞く」に変わってきたように、 今10歳の子たちが25歳になる頃には、彼らは当たり前のように使いこなしているでしょう。商品を認知させるには、今まで はいかに検索エンジンに出てくるかが大事でしたが、これからはAIに出てないと探してもらえない!もっと言えば、そこから WEBサイトに飛ぶ必要もないので、これまでのページビューやユニークユーザー数をベースにしたビジネスは成り立たなくなっていくでしょう。すぐに完全に無くなりはしないでしょうが。そのことを前提に、今度はどういう方法でユーザーとブランドをつないでいくのかを再設計する時期に差し掛かってい るのだと思います。

 最近「Metaグラス」のような「スマートグラス」が話題になっていますが、以前出たものと違って、スマホの情報を眼鏡のレンズに見せるのでなく、今は何かを検索したら音声で 教えてくれるので、画面を見なくてもよくなっています。今後は「見ない」という文化が思った以上に加速しそうに思います。「オーディブル」の利用者が増えているそうです。私の周りにもオーディブルで本を聴く人がたくさんいて、ビックリします。本は「読む」ではなく「聴く」時代なのです。

 売る能力が最も高い美容部員の接客動画を見せれば、他の部員も急に売れるようになるのだそうです。これを「聴く」への変化を考慮し、私たちのビジネスに置き換えると、売れる美容部員の接客を音声データ化し、販売につながった美容部員の接客の方法や、参考になった音声データをどんどんAIに学ばせていけば、また違う次の世界が見えてきそうです。 @cosme STOREの店内で、商品の比較や使い方を端末に質問すると、美容部員が対応するような案内をAIが音声で伝えられたらいいですよね。AI美容部員という発想は、テキストではなく音声の展開まで考えていくことで、今後のお店の在りかたに随分と影響を及ぼすでしょう。

「推しビジネス×美容」というコラボにもチャンス

 これまで皆さんが想像するデータといえば「文字データ」だったと思います、これからは「音声データ」がキーになりそうなので、そこにも目を向けて取り組もうと考えています。ブランドが美容部員のAI化やオンライン化できたとしても、各ブランドを横断してどんな商品でも説明するのは困難です。そこに私たちの出番があるでしょう。

 2022年11月にChatGPTが誕生し、最近ではステラの人型ロボットOptimusにも注目しています。このたった2年の変化を考えると、10年後や15年後が大きく変わらないわけがなくて、未来を見据えて「新しい何で市場を動かすか」をひたすら考えています。もちろんどのアイデアに絞り込むのかも大切ですよね。未来に向かって私たちがやり続ける「売り場作り」 とは、つまりユーザーとブランドとの「接点作り」なのです。

 今後は異業種とのコラボの可能性もあるでしょう。新しい消費行動の傾向として、例えば化粧品だけはオーガニック素材の高価なものを使う、肌着だけはお金をかけてオーガニックコットンにするとか。でもそれ以外はチープなもので全く問題なし。本当に必要なものなら高価でも買うけれど、それ以外にはお金をかけない。そういう方たちへどうアプローチするか。バレリーナやダンサーなどのステージメイク用の化粧品として知られるチャコットの化粧品は、カバー力の強さで @cosmeをきっかけに人気が出ましたけれど、最初はコスプレイヤーの方たちから火がついて、そこから一般へと広がっていきました。他にもオタク文化の方々は「推し」に対してお金を使います。そういう方々とビューティーの括りを考えたら、 また違ったチャンスが見えてくるでしょう。さまざまなジャンル の切り口に着目することで、新しいコラボという出口が生まれ てくると思っています。今まではブランドに紐づいていた美容部員も、「推しの美容部員」が複数のブランドの商品を売るような、新しい無店舗販売チャネルも出てくるかもしれませんね。

「データ」×「店舗」でブランドとユーザーをしっかりつなぐ

 ブランドの方々は自分たちがどんなに売りたくても、小売店の棚に置いてもらえない限りは売れないのですから、小売店の立場は強くなっていました。ところが今は各ブランドが自分たちのお客さまデータを持ち、必要ならECなどでダイレクトに売っています。私たちがデータを重視したマーケティング に進んでいったように、ブランド側の取り組み方も変わってきました。メーカーがお客さまとの接点を持ち、私たちが持つデータの重要性を理解していただけるようになったことで、 お互いにさまざまな取り組みができるようになりました。

 実は今になって、私がスタート時に一人でやっていた状態に似てきたと不思議な感じがしています。最初の頃は@cosme のデータを使ってコンサルティングをしていました。ところが、関わるブランドが増え、人も増え会社が大きくなるにつれて、次第に広告ビジネスもあり、ECもやり、店舗も始めると、コンサルティング業務に手が回らなくなったのです。しかし、時がたってさらに多くの情報を蓄積してきたことで、想定していたデータが次々とつながり始めました。これまで時間をかけてきたからこそ、改めて「こんなご提案ができます」と言える状態が訪れま した。当時はやれることが限られていましたが、今ならもっと適切なデータを示せますし、それを活用するブランド側の環境も整っています。ようやく複雑で高度な意思決定に参加できるレベルに達した実感が得られたため、今回データドリブンソリューション事業の新しいチームを作り、アイスタイルデータコンサルティング株式会社を設立しました。

「最初に商品に出会える」店にこそ意味がある

@cosme名古屋

 6月にオープンした名古屋の新旗艦店でも、商品を選ぶときに実際に使用したユーザーからの口コミ情報が見られるなど、基本は不変です。一般商品や通販商品だけでなく、これまで扱えなかったデパートコスメも一緒に並べられたのは、 旗艦1号店の原宿店が切り開いたからこそ。原宿を選んだ理由は、デパートのないエリアで多くのユーザーが集まる場所という条件に合致したためです。近隣にデパートがあるとデパートコスメは扱えないと言われましたが、私たちは7~8年かけて候補地を探し、「原宿!」と決断しました。その次に挑んだ大阪梅田でも、原宿店の成功実績を背景にブランド各社の協力を得て出店できました。さらに高島屋と組んだ名古屋店の出店は大きな意味を持ちます。ユーザーには変化が見えにくいかもしれませんが、3つの旗艦店は私たちの可能性を示す展開です。これまでの実績を踏まえ、さまざまなブランドが参画し、品揃えの幅も大きく広がりました。何より、ユーザーに喜びと多くの商品との出会いを提供できたと実感しています。

 ユーザーが求めるのは「ここに来れば全部の商品に出会える」店です。私たちは、ユーザーとブランドが出会うためにどんな場所をつくるべきか常に考えてきました。写真や動画撮影を禁じる店舗が多い中、@cosme STOREは撮影OK。 YouTuberが店舗内でコンテンツを制作できる設計にし、メーカーの理解も得ています。現代のユーザーは雑誌やテレビではなくSNSを見て情報を得るからです。

 開業準備中の香港店は年内オープン予定。国内店と同様、 ユーザーとブランドが出会えるパッケージを構築し、日本だけでなく韓国や中国のコスメを加えたアジアンな品揃えを展開します。日本未上陸の韓国コスメを多数取り扱い、アジア市場の変化に対応。どんなブランドが並ぶのか、私自身ワクワクしています。ここで「出会える」店のパッケージが完成すれば、世界でも戦えるでしょう。10年先、15年先の未来の @cosmeも、ユーザーとブランドが最初に出会う場であり続けたいと考えています。

株式会社アイスタイル代表取締役会長CEO吉松徹郎氏/1972年茨城県生まれ。東京理科大学基礎工学部生物工学科卒業後、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)入社。1999年にアイスタイルを設立。代表取締役社長に就任し、同年コスメ・美容の総合サイト@cosmeをオープン。2012年に東京証券取引所マザーズに上場させ、同年東京証券取引所一部への上場を果たす。2022年に代表取締役会長に就任、現在は代表取締役会長CEOを務める。その他にも公益社団法人経済同友会の幹事、公益財団法人アイスタイル芸術スポーツ振興財団の理事長も務める。


Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

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ヌーヴェル日本版 編集部(東京)…株式会社美容経済新聞社が、フランスLes Nouvelles Esthétiques社より国際的な美容ヘルスケア専門誌『Les Nouvelles Esthétiques』の日本版ライセンスを取得。東京編集部では独自の特集企画とフランス版翻訳記事をオンラインとオフラインで配信しています。

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