多くの小規模美容事業では、閑散期や売上が落ち込む時期が存在します。事業者自身もその時期を把握しているものの、多くの場合、それを受け入れる以外に手立てがない状況に陥りがちです。しかし、このようなジェットコースターのような収益変動を回避する方法があります。それが、継続型オファーを導入するという考え方です。本稿では、その具体的な進め方をご紹介します。
月額サブスクリプション、回数券、あるいはケアプログラムといった仕組みを導入することで、予約枠をあらかじめ確保しやすくなり、安定した収益の流れを構築できます。例えば、月初の段階でその月の予約件数やフォローすべき顧客数、そして見込まれる売上を把握できるとしたら、事業者にとっては大きな安心材料となるはずです。
ただし、ここで目指すのは、高額機器や大規模な人員体制を持つサロンのモデルをそのまま模倣することではありません。重要なのは、自宅向け美容サービスという事業形態に合わせて、継続型オファーをシンプルかつ現実的に取り入れる方法を検討することです。
執筆:Isabelle Benmansour
美容サービスが単発型から脱却すべき理由

Isabelle Benmansour (訪問型美容に特化したビジネスコーチ)
具体的な内容に進む前に、「サブスクリプション」や「集中ケア」という考え方がなぜ戦略的に重要なのかを整理しておきましょう。単発サービスだけに頼る営業モデルからの脱却が必要です。
財務の安定性
月末にならないと売上が分からない、という状況から解放されます。数週間から数か月のあいだ継続して利用してくれる顧客がいれば、最低限の売上を事前に把握できます。
予測しやすいスケジュール
スケジュールは整理され、無駄な空きがなくなり、効率よく組み立てられます。休暇も罪悪感なく計画できるようになります。
自然なかたちでの顧客ロイヤルティの向上
プログラム契約をした顧客は定期的に訪れ、信頼も深まり、支出額も増え、しばしばあなたを周囲に紹介してくれる存在になります。
専門家としてのポジショニング
“必要なときだけ単発で利用するサービス”から、“伴走型のオーダーメイドサポート”へと転換することで、あなたは単なる提供者ではなく、専門家として認識されやすくなります。
ここでは、これらの戦略をあなたの事業に取り入れるための、シンプルで効果的な四つのステップをご紹介します。
- 自分自身の制限的な思い込みを見直す。
- 継続型オファーの種類を選び、まずは最優先の目標に合うものから始める。
- 押しつけにならない販売方法を身につける。
- 自分の受け入れ可能なキャパシティを計算し、ブランドイメージを保つための余白を確保する。(成功しすぎて需要に対応しきれなくなる場合もあります。そのときに備えておくことが大切です。)
美容サービスの価値を高めるために必要なマインドセット
この移行を成功させるためには、単に紙の上でオファーを作成するだけでは不十分です。もう一つ欠かせない重要な要素があります。それが、あなた自身のマインドセットです。この考え方が、商業的な成功の半分を左右します。
なぜなら、すでにあなたの声が聞こえてくるからです。
「この不況では、顧客にお金の余裕なんてない」
「私のところで集中ケアに投資する人なんていない」
これらはすべて、耳元で囁く“制限的な思い込み”にすぎません。それは事実ではないのです。次の段階で、その理由を説明していきます。
美容ケアへの支出構造が変化する消費者動向
IFOP(2023年)の調査によると、フランス人女性の68%が、外見や心身の心地よさに関わる美容ケアを優先的な支出と考えています。不確実な時期であっても、自信につながるものには投資を続けているのです。
問題は価格ではなく「優先順位」
本当の問題は、顧客にお金の余裕がないことではありません。あなたの提供するサービスが、彼女たちにとって「優先すべきもの」と認識されていないことが原因です。
あなたが「近所の脱毛をしてくれる人」と思われている場合、それは“あってもなくても良い支出”になります。しかし「六週間で表情に若さを取り戻すサポートをしてくれる専門家」と認識されれば、その存在は“必要不可欠な解決策”になります。
売るべきは「施術」ではなく「結果」
景気が不安定な状況では、人々は購入前に慎重に検討します。使うお金は、生活必需(飲食、住まい)か、または優先度の高い二次的なニーズ(社会生活、心理的および身体的な心地よさなど)に当てられます。
美容に関わる分野は、この「二次的だが重要なニーズ」を満たす領域に入ります。つまり、外見に関する課題を解決し、自己イメージを向上させることで、内面の心地よさを高め、結果として社会生活の質の向上にもつながるという視点です。具体的には、深いシワ、ハリの低下、肌のくすみなどに対する改善、あるいはボディケアによる心地よさの向上などが該当します。
重要な点は、あなたが販売しているのは「施術時間」ではなく、「変化」だということです。そのために、すでによく知られている方法も含め、継続的な収益を生み出す複数の仕組みを構築できます。ここでは、その内容をさらに詳しく見ていきます。
自宅向けサービスに適した三つの継続型オファー

月額サブスクリプション
月額制のサブスクリプションは、もっとも導入しやすく、顧客にとっても安心感のある方式です。顧客は毎月一定額を支払うことで、定期的なケアを受けられるようになります。毎月同じメニューを選ぶこともできますし、あなたがあらかじめ用意したリストの中から、毎回好きなケアを選ぶ方式にしても良いでしょう。
魅力的なオファーにするために
オファーをより魅力的にするには、二つの方法があります。
- 月額料金に10〜15%の割引を設定する
- 通常料金のままにし、数か月に一度、自宅用のスキンケア商品をプレゼントする
いずれにしても、支払いはPayPalや銀行振込などによる自動引き落としにしておくと運用がスムーズです。
明確な契約書の準備を
ただし、条件設定は最初に明確にしておく必要があります。来店の有無にかかわらず引き落としが行われること、病気の場合の振替対応、顧客が来なかった場合の扱いなどを、契約書に記載しておきましょう。これは顧客とあなた双方を守り、トラブルを防ぐためにも重要です。
回数券型ケアプログラム
回数券方式は、非常にシンプルな仕組みです。 顧客があらかじめ一定数のケアを購入し、そのケアを指定期間内に受けていきます。例えば、6週間で6回のエイジングケア(480ユーロ)、その後は効果維持のための月1回のメンテナンスを追加する、といった構成です。
この方式のメリットは明確です。
- 契約時点でまとまった売上が発生する
- 顧客が複数週間にわたって確実に継続してくれる
- 月額制とは異なり、特定の課題を短期集中で解決することに焦点がある
ここでの目的は、月々の予算管理ではなく、顧客の明確な悩みを解決することにあります。
専門家としてのポジショニング
「その都度、必要なときだけ受ける単発メニュー」というモデルから、「一人一人に合わせて伴走しながら提案するオーダーメイドのサポート」というモデルへと切り替えることで、あなたは単なるサービス提供者ではなく、専門家としての位置づけを得やすくなります。
集中ケアパッケージ販売の戦略
集中ケアのパッケージは非常に収益性が高い一方で、販売にはより丁寧で戦略的なアプローチが必要になります。自然に売れていくものではありません。魅力が伝わるコミュニケーション、実績のある内容、そして何より明確なターゲット設定が欠かせません。さらに、潜在顧客の選別をしっかり行うことで、本気で変化を望んでいない人に時間を費やすことを避けられます。
集中ケアとパーソナライズドプログラム
集中ケアは、あらかじめ販売する標準化された集中的なパックで、実施期間やペースが決まっており、短期間で結果を出すことを目的とします。
一方、パーソナライズドプログラムは、肌の状態、季節、顧客の変化に合わせて調整しながら進める、オーダーメイド型のサポートです。具体的には、固定されたパックではなく、一人ひとりに合わせて組み立てる独自のプロトコルになります。例えば「サマー・ブライトネス プログラム」のように、三か月間にわたって毎月1回のケア、自宅用製品のアドバイス、必要に応じたホームケアの調整を行う形式が考えられます。
このスタイルは、あなたの専門性をより強く印象づけ、商品販売も促し、長期的な顧客ロイヤルティの構築につながります。 準備や説明には時間が必要ですが、うまく運用できれば、顧客満足と安定した収益の双方をかなえる強力な手段になります。
複数の方式を組み合わせて、安定した継続収益をつくる
この三つのモデルは競合するものではなく、むしろお互いを補い合う関係にあります。
月額サブスクリプションは、毎月の最低売上を支える安定基盤をつくります。集中ケアパッケージ(いわゆるケアの“セット”)は、短期間で売上と予約を大きく伸ばし、目に見える変化によってあなたの評価を高めます。パーソナライズドプログラムは、集中ケアで成果を実感した顧客を長期的に維持し、月ごとに寄り添うサポートによって継続利用につなげます。これらを組み合わせることで、非常にスムーズな収益構造が生まれます。
顧客は、まず緊急の悩み解決のために集中ケアを始め、続いてパーソナライズドプログラムで結果を維持し、最終的に月額サブスクリプションで無理のないルーティンを確立できます。その結果、売上を最大化しながら年間の収益を平準化できます。そして何より、単発のケアにとどまらない長期的な顧客関係を築くことができます。
安定収益を実現する継続型オファーの選び方と売り方

あなたが目指す優先事項は人によって異なります。早急な資金確保が必要な人、顧客の定着を強化したい人、より高価格帯のラインへ移行したい人など、目的によって選ぶべき継続型オファーは変わります。
早く売上を得たい場合
プリペイド式の集中ケアが最適です。1回または2回に分けた支払い、数週間で結果が見える構成が特徴です。
顧客を定着させたい場合
月額サブスクリプションが効果的です。毎月の固定額、定期的な予約、リマインド不要の仕組みで信頼を築けます。
高付加価値サービスへ移行したい場合
パーソナライズドプログラムが最適です。ケア、アドバイス、フォローまで一貫したオーダーメイドの提案により、あなたの専門性を明確に示せます。
どの方式を選んでも、次に必要なのは「押しつけにならない販売」です。それには、五つのステップで構成された明確な提案プロセスが役立ちます。
1.適切な顧客に、適切な広告でアプローチする
曖昧な情報発信はやめましょう。 SNSを活用して、あなたの理想とする顧客層を細かく設定します。年齢、地域、興味関心などを明確に絞り込み、テクニックではなく「得られる結果」を前面に出して伝えてください。
2.予約までの導線をシンプルにする
長いやり取りで見込み顧客を消耗させないことが重要です。 オンラインの予約ページへ直接アクセスできる仕組みを用意しましょう。 2回クリックすれば予約が完了する、そんな分かりやすさが理想です。
3.ムダな時間を省くために見込み客を選別する
あなたのエネルギーは、本気で変化を望む人に注ぐべきです。予算、目標、来店可能な日時などを確認する事前アンケートを用意すると、投資の意思がない“見るだけ”の人を自然にふるい落とすことができます。
4.必ずビューティーカウンセリングを行う
ビューティーカウンセリングは、それ自体が一つのサービスです。肌状態を分析し、悩みの本質を明らかにし、最適なプロトコルを設計するための重要な工程です。30〜50ユーロほどで設定し、集中ケアを購入した場合に限り、その金額を差し引く形にしても良いでしょう。さらに価値を高めたい場合は、カウンセリングに「初回の一回分」を組み合わせても構いません。
ただし、重要なポイントがあります。
- カウンセリング自体は有料とする
- 初回一回分は“サプライズギフト”として贈る
- 最初からセットの中に含めて見せない(特別感が薄れるため)
無料にしてしまうと価値が下がりますが、ギフトは関係性を深め、あなたのサポートに信頼感を与えます。
ビューティーカウンセリングは、提案の要となる工程であり、これがなければ正しい方向に進めません。 顧客とともに目標への道筋を描く、変化の第一歩です。単なる予約枠ではなく、これから始まるストーリーの出発点だと感じてもらえるように位置づけましょう。
5.集中ケアを「解決策」として提示する
販売するのは“施術回数”ではなく、“目に見える変化”です。顧客に「その後の自分」を想像してもらいましょう。具体的には、肌のハリが戻った状態、シワが和らいだ状態、明るさがよみがえった肌などです。
次のような伝え方は避けます。
「6回のアンチエイジングケア、さらに1回無料」
代わりに、
「6つのステップで肌のハリが戻り、明るさがよみがえる……さらに結果を長持ちさせる美容ギフト付き」
と伝えた方が、はるかに魅力的です。選んだオファーの形式と、明確に構成された販売プロセスを組み合わせることで、無理なく成約率を高められます。
訪問型美容サービスの受け入れ可能数と売上計画
一か月に15〜20名もの集中ケアの契約を目指す前に、まず現実的な“受け入れ可能数”を把握する必要があります。大型サロンのように複数の顧客を並行して施術できるわけではなく、自宅向けサービスでは一人ずつ丁寧に対応するため、時間に限りがあります。
一般的には、一日4件、週5日で週20件の予約が上限となります。集中ケア1名につき、カウンセリング1回+集中的な施術6回、計7回の予約枠が必要です。この条件を踏まえると、現実的に受けられるのは月8〜10名ほどです。これならクオリティを維持しながら、無理のない運営ができます。売上のイメージは次の通りです。
8名 × 500ユーロ = 4,000ユーロ(固定収入)
月1回のメンテナンス(8名 × 80ユーロ)= 640ユーロ
合計 4,640ユーロ/月
(設定金額が高ければ、この数字はさらに増えます。)
ここにホームケア商品や単発メニューの追加購入があれば、さらに上積みできます。この計算によって、自分の限界値を理解し、達成不可能な数字を追いかける負担から解放されます。
小規模美容事業が持続的な収益基盤を築くための第一歩
継続収益の仕組みづくりは、店舗型サロンだけのものではありません。 最新機器が揃っていなくても、自宅向けサービスで十分に実現できる戦略です。重要なのは、適切なターゲティング、確実な選別、そして適切なオファーの提示です。
- まずは一つの方式から始める
- その方式を、信頼関係ができている顧客に提案する
- 5枠、そして8枠が埋まるのを目標にする
そうすることで、あなたの事業は安定方向へと動いていきます。
