執筆:Anne-Charlotte LALLEMENT
Profil Spa 共同創業者
コンサルタント、トレーナー、マネジメント専門家
スパにおいて販売を行うためには、いくつもの障壁を乗り越える必要があります。しかし、それでも取り組まなければなりません。なぜなら、利益はまさに製品販売によって生み出されているからです。ここでは、スパ運営において販売のための時間を最適化する方法をご紹介します。
スパ運営における時間不足と販売効率の構造的課題
時間不足は、スパ業界の現場において最も大きな課題です。私がこれまでに出会ってきたスパマネージャーたちは皆、この点で意見が一致しており、施設内の販売を活性化させることや、施術プロトコルを構築すること、さらに施術ルームの収益性に影響を与えないようにすることに頭を悩ませています。
施術と施術の間に設けられる短い販売時間を積み重ねていくと、施術ルームにおける売上の減少につながる場合があります。特に、その時間が主に在庫補充や設備の維持管理に使われ、なおかつ販売が成立しなかった場合には、影響はより大きくなります。こうした状況は、終わりの見えない悪循環を生み出します。
施術の合間に15分ではなく20分の時間枠を確保することを検討したスパマネージャーもいれば、より大胆に、施術者1人につき1日1時間の販売時間を割り当てるケースもあります。その差は非常に大きいものです。1日の売上損失がどの程度になるのかは、読者の皆さまに判断を委ねたいと思います。
販売引き継ぎによる顧客対応の一貫性低下
販売を他のスタッフに引き継ぐことは、何の提案もないまま顧客を帰してしまうよりは、確かに良い選択です。しかし、その場合、顧客対応の流れや一貫性は失われてしまいます。
また、すべての施設が大規模なチーム体制を整えているわけではありません。スタッフが三人以下の体制で販売を引き継ぐことは、現実的には非常に大きな課題となります。
物販スペースが敬遠されやすい理由
施設運営における第二の課題は、顧客がスパの「一般的な流れ」をどの程度理解しているかという点です。受付、更衣室、ウェルネスエリア、施術ルーム、物販スペース。フランスでは七割の人がすでにスパを利用した経験があるとされています。そのため、顧客にとってこの導線は十分に把握されており、驚くことではありませんが、もし物販スペースでの販売を避けられるのであれば、実際にそうするのです。
こうした数々の障壁を、私は取り除かなければなりません。なぜなら、施設の利益は製品販売によって確保されているからです。さらに、そこから生まれるコミッションは、施術に携わるスタッフの待遇向上にも貢献しています。ここからは、現在のスパ運営において、限られた時間を有効に活用しながら販売を最適化する方法を解説します。
販売成果を左右するポジショニング転換の重要性
まず最初に、販売そのもの、そして販売する内容に対する姿勢を見直してください。これは私が新たに生み出した手法ではありません。「優れた販売者」が実践し、すべての優秀なトレーナーが繰り返し伝えてきた、実証済みの考え方です。
施術後の満足度向上につながる製品活用
製品を単なる「商品」として捉えることはやめてください。製品は、その価格以上に、顧客のリラクゼーションが成功した要因の一部を担っています。その点こそが、施設で体験した心地よさを自宅に持ち帰り、次回来店までの時間もリラックスした状態を継続するための提案理由になります。
顧客ニーズを起点とした製品提案の基本姿勢
フェイスケアやボディケアのラインアップをすべて提示し、その中から一つを選んでもらおうとすることは、まったく意味がありません。これは押し付け型の販売姿勢であり、失敗へと直結します。
施術中に、顧客についてどのような点を観察しましたか?その観察結果と専門知識を踏まえ、何を最適な提案として示すことができるでしょうか。あるいは、顧客が語った期待や、今すぐ解決したいと話していたニーズの中で、何が印象に残っているでしょうか。
例えば、顧客がボディ施術を受けた後、次の休暇で日差しの強い地域へ旅行する予定があり、敏感な顔の肌を紫外線にさらすことを心配していると話した場合、施術中に使用したオイルの説明は手短に済ませ、すぐに紫外線から肌を守るフェイス用UVプロテクトクリームを提案してください。
旅行前に肌を整えるためのフェイスケアルーティンを伝え、外出先でも肌を落ち着かせたいときに使用できる製品を勧めます。目指すべきは、何よりも「効果」です。
製品を第二の施術者として捉えるポジショニング
これが、今後の展開において私が採用するポジショニングです。製品を、施術ルームにおける「第二の施術者」として位置づけてみましょう。
- 施術を成立させるために欠かせない存在である
- 顧客にとって有益な効果をもたらす
- 顧客の感覚的体験の一部として機能する
このブランドは、施設が持つストーリー、コンセプト、導線、そして顧客が求める効果に応えるために選定されている
この考え方には、製品がすでに顧客のものであるかのように感じさせる, 適切な言葉選びが不可欠です。
適切な言葉遣いを身につける
説明の中では、所有や特別感を表す語彙や所有代名詞を積極的に使うべきです。
例えば、「あなたの」「あなた専用の」「あなただけの」「あなたの製品」「あなたの選択」「あなたのリラクゼーション」「あなたのお気に入り」「あなたのために選びました」「ご要望に合わせて」「ご希望はしっかり把握しています」といった表現が挙げられます。
こうした言葉遣いは、過剰になることを恐れる必要はありません。
一般論に陥らないことが重要
例えば、製品を紹介する際に「誰からも好評です」「すべての肌タイプに合います」「多くのお客さまと同じニーズです」と伝えてしまうと、個別対応も販売機会も、その瞬間に失われてしまいます。
顧客が「その他大勢」と同じ扱いを受けたと感じた場合、自分が統計データの一部になるためだけに購入しようとは思わなくなります。
このアプローチの自然な流れとして、最終的な選択は顧客自身が行うことになります。製品が顧客の味方であるならば、それを選ぶのも顧客です。一石二鳥の効果が生まれ、顧客は施術中に使用する製品への所有意識を持ち、施術の主体的な参加者となります。
ポジショニングを変えることで、施術に加えて製品の代金を請求することに抵抗を感じていたチームにとっても、販売のステップは自然なものになります。提案のロジックが明確になり、効果を重視した説明が可能となり、結果として購買行動を後押しします。
デストラクチャー型販売が顧客習慣を変える理由
顧客の習慣に対抗する最良の方法は、その習慣を打ち破ることです。そのために有効なのが、販売プロトコルの「デストラクチャー化」です。
注意してください。デストラクチャー型販売とは、決して無秩序な販売を意味するものではありません。ここで重視されているのは、施設スタッフの時間を最適化し、製品販売による売上を向上させることです。
従来の「定型的な」販売プロトコルは、いったんすべて分解され、区切られ、複数の明確なステップとして、異なるタイミングと正確な場面で提供されることになります。ここで、販売における主なステップをあらためて整理してみましょう。
- パートナーブランドの紹介
- 使用する製品ラインの紹介
- 最大3製品の選定(それ以上になると、顧客の関心を失ってしまいます)
- 各製品の有効成分とベネフィットの説明
- 顧客による製品テスト(テクスチャーと香り)
- 使用方法のアドバイス
これらのステップを書き出しながら、私は施術者として駆け回っていた若い頃を思い出します。施術ルームを行き来しながら、ショーケースの前で早口で説明を繰り返し、言葉を丁寧に伝える余裕もなく、「はい、次の方へ」と、すぐ次の顧客対応に移っていました。
前の顧客がもう少し詳しい説明を求めてくると、すぐにスケジュール全体がずれてしまったものです。
デストラクチャー型販売の本質は、まさにここにあります。顧客ができる限り避けたいと感じている、商品棚の前での一方的な説明をなくし、スタッフの時間を有効に使いながら、購買行動を自然に引き出すことです。
ここからは、この手法が施設内でどのように具体化されるのかを見ていきます。
顧客導線を活用した販売プロセスの最適化

施設外から始まる顧客導線の全体像
顧客導線は、施設内の空間だけに限られるものではありません。外部コミュニケーション、すなわちソーシャルメディアや公式サイトから始まり、来店前のフォロー、現地での体験、そして来店後のフォローまでを含みます。
ソーシャルメディアや公式サイトは、デジタル上のショーケースとして機能します。施術メニューを紹介するためだけでなく、製品を伝える場でもあります。パートナーブランドや主力製品をこれらの媒体で紹介することは、ターゲットとする顧客が自分自身を重ね合わせ、施設が何を提供し、どのような製品を扱っているのかを全体像として理解するために欠かせません。
次に重要なのが「ファネル」の考え方です。顧客導線の各段階に、販売プロトコルの一部を組み込み、一般的な情報から、より具体的な内容へと段階的に進めていきます。
1 確認メールの時点から販売プロセスを始める
確認メールの中で、顧客のリラクゼーションを支えるために使用されるブランド名と製品ラインを明記します。
確認メールは、施設が顧客の要望をきちんと受け止めていることを伝える安心材料であり、来店に向けた実用的な情報を事前に得るための大切なツールです。そこに、化粧品について触れる一文を加えることは、非常に自然な流れといえます。
2 施術前日のリマインドメールまたはSMS
施設内で試すことができる、三製品のセレクションを具体的に伝えます。
高度なパーソナライズが求められる現在において、選択肢を提示し、顧客の好みを考慮することは極めて重要です。
3 施術前のカウンセリング(最大2〜3分)
施術内容の確認後、三製品を提示し、それぞれの有効成分とベネフィットを説明します。テクスチャーや香りを実際に試してもらい、顧客の同意と了承を得ます。ここで、さらに一つ付け加えるべきポイントがあります。それは、施術ルーム内で製品の効果をすぐに体感できるという点です。つまり、その後の感想を顧客から受け取ることを前提とした提案になります。
私からのアドバイスとして、すべてのウェルネスに関するカウンセリングは、落ち着きがあり、快適な空間で行うことをおすすめします。
短時間対応で実現する体験パーソナライズ
顧客の好みをあらためて確認し、「選ばれた」製品を準備していることを伝えます。これは、施術ルームでの準備プロセスの中で、ほんの数秒で行えることです。しかし、そのひと手間が、体験のパーソナライズと顧客満足度の向上に大きく寄与します。
施術後3分間を活かす販売タイミングの設計

ドリンクサービスの前に行うことが重要です。顧客は、施術後にリラクゼーションスペースでドリンクが提供される流れをすでに理解しています。そのタイミングで製品の説明を始めてしまうと、顧客の集中力は失われてしまいます。顧客は、説明を早く切り上げ、静かにくつろぎたいと感じるからです。
施術ルームを出てからドリンクサービスが始まるまで, 顧客の注意を引きつけ、保つことができる時間は最大でも3分間です。施術中に使用した製品を、まるで至高の一品を運ぶかのように丁寧に提示してください。販売においては、環境づくりと細部への配慮が重要です。
同等品ではなく、補完的な製品を一つ加えます。そうすることで、それまでの提案を無駄にせずに済みます。
施術後の感覚について、顧客に尋ねてください。施術に関連した所感やアドバイスを伝え、「選ばれた」製品についてどのように感じたかを確認します。そのうえで、このタイミングで使用方法のアドバイスを行います。
その後、顧客がリラクゼーション後に物販スペースで他のニーズを持っている場合は、従来型の説明へと進みます。あるいは、くつろぎの時間を妨げないよう、「選ばれた」製品をこちらでパッケージしておくという形で、サービスとして申し出ることも可能です。
物販スペースにおける顧客満足度向上の工夫
この段階で商品棚の前で説明が行われるとすれば、それは顧客自身が望んだ場合に限られます。会計後には、顧客の関心や希望に合ったサンプルを忘れずに提供してください。その小さなご褒美、ささやかな贈り物が、施設での体験をさらに価値あるものへと高めます。
顧客導線に基づく販売プロトコルがもたらす変化
顧客導線のすべての段階に沿った販売プロトコルを導入することで、すべての顧客を対象とし、的確にアプローチすることが可能になります。その結果、購買行動を引き出す確率を最大化することができます。
段階ごとに明確に区分されたファネル型の手法は、スタッフの時間短縮につながるだけでなく、顧客に過剰な情報を与えることも防ぎます。時間に追われる販売は、もう終わりにしましょう。限られた時間枠で、機械的に製品を販売することはやめてください。顧客が慣れ親しんできた従来の型を打ち破り、スパにおけるコミュニケーションと販売アプローチを再構築することが求められています。
