気温も湿度も下がる冬。肌だけでなく、髪と頭皮も“乾燥ダメージ”にさらされています。パサつき・広がり・かゆみ・フケ。実はこれらの多くは「頭皮のうるおい不足」から始まっています。近年、美容業界で注目されているのが「素髪ケア」。肌と同じように“洗う・整える・守る”を意識することで、髪本来のツヤとしなやかさを取り戻す新習慣です。本記事では、スキンケア発想で叶える冬の髪と頭皮の再生メソッドを、科学的な根拠と共に解説します。
冬の髪と頭皮に起こる「乾燥トラブル」の正体

冬は、気温の低下とともに湿度も20〜40%前後まで落ち込みます。これは、夏の平均湿度(60〜80%)の半分以下。
人間の皮膚と同じく、頭皮も「角質層」と呼ばれるバリア層で外界からの刺激を防いでいますが、この層の水分保持能力は湿度40%を下回ると急激に低下します。結果、角質細胞の間を埋めるセラミドや天然保湿因子(NMF)が失われ、皮膚表面のラメラ構造(水分と脂質が交互に重なる層)が乱れるのです。この状態が続くと、頭皮は外気・紫外線・摩擦などの刺激を直接受けやすくなり、かゆみ・赤み・フケ・炎症性脱毛などの症状を引き起こします。さらに、乾燥が進むと皮脂腺の働きが乱れ、皮脂の過剰分泌→毛穴詰まり→酸化皮脂によるにおいという負の連鎖にもつながります。
実際、皮脂酸化の主成分であるスクアレン過酸化物は、頭皮の老化や毛髪のツヤ低下の一因とされています。
暖房とシャワーの“隠れ乾燥リスク”
冬場の室内環境も要注意です。エアコンや暖房器具によって空気中の水分が奪われると、頭皮表面の経表皮水分蒸散量(TEWL)が増加。
これは皮膚の「水分が蒸発していく量」を示す指標で、TEWLが高いほど乾燥が進行していることを意味します。
また、寒い日ほど熱いお湯(40℃以上)で洗いがちですが、この温度帯は頭皮の皮脂膜を一瞬で溶かすほどの脱脂力があります。皮脂膜が失われると、外部刺激から頭皮を守るバリアが弱まり、結果としてフケ・炎症・痒みが発生します。
髪の“静電気ダメージ”と酸化ストレス
一方、髪そのものも冬の物理的・化学的ダメージを受けやすい状態にあります。
乾燥した空気の中では、髪表面のキューティクル(毛表皮)が開き、摩擦によって静電気が発生。これにより、キューティクルの剥離や微細な裂け目が生じ、枝毛・切れ毛を引き起こします。
また、冬でも紫外線A波(UVA)は地表に届いており、毛髪内部のケラチンタンパク質やメラニンを酸化。これが“ごわつき” “褐色化” “ツヤの喪失”につながります。
紫外線の酸化ストレスは、頭皮でも同様に活性酸素(ROS)を増加させ、慢性的な炎症を誘発することが近年の皮膚科学研究でも指摘されています。
“髪を補修する”より、“頭皮を整える”という発想へ
多くの人が「トリートメントをしても効果を感じにくい」と感じる背景には、こうした頭皮バリアの低下が潜んでいます。
血流が悪化し、毛乳頭への栄養供給が滞ることで、髪のハリ・コシが失われ、さらに乾燥ダメージが進行する。つまり、髪の不調の約7割は頭皮由来とも言われるのです。冬の美髪づくりの第一歩は、髪の表面を「補修」することではなく、頭皮を“肌と同じ器官”としてケアする視点を持つこと。
これこそが、次章で紹介する“スキンケア発想の素髪ケア”の基本哲学です。
表1:冬の髪と頭皮に起こる「4つの科学的ストレス要因」

スキンケア発想の“素髪ケア”とは?

“素髪ケア”とは、髪をコーティング剤で「覆う」ケアではなく、頭皮という「土台」から美しさを育むケアのこと。
近年、皮膚科学の分野でも「頭皮は顔の皮膚の延長である」と位置づけられ、スキンケアと同様に洗浄・保湿・保護のプロセスが重要視されています。つまり、肌と同じように「落とす・潤す・守る」を日常に取り入れることで、髪本来の強さとツヤを再生できるのです。
STEP1:頭皮クレンジングで「余分な皮脂」と酸化物をオフ
頭皮の毛穴は、1平方センチあたり約100個も存在し、常に皮脂や老廃物が分泌されています。
これらが酸化すると、過酸化皮脂となり、頭皮の炎症や臭い、毛髪の成長阻害の原因に。
そのため、週1〜2回のスカルプクレンジングで、通常のシャンプーでは落ちにくい皮脂やスタイリング剤の残留物をリセットすることが大切です。おすすめは、ホホバオイル・炭酸泡・アミノ酸系洗浄成分を配合したタイプ。
ホホバオイルは人の皮脂構造に近く、過剰皮脂を溶かしながら必要なうるおいを残します。
炭酸泡タイプは毛穴内部の汚れを浮かせ、血行促進効果も期待できます。
💡POINT:クレンジング後に軽く頭皮をマッサージすると、血流が促進され、髪の根元まで酸素と栄養が届きやすくなります。
STEP2:シャンプー後の“頭皮保湿”を新しい習慣に
シャンプー後の頭皮は、水分と皮脂の両方が一時的に減少している“無防備状態”。
このタイミングで放置すると、角質細胞間のセラミド層が乱れ、フケやかゆみ、乾燥が悪化します。
スキンケアと同じように、ヒアルロン酸・セラミド・PCA-Na配合のスカルプミストやローションで保湿するのが理想的です。
これらの成分は、頭皮の水分保持力を高め、バリア機能を補助します。
加えて、グリチルリチン酸2Kなどの抗炎症成分を含む製品は、頭皮の赤みや軽度の炎症にも有効です。
💡POINT:「頭皮の水分量が10%上がると、毛髪の反射率(ツヤ)が約8%上がる」という研究報告も
STEP3:ドライヤー前の“髪の美容液”で熱と摩擦から守る
ドライヤーの熱は、髪内部のCMC(細胞間脂質)を溶かし、タンパク質の変性を招きます。
このCMCは、毛髪内部の水分や油分をつなぐ「接着剤」のような存在。
そのため、ドライ前にCMC補修成分(18-MEA、セラミドNGなど)やアルガンオイル・シアバターを含むヘアセラムをなじませることで、髪の保湿構造を保護できます。
使い方のポイントは、「根元から毛先へ均一に、軽くコーミングしてなじませる」こと。
ドライヤーは温風で約8割乾かした後、最後に冷風でキューティクルを閉じると、ツヤと手触りが格段に向上します。
💡POINT:熱保護成分(ヒートリペア型プロテイン、γ-ドコサラクトンなど)を含む製品は、熱で変性せずに髪表面に皮膜を形成し、パサつきを防ぎます。
今日からできる「うるおいを守る冬ケア」実践法

冬の髪と頭皮は、乾燥だけでなく「熱・摩擦・栄養不足・睡眠リズム」といった複合的なストレスにさらされています。一度ダメージを受けると回復に時間がかかるため、日々の“小さな工夫”を積み重ねることが最も効果的なケアになります。以下の4つのポイントを意識するだけでも、髪と頭皮のコンディションは確実に変化します。
シャワー温度は38℃以下——“熱ストレス”から頭皮を守る
熱すぎるお湯(40℃以上)は、頭皮表面の皮脂膜(天然の保護バリア)を溶かし、乾燥を進行させます。理想は37〜38℃のぬるめ設定。この温度帯なら、余分な皮脂は落としながらも、必要なうるおいを保てます。また、すすぎ残しを防ぐためには、シャンプー前の予洗い(ぬるま湯で1〜2分)が効果的です。予洗いだけで髪と頭皮の汚れの約6〜7割が落ちると言われています。
シャンプーを少量のぬるま湯で泡立ててから使う“泡洗い”を意識すると、摩擦刺激も減らせます。
ドライヤーは15cm以上離す——温風と時間の“バランス乾燥”
ドライヤーを近づけすぎると、髪内部の水分蒸発(熱変性)が起こり、CMC(細胞間脂質)やケラチン構造が崩れます。
15cm以上離して、温風→冷風→仕上げ冷却の順に乾かすのが理想的。
髪の温度を60℃以下に保つと、キューティクルの開きを最小限に抑えられます。
💡POINT:ドライ前にタオルドライで8割の水分を吸収しておくと、ドライヤー時間を短縮でき、熱ダメージを大幅に減らせます。
寝具やマフラーの摩擦対策——“接触ダメージ”を防ぐ素材選び
寝ている間も髪は摩擦を受け続けています。特にコットン素材の枕カバーは吸湿性が高く、髪の水分を奪い、静電気を発生させやすい素材です。
冬の乾燥対策としては、シルク・サテン・テンセル素材のカバーやナイトキャップを取り入れるとより良いです。
また、外出時はウールマフラーの静電気防止スプレーを活用すると、摩擦による広がりや切れ毛を防げます。
💡POINT:髪の毛が布地にこすれる音がするのは、摩擦が強いサイン。素材を変えるだけで翌朝のまとまりが変わります。
タンパク質+ビタミンEを摂る——“内側からのうるおい補給”
髪の主成分であるケラチンはタンパク質で構成されており、体内で合成するためにはビタミンB群やE、亜鉛などの補助栄養素が欠かせません。
特に冬は代謝が低下しやすく、血流も滞りがち。
卵・魚・ナッツ類・緑黄色野菜を意識的に摂取することで、頭皮の血行促進と細胞修復をサポートします。ビタミンEには「抗酸化作用」があり、頭皮の酸化皮脂や炎症を抑える効果も報告されています。
また、温かいスープや白湯を摂る習慣も、内側からの水分バランスを整えるシンプルなケアです。
+α:生活環境も“保湿空間”に変える
- 加湿器を40〜60%湿度に保つ
- 室内の暖房風を直接頭に当てない
- 睡眠時は低い枕+仰向け姿勢で髪のねじれを防止
こうした生活環境の小さな工夫も、頭皮の水分蒸散を防ぎ、トリートメントの浸透効率を高めます。髪と頭皮の健康は、特別なケアよりも“毎日の小さな習慣”の質で決まります。38℃のシャワー、15cmの距離、やさしい素材、栄養のある一皿。どれもすぐに始められることばかりですが、その積み重ねが冬の髪印象を“しっとり・つややか”に変える近道です。
まとめ:冬の髪は「スキンケア」で蘇る
冬こそ、“髪を守る季節”。
乾燥や摩擦、紫外線などの外的ストレスが増えるこの時期は、
髪だけでなく、その土台である頭皮を「肌」としてケアする発想が鍵になります。頭皮も顔と同じひとつの皮膚。
洗う・潤す・守るというスキンケアの流れを取り入れることで、
髪は内側からしなやかに、そしてツヤやかに生まれ変わります。
💡今日からできること
- シャンプー後に頭皮保湿ミストをひと吹きしてうるおい補給
- 週末はスカルプクレンジング+温感マッサージで血行促進
- バランスの取れた栄養と十分な睡眠で“内側ケア”も忘れずに
小さな習慣の積み重ねが、冬の髪印象を決めます。
うるおいとツヤをまとった素髪は、光を柔らかく反射し、
あなたの印象をやさしく、上品に、そして知的に引き立ててくれるはず。この冬は、「スキンケアする髪」へ。
明日の髪が変われば、心まで晴れる。それが、冬の“素髪ケア革命”の真価です。
参考文献・情報出典
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- Milani, M. et al. (2017). The 24-hour skin hydration and barrier function effects of a daily moisturizer. Journal of Dermatological Treatment.https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5560567/
- Herrero-Fernandez, M. et al. (2022). Impact of Water Exposure and Temperature Changes on Skin Barrier Function.Journal of Clinical Medicine.https://www.mdpi.com/2077-0383/11/2/298
