肉体的疲労、低い給与、評価の欠如――スパの施術従事者の日常は、強い使命感を持つ彼女たちの心身を試練にさらしています。こうした困難に直面し、多くの人が職業から離れることを考えており、すでに懸念されている人材不足に拍車をかけています。ここでは、現場の声を紹介します。
多くの人が憧れるのは、高級施設で働くことです。レストランやコンシェルジュ、そしてスパの世界は、卓越性を職業としたい人々を引き寄せています。顧客にウェルビーイングを提供し、完璧な接客を行うことは、情熱を持つ人にとって人生の使命にもなります。
しかし、その夢は現場に出た瞬間に悪夢へと変わる場合があります。これは多くのスパ従事者が実際に体験していることであり、今回取材した3名の施術者の証言にも表れています。
スパ施術者Emmaの証言―キャリア転換が映すスパ労働環境の現実
Emmaがスパの施術者になったのは38歳でのキャリアチェンジがきっかけでした。彼女はCAP EsthétiqueとCQP Spa Praticienを取得し、現在はエクス・アン・プロヴァンスで自らのサロンを構えて独立して2年になります。
転職前、Emmaはこの職業について深く調べたことはありませんでした。France Travailの支援で1年間の職業適性診断を受け、その結果の一つにスパ施術者が含まれていました。「すべてがこの道に集約していったのです。私はバランスのとれた仕事を想像していました。ところが実際には、閉ざされた個室で延々とマッサージを繰り返す日々でした。何より、ここまで自分の身体を痛めつける仕事だとは想像もしていませんでした」と語ります。
スパでの悲惨な経験
独立を選んだ理由の一つは、学んでいる途中で垣間見た職業の厳しい現実でした。
「私のクラスには18歳から25歳までの12人の女子がいましたが、そのうちの大半が研修や交替制勤務を経験していました。12人中10人ほどがスパでの経験を“悲惨だった”と口にしていました」とEmmaは振り返ります。
「彼女たちは完全に疲弊していました。過重労働や厳しいシフトに追われ、体力的にも限界に達していたのです。研修の途中で4人が学びを断念しました。そのうちの一人は過労により全身に関節症を発症してしまったのです」と証言します。
さらに、別の同級生は製品を繰り返し使い続けた結果、深刻なアレルギーを発症して学業を中断せざるを得ませんでした。「他の仲間も心身が持たずに辞めていきました。必死に働いても一切の評価が得られなかったのです」と語ります。
彼女自身も、就職活動と同時に非人間的な職場に入る不安を抱えていました。「家に帰って涙する夜もありました。聞けば聞くほど気持ちが折れていったのです。私はもっと多様な業務、例えばマッサージ、さまざまなトリートメント、接客や事務作業をバランスよく行える仕事だと思っていました。しかし現実は単調で繰り返しばかりで、しかも賃金は十分ではありません。今では清掃業の女性より収入が低いのに、身体をすり減らしています」と告白します。
支えにならないスパマネージャー
Emmaはまた、多くのスパマネージャーが公平にチームを扱っていないと指摘します。
「彼女たちはマネージャーの地位を得るまでに非常な努力を重ねています。そのため、再び施術に戻ることを望まないのです。その結果、スタッフはひたすら施術を繰り返さざるを得ません。私はフリーランスとして今もスパで施術を行っているので、その現実を目の当たりにしています」と説明します。
変化した顧客の要望
さらに、顧客の要望の変化も施術者を疲弊させる一因となっています。平均月給は約1,800ユーロ、週40時間勤務のうち最大36時間がマッサージに費やされます。「40時間、腕の筋肉を酷使し続けるのです」と嘆きます。
「以前はカリフォルニア式のような穏やかなマッサージが求められていました。今では顧客が極度にストレスを抱えているため、強圧のスウェディッシュマッサージばかりを要求されます。2回施術するだけで体力を消耗してしまいます。圧を強く求められ、ほとんど治療行為のようです」と話します。
ある日、フリーランスとして働いていたEmmaは、1日の最後にラグビー選手を1時間施術することになりました。依頼は背中に集中した強いマッサージでした。「多くの顧客は私たちを治療者のように見ており、医師のように痛みを取り除くことを期待しています。顧客は支払った金額に見合う結果を求めるのです。これはスパ施術者として皆が感じている現実です」と語ります。
フリーランスとしての厳しい現実
フリーランスで働く際、彼女は不適切な条件を受け入れてしまうこともあると明かします。時給30ユーロという条件に応じざるを得なかったこともあります。
「本来であればフリーランスの最低ラインは時給40〜45ユーロであるべきです。実際には21ユーロしか受け取れません。独立して8時間働いても、手元に残るのはわずか150ユーロです」と吐露しました。
スパ経営者Laure Masotが語る持続可能な働き方と人材育成
Laure Masot氏
サン・マロのL’Essence Tactileを経営するLaure Masot氏は、これまで常にスパやタラソテラピーの分野で働いてきました。インスティテュートやパフューマリー、自宅訪問など、幅広い経験を重ねています。サン・マロでボディケアの事業を立ち上げて8年になり、パリでは出張施術や地域のホテルでのフリーランス勤務を経て、2020年に独立。その後、ロックダウンの終了を待って自身のウェルネスサロンを開業しました。
従業員から独立へ
独立を決意した理由は、勤務先での長年にわたる過酷な労働リズムから解放されたいと考えたからです。
「私は自分の職業に対して伝えたいイメージと、身体を尊重した働き方を両立させたかったのです」とLaure氏は語ります。
現在43歳の彼女は、18歳の頃からスパとタラソテラピーの分野が厳しいことを理解していました。当初は30歳で辞めて心理学の勉強を再開する予定でしたが、個人的な理由で実現しませんでした。独立のきっかけとなったのは、多くの顧客から繰り返し受けた「私はあなたのような仕事はしたくない」という言葉でした。
スパ勤務を選ぶ基準
従業員やフリーランスとして勤務していた頃、彼女は以下の基準で働くスパを選んでいました。
- 施術の合間に休憩時間があること
- 地下や窓のない個室では働かないこと
- シングルマザーとしての生活に合う勤務時間であること
- 自分の価値観に合ったブランドと仕事ができること
チームを大切にするスパ
彼女によると、これまで勤務した中には人間的な条件を重視するスパもありました。
「マネージャーが私たちと同じ施術経験を持ち、良き手本や指導者となり、労働条件に注意を払ってくれる職場もありました。プレッシャーが少なく、スケジュールも現実的で、チームワークが育まれる環境でした。チームの結束はスパの健全な運営に欠かせません」と強調します。
顧客対応力を高める研修の創設
フランス各地での経験を経て、Laure氏は同僚の高い離職率や顧客の不満を目の当たりにしました。そこで彼女は「本当のウェルネスマッサージとは何か」をテーマに、施術者とマネージャー向けの研修を立ち上げました。
「目的は、施術現場での現実や注意すべき点を理解し、日常業務を楽にすることです」と説明します。
研修は1〜4日間で、現場での実習を含みます。マネージャーの参加も推奨され、施術者の日常を理解するきっかけとなります。特に美容の基礎教育を受けていないマネージャーにとって、職務の現実を認識することは重要だと指摘します。
各モジュールの内容は以下の通りです。
- 特殊なニーズを持つ顧客への対応演習
- 多様な行動様式への理解を広げる
- 「施術室専用」の身体維持エクササイズ
- 職業に潜む細かな価値を見直す
- タブーを解き明かし、不安を和らげる
この研修を補完するため、彼女は著書『Comment réussir un vrai massage bien-être ? Tout savoir sur les coulisses du métier de masseur bien-être』を出版しました。書籍では、数々のヒントやアドバイス、体験談を交え、職業の裏側やタブーを明らかにしています。これまでに出会った90種類の顧客像も紹介されており、公式サイト(www.lessencetactile.fr)から購入可能です。
Aurélie Laval 氏の証言(スパ施術者)
Aurélie Laval氏
2019年末、Aurélie Laval氏はキャリアチェンジを決断しました。もともと高級業界でエグゼクティブアシスタントとして働いていましたが、適性診断を機にマッサージの道を選びました。世界各国の技法を学び、2021年にモンモランシーで自身のスペースを開設。土曜日は自分のサロンで施術しながら、フリーランスとしてスパ勤務やシーズン雇用、自宅訪問を並行しています。
収入と労働負担の不均衡
独立を選んだ理由の一つは給与水準の低さでした。
「転職によって収入が減ることは覚悟していました。それでも施術者の賃金が低すぎると知っていたので、社員として働きたくはありませんでした」と話します。
給与の低さに加え、肉体的負担とのバランスが取れていないことに不満を抱いています。
「身体的な投資に対して、この仕事の報酬は十分ではありません。フリーランスとして日給制で働いても、社会保障費や税金を差し引けば実際の時給は最低賃金以下です。医療保険や退職補償も自分で準備しなければなりません。これを拒否すれば仕事は得られないのです」と指摘します。
また、あるサロンでは施術した時間しか報酬が支払われず、空き時間は無給という経験も語っています。
過酷な労働リズム
自営業の立場である程度自由に働けるものの、スパでの任務では非常に厳しいスケジュールに直面することがあります。
「夏などの繁忙期には、息つく間もなく7時間連続でマッサージを行います。スパ勤務は生計のためであり、やりがいを感じる場ではありません」と説明します。
受け入れなくなった条件
フリーランスを続けるうちに、彼女には受け入れられない条件も増えました。
「ホテルに急きょ派遣され、客室のベッドで施術を強いられることもありましたが、すぐにやめました。設備が整わない環境では質の高い施術はできませんし、当日にならないと仕事の有無がわからず、収入も不安定だからです」と語ります。
不透明な将来とマネージャーへの要望
職業選択を後悔はしていないものの、長期的に持続できるかは不安だといいます。
「ウェルネス市場は拡大していると言われますが、フリーランスとして顧客基盤を築くには膨大な時間が必要です」と指摘します。
そしてスパマネージャーに対し、現場の実情にもっと目を向けてほしいと訴えます。
「調整できない施術台で休憩なしに働かされ、終業後にはスパ全体の清掃まで任されることがありました」と明かしました。