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ビューティーポッドキャスト―美容専門家と顧客をつなぐ発信フォーマット

ここ数年で、ポッドキャストは情報提供やエンターテインメント、そして人とのつながりを生み出す手段として、欠かせない発信フォーマットとなりました。美容の専門職にとっても、施術空間で提供している体験をその後も継続させ、自身の専門性や価値観を共有しながら顧客との関係性を深めるための理想的なツールとなりつつあります。さらに、新たな層にリーチできる点も大きな特徴です。

パリで活動する美容の専門家であるAlice Picheryは、美容、ウェルビーイング、そして占星術を組み合わせた自身のポッドキャストを通じて、こうした潮流を象徴する存在といえるでしょう。

ビューティーポッドキャストが注目される背景と市場動向

車での移動中や昼休み、就寝前など、日常のさまざまな時間をポッドキャストの視聴に充てている方も多いのではないでしょうか。人気が高まり続けているこのフォーマットは、フランス国内だけでも毎月2億本以上のエピソードが再生されています。あらゆる世代から支持を集めていますが、オンデマンドでの音声視聴を前提に制作されたネイティブポッドキャストにおいては、視聴者の60パーセントが35歳未満です(La revue européenne des médias du numérique、2021年)。

では、なぜポッドキャストはこれほどまでに成功を収めているのでしょうか。
そこには、視聴者にとっての複数の利点があります。

  • 手軽に聴けること
  • 継続的な視聴につながりやすいこと
  • 現代社会、とりわけオンデマンド型のライフスタイルに適していること
  • ライブ配信であってもそうでなくても、視聴者が関心のあるコンテンツを、好きなタイミングと方法で選んで聴けること

また、テーマによっては、文章では伝えにくい情報を分かりやすく解説できる点も、ポッドキャストならではの特長といえます。

美容やウェルビーイング分野に広がる音声メディア活用

フランスでは、ポッドキャストを聴く主な目的は、1エピソードの時間だけ日常から離れ、楽しむことにあります。ジャンル別では、ユーモアをテーマにした内容が特に高い支持を集めています。ただし、それ以外の分野を軽視すべきではありません。例えば、健康をテーマとした回では、専門家の視点を交えながら知識を伝えることができます。また、自己成長や体験談を軸にした内容では、視聴者に気づきや思考のきっかけを与えることも可能です。

最終的には、あらゆるテーマが取り上げられる余地があります。その中には、美容やウェルビーイング、ケア全般に関する分野も、当然ながら含まれています。

美容の専門家によるビューティーポッドキャスト発信の意義

ビューティーポッドキャストは、多くの支持を集めています。スキンケアやメイクアップ、マッサージについて語るポッドキャストを発信する存在として、美容の専門家以上に適した立場はないでしょう。専門教育を通じて、皮膚生物学や化粧品学、マーケティング、さらには有機化学といった高度で専門的な分野を体系的に学んできています。さらに、パートナーブランドや外部講師による継続的な研修を通じて、知識と技術を常にアップデートしています。そのため、ケアをテーマにしたポッドキャストを制作するための十分な知見を備えているといえます。

以下は、美容の専門家にとってのポッドキャストの主な利点を、分かりやすくまとめたものです。

  • 事業の人間性と実在感を高める
    顧客が、施術を超えて、声やエネルギー、話し方、人格といった発信者自身を知る機会を提供します。
  • 価値観の明確化
    個人的、社会的、さらには社会全体に関わる価値観を共有する機会となり、倫理観や社会的影響に関心を持つ顧客との共感を生み出します。
  • 関係性とコミュニティの構築
    顧客との距離を縮め、同じ価値観を共有する人々によるコミュニティ意識を育みます。
  • 専門性と信頼性の向上
    施術時間内では十分に伝えきれない技術的、理論的な知識を深めて発信する場を提供します。
  • 教育と伝達
    実践的、または専門的なアドバイスを共有しながら、ガイドとして、伴走者としての役割を際立たせます。

美容とウェルビーイングをつなぐポッドキャスト実践事例

Alice Picheryは、2023年にThe Sacred Skin Studioを設立しました。パリにあるウェルビーイング施設Le Nouveau Monde内に拠点を構え、シグネチャーフェイシャルケアであるDivine Sanctuaryを提供しています。

「私はAstro-Esthétiquesリチュアルを制作しています。これはフェイシャルケアと占星術を融合させたリチュアルで、身体、精神、そしてエネルギーを、月のサイクルや宇宙のリズムと調和させることを目的としています」

彼女は、美容と占星術を融合させることで、技術的でありながら直感的でもあるケアを生み出したと説明します。

変化する顧客ニーズ

SisleyやSothysといったブランドのもとで、国際的にトレーナーとして活動してきた豊富な経験を持つAliceは、ケアに対する顧客の期待が大きく変化していることを実感しています。現在では、美とウェルビーイングの間に、より深いつながりを求める傾向が強まっているといいます。

「すべてはエネルギーで成り立っているという認識が、ますます広がっています」とAliceは語ります。彼女によれば、ケアに込められた意図、使用される製品の質や製造方法、さらにはブランドが掲げる価値観までもが、ケアの受け取られ方や体感に、微細ながら確実な影響を与えています。

こうした直感的かつエネルギー的なアプローチは、科学の分野からも注目されています。「スピリチュアルな側面を超えて、内面のウェルビーイングと外見との関係性が、科学研究によって次第に裏付けられてきている点が興味深いです」と彼女は続けます。この関連性は、ニューロコスメティクスやアロマテラピー、ストレスホルモンや快楽ホルモンが肌や老化、DNAの保護に及ぼす影響に関する研究によって支持されています。

Aliceは、こうした集団的な意識の変化が、美容ケアの捉え方そのものに転換点をもたらしていると確信しています。その流れをさらに広げるため、彼女は最近、占星術をテーマとしたポッドキャストを立ち上げました。

ポッドキャスト「THE WORLD IS F**KED, NOW WHAT ?」の立ち上げ

ケアの枠を超えた形で顧客に寄り添いたいという想いから、Aliceは2025年5月、挑発的でありながら示唆に富んだタイトルのポッドキャスト「The World is F**ked, Now What ?」を開始しました。

このフォーマットを通じて、彼女は占星術だけでなく、美容やウェルビーイングについても語っています。

「顧客だけでなく、より広い集合体を導きたいと思いました。ケアを超えたところで、より大きな影響を与えたかったのです」と彼女は明かします。「占星術は自己理解を深める助けになりますが、同時に、今の世界で何が起きているのかを読み解く手がかりにもなります。これは、施術空間を超えて顧客との関係性を継続する手段でもあります」

自分自身をいたわるための教育的コンテンツ

制作時間に応じて不定期に配信されるこのポッドキャストで、Aliceが何より大切にしているのは、彼女自身が「穏やかな明晰さ」と呼ぶ姿勢を共有することです。それは、変化する世界を、より高い意識とともに生き抜くための在り方でもあります。

「占星術との結びつきは明確です。今のエネルギーを理解することは、個人的な前進にも、周囲で起きている出来事を読み解くことにも役立ちます」と彼女は説明します。

そこに、彼女ならではのウェルビーイングの視点が自然に加わります。「自己成長の分野では、思考に偏りがちです。言葉やアドバイスは多くても、身体が置き去りにされることがあります。私が大切にしているのは、実感を伴うことです。動作やルーティン、感覚を通して、すべてを体に落とし込むことです」

施術と両立するポッドキャストの日常的な運用

活動当初、Aliceはスタジオの最新情報と占星術的な流れを織り交ぜたニュースレターを通じて、アドバイスや「占星術的天気予報」を発信していました。しかし、「作業負担が大きく、長文を読む時間が人々にはなくなっていることに、すぐに気づきました」と振り返ります。

そこで自然に選ばれたのが音声フォーマットでした。より流動的で、生き生きとしており、彼女にとって特別な意味を持つ表現手段だったのです。「ポッドキャストは、声に対する私自身の癒やしのプロセスの一部でもあります」と彼女は語ります。

「The World is F**ked, Now What ?」を通じて、Aliceは自分自身に最もふさわしいメディアにたどり着きました。親密さと開放性を併せ持つ表現です。「ポッドキャストは、関係性の継続と可視性の両方を兼ね備えています。顧客とのつながりを保ちながら、例えばSpotifyを通じて、新しい人々にも知ってもらえるのです」と彼女は強調します。

それは、自己成長、コミュニケーション、そして意識的な美容の交差点に位置する、現代的で感性豊かなツールといえるでしょう。

ポッドキャスト制作に必要な最低限の機材と環境

一般的なイメージとは異なり、ポッドキャストの制作に最先端の設備は必須ではありません。重要なのは、音質の良さと丁寧な編集です。無料で利用できるツールも多く、スムーズでシンプルな制作が可能です。

AliceはMacとGarageBandを使用し、録音、編集、さらには著作権フリー音源を用いたイントロ音楽の追加まで行っています。使用しているマイクも、Amazonで購入した手頃な価格のシンプルなものです。

配信については、現在のところSpotifyのみですが、今後はApple Podcastなど、他のプラットフォームへの展開も予定しています。その制作プロセス全体は非常にシンプルで、専門的な技術者でなくても始められることを示しています。

施術を優先しながら続けるポッドキャスト運用

Aliceにとって、ポッドキャストは施術活動と競合するものではなく、あくまで自然に組み込まれた存在です。「もちろん、具体的で収益につながる施術を最優先しています」と彼女は語ります。重要なタイミングを見極めながら、スケジュールの中に制作時間を確保し、それを守るよう心がけています。テーマや制作可能な時間に応じて、柔軟に配信しています。

インスピレーションは、日常の中にあります。「施術中の体験や顧客との会話など、アイデアは至るところにあります。書き留めておけば、白紙を前に悩むことはありません」

各エピソードには、明確なビジネス上の目的もあります。ポッドキャスト内で紹介したアドバイスや技術が、スタジオで提供するケアへと自然につながるよう、控えめな行動喚起が組み込まれています。「日記ではなく、施術のためのレバーです」と彼女は述べます。

また、毎回、その時々の占星術的エネルギーについても触れています。水星逆行や食のシーズン、月の満ち欠け、2025年から2026年にかけての集合的エネルギーなどがテーマとなります。

各エピソードの再生回数は、およそ40回です。「Spotifyのみで、積極的なプロモーションも行っていないことを考えると、再生数の伸びは励みになります」と彼女は語ります。9月に配信された、変化を加速させる強い時期として知られる食のシーズンを扱った回は、大きな反響を呼びました。

制作時間は1エピソードあたり約2時間です。構想と構成に1時間、録音に約1時間、配信準備に15分ほどを充てています。最終的な再生時間は15分から30分程度です。

「構成と箇条書きがあれば十分です。すべてを書き起こす必要はありません。そうしないと準備に時間がかかりすぎて、形式が硬直してしまいます」と彼女は助言します。

SNS起点で理解を深める顧客接点の広がり

Aliceのポッドキャストは開始から日が浅いものの、すでに効果は現れています。「今のところ、主な役割は顧客との関係維持です。毎回欠かさず聴いてくださる顧客が何人もいます」

一部の顧客は、彼女のコンテンツをSNSで共有しており、それが自然な形での口コミにつながっています。「ケアを中心としたコミュニティのようなものが生まれている点が興味深いです」

また、ポッドキャストは彼女のアプローチを可視化する役割も果たしています。「Instagramで私を知った方が、その後ポッドキャストを聴き、私自身や哲学、仕事の進め方を理解してくださることが多いです」と彼女は説明します。

美容の専門家がポッドキャストに向き合う基本姿勢

Aliceは、ポッドキャストに挑戦したいと考える美容の専門家に向けて、次のようなアドバイスを共有しています。

  • テクノロジーを恐れないこと
    編集経験がなくても、直感的で扱いやすいツールが存在します。
  • 周囲とつながり、新たなスキルを身につけること
    学び、支援を受け、協業することで、効率と自信が高まります。
  • 施術との連動を意識すること
    主軸となる活動を補完する形でポッドキャストを活用し、コンテンツと関係性の機会を広げます。
  • マルチチャネルを活用すること
    音声や動画の抜粋をSNSで発信し、より幅広い層に届けます。
  • 自分の声と真正性を見つけること
    他者と比較せず、自身のアプローチや情熱、独自のコンセプトを大切にします。
  • 自分に合った形式を選ぶこと
    10分から30分程度の、無理なく消化できる長さを優先します。
  • 成長のためのレバーとして捉えること
    差別化を図り、価値を生み出し、創作そのものを楽しむためのツールとして活用します。

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