【連載】化粧品・美容関連ベンチャー企業の成長軌跡【52】マリンナノファイバー① ~カニの甲羅から化粧品、食品の新素材を開発~
2017.02.20
編集部
株式会社マリンナノファイバー(鳥取県鳥取市、社長 伊福伸介氏)は、キチンナノファイバーの事業化を目的に2016年4月に設立した鳥取大学発ベンチャー企業。
鳥取県の主要港は、カニの水揚げ基地として有名で、特に紅ズワイガニの漁獲量が国内の半分以上(年間8000トン)を占める。その周辺では、これまで、水産加工会社がカニのむき身を缶詰にする工程で、大量のカニ殻を食品残渣として発生し、その多くが廃棄されていた。
そこで同社は、カニの甲羅の有効活用を図るため、鳥取大が特許を取得した「セルロースナノファイバーの単離技術」を応用して、カニ殻から新素材の「キチンナノファイバー」を開発して化粧品、食品等に応用する取り組みを行っている。
キチンナノファイバーの製造は、カニ殻に含まれる炭酸カルシウムとタンパク質をそれぞれ、酸による中和反応およびアルカリによる可溶化によって取り除く。
カニやエビ殻に含まれるタンパク質は、アレルゲンである。アレルゲンは、除タンパク処理を繰り返し行うことによって検出限界以下まで除去することができる。次いで、この精製したキチンを湿式で粉砕装置に通すことで完了する。
いわば、製造工程は精製および粉砕のみであり、いたって単純であるが、そのような操作で目的のキチンナノファイバーを生産できる。
単離されたキチンナノファイバー(写真)は、幅がわずか10ナノメートル(nm)と極めて細く均一で美しいネットワーク状の構造が観察できる。
キチンナノファイバーが得られる理由は、カニ殻の構造にある。
カニ殻は、キチンナノファイバーとタンパク質が複合体を形成し、階層的に組織化され、その隙間に炭酸カルシウムが充填されている。カルシウムは、キチンナノファイバーを支持する充填剤である一方、タンパク質はカルシウムの析出を促す核剤の役割を果たしていると考えられている。
このため、これらを除去すると支持体を失ったキチンナノファイバーは,比較的軽微な粉砕でも容易にほぐれる。これがナノファイバーを単離できる機構である。
キチンナノファイバーの特徴として水に対する高い分散性が挙げられるが、同社は「高粘度で半透明な外観は可視光線よりも微細な構造と高い分散性を示唆している.そのため、ほかの基材との混合や塗布,用途に応じた成形が可能である。キチンがセルロースに継ぐ豊富なバイオマスでありながら、これまで直接的な利用がほとんどされていなかったのは不溶であり、加工性に乏しいためであった。ナノファイバー化によって材料として操作性が向上したことは、キチンの利用を促すうえで大きな意味を持つ」と指摘している。