傾聴する姿勢、優しさ、思いやりは、美容のスペシャリストにとって欠かせない資質です。雇用されている立場であれば、これらの資質だけで仕事をうまくこなすことができます(ここで言うのは「資質」であり、「スキル」ではありません)。しかし、自ら起業家となる場合には、別の資質を身につける必要があります。その中でもまず第一に育てるべきなのが、「レジリエンス(回復力)」です。
執筆:Isabelle Benmansour
美容業界で求められるレジリエンスの力
Isabelle Benmansour (訪問美容に特化したビジネスコーチ)
レジリエンスは一般的に「資質」として捉えられますが、時間をかけて育てたり強化したりすることもできるため、「スキル」としての側面も持っています。資質としてのレジリエンスとは、逆境に直面した際にそれを乗り越え、困難な経験のあとに立ち直り、失敗から再び立ち上がる能力のことを指します。それは、人生の困難に対する内面的な強さや精神的な姿勢として捉えられることが多いです。
しかし、多くの心理的特性と同様に、レジリエンスも育てることが可能です。例えば、ストレス管理、感情のコントロール、困難を乗り越えるための戦略を学ぶといった日々の実践を通じて、レジリエンスは高めることができます。このような取り組みによって、レジリエンスは経験と意識的な努力によって磨かれる「スキル」としての側面を持つようになります。
レジリエンス診断で知るあなたの強みと課題
あなたが訪問エステティシャンであっても、サロンの経営者であっても、レジリエンスは欠かせない資質です。この力があれば、予期せぬ事態を冷静に受け止めて乗り越え、たとえ緊迫した状況であっても適切な解決策を見出すことが可能になります。
以下は、実際に直面する可能性のある課題の例です。
- 直前のキャンセルによって予定が大きく狂う場合
- 使用する機器の故障や在庫切れによって、施術内容に影響が出る場合
- 固定費の支払いが重くのしかかったり、閑散期の資金繰りに悩むときの金銭的プレッシャー
- 顧客との良好なコミュニケーションの維持や、スタッフ間のトラブルの解消といった人間関係のマネジメント
このような状況において、レジリエンスは冷静さを保ち、具体的な解決策を見つけ、長期的な目標に集中し続ける助けになります。一人で働いていても、チームに囲まれていても、立ち直る力こそが決定的な違いを生むのです。
レジリエンスタイプ診断
このミニテストによって、自分の現状を把握し、今後の改善点を見つけることができます。以下の5つの質問に対して、「まったくない/ときどきある/よくある」のいずれかで答えてください。
- 予期せぬ出来事が起きたとき、実用的な解決策を積極的に探しますか?
- 物事が思い通りに進まないとき、冷静に状況を見つめ直すことができますか?
- 批判や失敗を経験したあと、すぐに行動を再開できますか?
- 困難な状況を、学びや成長の機会として捉えることができますか?
- 必要なときに、助けやアドバイスを求めることができますか?
「まったくない」が多数の場合
あなたのレジリエンスは今後伸ばすことができます。これは弱点ではなく、一部のツールや習慣があなたにとって有益であるというサインです。
「ときどきある」が多数の場合
レジリエンスの基礎は備わっていますが、もう少し体系的に取り組むことで、特定の状況をよりうまく乗り越えられるようになります。
「よくある」が多数の場合
素晴らしいです。あなたのレジリエンスは、仕事において大きな強みです。困難を自信を持ってチャンスへと変える力があります。まずは自分自身を大切にしてください。自分のエネルギーが枯渇している状態では、持続的に他人へ何かを与えることはできません。
ポジティブ思考でレジリエンスを高める方法
前向きな姿勢を育てること
問題に直面したときには、「どんな解決策を提供できるか?」と自問してみてください。悲観的な考えにとらわれた態度では、前には進めません。もちろん、状況の重さを感じるのは自然なことです。私たちは人間なのですから、感情を抱えることは当然です。フラストレーションを吐き出す時間を取っても構いませんが、早めに立ち直ることを忘れないでください。ポジティブな方向に気持ちを向け直す力は、非常に大きな強みになります。
物事を明確に見ること
ここで言うのは、深刻な悲劇を過小評価するという意味ではありません。日々の業務における困難に対して、「半分しかない」のではなく「半分残っている」と捉えることが、大きな違いを生みます。たとえ厳しい状況であっても、常にそこから得られる教訓や恩恵は存在します。これは私自身の経験に基づいた言葉です。私のレジリエンスは、自らの健康が脅かされたような状況すら乗り越える力となってきました。
柔軟性と適応力を持つこと
変化を受け入れ、状況に応じてアプローチを調整することが重要です。「もう解決策はない」と思い込んでしまってはいけません。解決策は必ず存在します。ただ、まだそれに気づいていないだけなのです。なぜなら、目の前にある可能性に十分注意を払えていなかったり、行動せずに立ち止まってしまっていたりするからです。実際には、行動こそが変化を生み出すのです。
セルフケアを最優先にして立ち直る力を育む
ここでは、起業家としての人生におけるレジリエンスの育て方についてお話ししていますが、その原点はまず、あなた自身の私生活の中にあります。レジリエンスは、日々の積み重ねによって育てていくものです。
ストレス管理のためのテクニック
呼吸法の実践や、瞑想・スポーツといった心を落ち着ける日常的なルーティンを取り入れることが有効です。
瞑想はあまり好きではないですか?私も同じです!しかし、それでも自分に合ったストレス発散法を見つけることはできます。例えば、趣味に打ち込むこと、散歩をすること、大切な人と過ごすことなど、どのような方法であっても構いません。重要なのは、定期的にリラックスのための時間を確保し、プレッシャーを軽減することです。
自分自身を最優先にすること
もっとも重要なことは、「何よりもまず自分を大切にする」ということです。たとえ自宅が片付いていなくても、仕事で緊急対応が求められていても、あるいは友人が助けを求めていても、思い出してください—あなたが最優先なのです。世界は、あなたが立ち止まっても止まりません。それは時に厳しい現実に思えるかもしれませんが、同時に気持ちを切り替えるきっかけにもなるのです。
自己成長
自分自身を知ること、反応の傾向や制限的な思い込みを理解することは、人生の出来事をより良く受け止めるうえで役立ちます。自己成長の方法にはさまざまなものがあります。例えば、本を読むこと、インスピレーションを与えてくれる動画を観ること、研修を受けること、自己理解のためのテストを行うこと、コーチングを受けることなどが挙げられます。しかし、最初の一歩は「より良い自分になりたい」と心から望むことです。レジリエンスを仕事の進め方にも取り入れてください。美容業界では、常に変化が起こります。新しい技術、革新的な美容機器、そして顧客の期待も日々変化しています。こうした変化を積極的に受け入れ、それをチャンスに変えていくことこそが、レジリエンスの現れなのです。
レジリエンスという教訓
腰の不調が原因で訪問エステの仕事を続けられなくなったとき、私はまず深い失望を感じました。大好きだったこの仕事ができなくなり、その現実を受け入れるまでに時間がかかりました。しかし、この困難をチャンスへと変えることができたのは、私のレジリエンスのおかげです。
もう一つのキャリア
顧客対応マネジメントの分野でのもう一つのキャリアがあったおかげで、訪問エステティシャンの起業支援に専念するという道を選ぶことができました。この転機は私にとって大きな気づきとなり、私は今の仕事を心から楽しんでいます。
現在の活動
現在は、自らの経験を活かし、他のプロフェッショナルたちがより自信と明確な軸を持って活動できるようサポートしています。この経験を通じて、私は「すべての終わりは、新たな始まりになり得る」ということを学びました。そのためには、勇気を持って違う道を選ぶことが必要です。
経営力を磨く起業家スキルとマネジメント力
それは、多くの場合、自分のコンフォートゾーンから抜け出し、素早く適応し、優先順位を再構築しなければならないからです。新しい技術や革新的な美容機器を導入し、顧客のニーズに応えることが基本であることは、すでにご承知のとおりだと思います。しかし、それと同じくらい重要でありながら見落とされがちな、もう二つの柱を忘れないでください。それらは、ビジネスにおける困難を乗り越える力に大きく影響するものです。
業務を効率化するデジタルツールの活用
デジタルソリューションを取り入れることで、あなたの業務管理は大きく変わります。
オンライン予約の導入、Notion、Trello、Asanaといったプロジェクト管理ツールの活用、SNSやメール自動配信などによるコミュニケーションの効率化は、時間と心の余裕をもたらしてくれます。さらに一歩踏み込んでみたい方には、ChatGPT、Gemini、Copilot、PerplexityといったAIツールを活用することで、戦略の構築やコンテンツ制作のサポートまで可能になります。
起業家としてのスキルを伸ばすこと
これらのスキルはしばしば軽視されがちですが、実はビジネス上の課題に立ち向かうためには不可欠です。あなたが個人で活動している場合、エステティシャンとしての技術力を高めるだけでは不十分であり、経営者としての成長も求められます。マーケティング、販売戦略、事業計画、さらにはチームを抱えている方であれば、現場マネジメントといった分野においても、自身の専門性を高めるための投資を行うことが大切です。
また、他の組織と連携して仕事をする場合には、横断的なマネジメントを忘れないようにしてください。ここで求められるのは、複数の関係者が関わるプロジェクトを適切に管理する力です。例えば、パートナーブランド、外部の業務委託先、あるいは異なるサロンや同業者同士による協業などが該当します。
失敗から学ぶ力が美容ビジネスを強くする
正直に申し上げると、私は自分のしていることが好ましく思われない場合には、無関心の滲む沈黙に向き合うよりも、率直に伝えていただく方がありがたいと感じています。 たとえ耳が痛いとしても、批判は自分を見つめ直し、成長のきっかけとなる貴重な機会です。もちろん、面と向かって平手打ちを受けるような言い方をされれば、つらく感じるのも無理はありません。正直に言えば、顧客は必ずしも遠慮しながら不満を伝えてくれるとは限りません。満足してもらえなかった場合、それは顧客にとって「自分の満足感」と「お金」が損なわれたと受け取られるからです。
そんなときに必要なのが、あなたのレジリエンスです。感情的にならずに冷静に状況を収め、顧客を安心させる即時の対応策を見つける力、そして同じ問題が再発しないよう自分のやり方を見直す力が、あなたの価値を高めます。
失敗を前向きに捉える言葉たち
失敗に対して前向きに捉える名言は数多くあります。中でも、特に響くものを二つご紹介します。
「私はこれまで一度も失敗したことがありません。 あったのは、ひどい教訓だけです。」
— Oprah Winfrey
「失敗は成功の礎である」
— 老子
これらの言葉が示しているのは、古代から現代に至るまで変わらない一つの真理です。つまり、レジリエンスこそが失敗を学びに変える鍵なのです。そのためには、まず失敗を経験することが必要です。つまり、行動することが前提です。そして、行動の中で失敗を受け入れ、そこから学び、再び前に進むための強い意志が必要になります。
美容ビジネスで実践できるレジリエンスの基本
- ストレスを管理し、前向きな気持ちを保つこと
- 変化に適応し、失敗から立ち直ること
- 他者から学び、自分自身の意志を強くすること
レジリエンスは、単なるスキルではなく、人生を前に進めるための「心の姿勢」です。
レジリエンスを育てることで、あなたはどんな困難も成長の糧として、さらに前へと進むことができるようになります。