- 市場の多様化と新規参入:化粧品市場は通信販売の拡大(構成比13.2%に成長)により、巨額の投資なしで異業種やベンチャー企業が参入できる環境が整いました。
- OEM受託側の参入理由と強み:原料メーカーが長年培った「研究開発力」や「製造技術」を活かし、自社原料の販路拡大を狙ってOEM事業を展開するケースが目立ちます。
- OEM事業のメリットと課題:自社の技術力をアピールでき費用対効果が高い反面、クライアント主導の「タイトなスケジュール」や「受注の波(閑散期・繁忙期)」による生産調整の難しさが最大のデメリットです。
- ファクトデータ:本記事は株式会社美容経済新聞社が2021年5月〜6月に実施した「化粧品OEMに関する調査(OEMメーカー15社対象)」の一次データに基づき解説しています。
激動する化粧品市場の現状と新規参入の背景
現在の化粧品市場は、アイテムの種類、効果効能、使い方、配合成分など、実に多種多様な広がりを見せています。消費者の選択基準はかつてなく厳しくなっており、「本当に良いもの」「自分の望む効能を実感できる実質重視型」の化粧品を見極めようとする傾向が強まっています。
異業種コスメとドクターズコスメの台頭
こうした消費者ニーズに応えるべく、既存の化粧品メーカー以外の新規参入が市場を活性化させています。具体的には、自社の強みを化粧品に応用した「異業種コスメ」、大学や病院などの専門家が開発に携わる「ドクターズコスメ」、そして原材料に徹底的にこだわる「オーガニックコスメ」や「自然派化粧品」などが挙げられます。
通信販売の急成長と市場構造の変化

新規参入を強力に後押ししているのが、インターネットの急速な普及と口コミサイトの影響力の高まりです。富士経済の調べによると、2013年の化粧品市場規模は2兆3249億円に達しています。チャネル別の市場構成を2008年と比較すると、大きな地殻変動が起きていることがわかります。
- 通信販売:2385億円(10.7%)から、3075億円(13.2%)へと大きく伸長。
- ドラッグストア:6125億円(27.4%)から、6809億円(29.3%)へ拡大。
- 百貨店や訪問販売:構成比を落とす結果となっています。
店舗を持たない通信販売は、低コストで企業運営が可能であり、中間マージンを削減できるというメーカー側のメリットと、いつでもどこでも購入でき、自宅に商品が届き、口コミサイトで価格や詳細を比較できるという消費者側のメリットが合致しています。インターネットの特性により、生産・販売・物流・広告・人的資源に巨額な投資を行わなくても、化粧品市場への参入が可能となりました。
異業種からの参入成功事例
通信販売を主戦場とした異業種からの参入事例は枚挙にいとまがありません。
- 富士フイルム(アスタリフト):2007年9月発売。通信販売からスタートし、実績を作った後にバラエティショップや量販店へ展開。
- サントリー(F. A. G. E.):2010年3月発売。
- ニチレイ(シルヴァン):2009年8月発売。
- コンビ(ナナローブ):2009年4月発売。
- ヤマダ電機(いな穂のしずく):2007年7月発売。
これら全国展開が難しいベンチャー企業や異業種が化粧品を販売する際、裏で実際の製造を担っているのが「化粧品OEMメーカー」なのです。
OEMメーカーの実態:なぜOEM事業を始めるのか?
では、受託側である化粧品OEMメーカーは、どのような経緯と強みを持って事業を展開しているのでしょうか。
研究開発力と製造技術を活かすための決断

調査において「化粧品OEMを始めた主なきっかけ」を尋ねたところ、「研究開発力を活かしたい」という回答が最も多く集まりました。次いで「製造技術を活かしたい」「企画力や商品提案力に自信がある」「営業力に自信がある」といった技術・提案力に立脚した理由が続きます。 原料メーカーとして長年培ってきた研究開発力や技術力を背景に、そのパフォーマンスの高さを発揮する場としてOEM市場が選ばれています。また、「自社で販売ルートを持っていなかった」ため、自社の持つ技術を世に出すためにOEMに進出したという企業も見受けられました。
OEMメーカー最大の強みは「独自技術とオリジナル原料」
「化粧品OEMにおける自社の強み」についての問いでは、「研究開発力」を強みと認識している企業が圧倒的多数を占めました。しかし、真の差別化ポイントとなっているのは「自社技術を盛り込んだ特長的な原料」や「オーガニック等、自社の特長」「種類豊富な原料」の存在です。 単に言われた通りに作るのではなく、自社のオリジナル原料を組み合わせた独自の処方提案ができるかどうかが、他社との競争を勝ち抜く最重要ポイントとなっています。また、「企画〜納品までの早さ」や「商品企画・商品提案力」も高く評価されています。
OEM事業の「光と影」:受託側が感じるメリットとデメリット

メーカーとして蓄積してきたノウハウを活かせるOEM事業ですが、現場には特有のジレンマも存在します。
OEM受託のメリット:費用対効果とリスク回避
OEM事業の良い点としては、「自社の製造技術を活かせる」「企画力や商品提案力を活かせる」「自社の研究開発力を活かせる」といった点が高く評価されています。 さらに注目すべきは、「費用対効果が高い」「過剰在庫等のリスク回避できる事業だから」という経営効率の良さを挙げる声が多いことです。商品企画から製造のフェーズに特化できるため効率的であり、メーカーの原点である「自社原料を普及できる」ことが大きなメリットとして捉えられています。
OEM受託のデメリット:クライアント主導ゆえの苦悩
一方で、「最も良くない点」として回答が集中したのが、「スケジュールがタイト、納期まで短い」という問題です。次いで「受注するための営業が大変」「受注が安定しない」といった点が挙がりました。 OEM事業はクライアントの都合に左右される側面が強く、厳しい状況での仕事も多い様子がうかがえます。「繁忙期と閑散期の差がある」ことは、企業として事業全体を見た際に、コンスタントに工場ラインを稼働させられない、あるいは受注が重なった際の生産調整が極めて難しいという、生産性や効率性に直結する深刻な課題となっています。限られた時間の中で、いかにクオリティの高いものを出せるかが企業力に依存しています。
化粧品業界におけるOEMの立ち位置と今後の展望
過酷な側面もあるOEM事業ですが、今後の見通しについて受託側企業に尋ねると、大半の企業が「拡大」していくと回答しています(現状維持や縮小と答えた企業はごく少数でした)。現在ではOEMが「主力事業のひとつだから」という声が多く、メーカーとしてのこだわりと自信をベースに、OEMを基幹事業として育てていく意向が強く見られます。
売上高ランキングから読み解くOEMの重要性
2013年3月決算の化粧品業界売上高ランキング(業界動向SEARCH.COMより)を見ると、資生堂(6777億円)、花王(4444億円)、コーセー(1706億円)といったナショナルブランドが上位を占めていますが、OEMの存在感も際立っています。 例えば、8位のドクターシーラボ(390億円)はドクターズコスメの先駆けですが、自社工場を持たずOEM委託を行い、自社資源をマーケティング投資に集中させることで成功を収めています。7位のファンケル(467億円)や、自然派化粧品で11位のハウスオブローゼ(143億円)も生産を外部委託しています。 さらに、13位にはOEMメーカーである日本色材工業研究所(70億円)がランクインしています。OEM受託会社はブランドの前面に名前が出ることこそ少ないものの、化粧品市場の裏側で確かな実績を重ね、市場を陰で支える巨大な産業として確立されていることがわかります。
化粧品OEM市場は、今後も引き続き活性化していくものと思われますが、化粧品自体が成熟市場であるため急激な伸びは期待できず、OEMメーカー同士の競争はより一層厳しくなることが予想されます。次回の【後編】では、このOEMを利用してオリジナルブランド立ち上げを狙う「エステティックサロン(委託側)」のリアルな実態と、そこにある「壁」について深く掘り下げていきます。
