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動物実験禁止とマイクロプラスチック規制──美容市場の新基準

近年、美容業界を取り巻く環境規制が世界各地で加速している。EUでは、マイクロプラスチックを含む化粧品の段階的禁止が進み、米国カリフォルニア州でもパーソナルケア製品におけるマイクロビーズ規制が控えている。さらに動物実験禁止の潮流は、アジア諸国や日本市場にも波及しつつある。こうした規制は単なるコンプライアンス対応にとどまらず、研究開発からサプライチェーン、ブランド戦略までを再考させる契機となっている。環境・倫理を軸とした「次の成長条件」が、美容業界に突きつけられている。

欧州連合(EU)が2013年に化粧品の動物実験を全面禁止して以降、イギリス、ノルウェー、韓国、インド、ブラジルなどが相次いで追随し、「クルエルティフリー化粧品」は国際的なスタンダードへと近づきつつある。背景には、倫理的観点のみならず、消費者意識の大きな変化がある。

国際的な第三者認証機関 NSF International(旧称 National Sanitation Foundation) が実施したグローバル調査によると、米国・英国・南アフリカ・ブラジル・メキシコ・イタリア・スペインの7か国・7,000人以上の消費者を対象にした結果、73%が製品購入時に動物福祉を「非常に重要」または「極めて重要」と回答し、74%が動物福祉に関する第三者認証を受けた製品を購入する可能性が高いと答えた。特に南アフリカ(84%)やブラジル(81%)では関心が際立って高く、女性や若年層(18~44歳)が全体的に強い関心を示していることが明らかになっている。

このような調査結果は、クルエルティフリーが一部の倫理的選好ではなく、消費者にとって「必須条件」へと変化しつつあることを裏付けている。実際、2023年の世界コスメ市場においては、クルエルティフリー製品が売上全体の70%以上を占めたとの調査結果も報告されている(Grand View Research)。

こうした潮流は中国市場にも及んでいる。同国では長らく輸入化粧品に対し動物実験データの提出が義務付けられていたが、2021年からは一般化粧品に限り条件付きで免除が認められるようになった。これを契機に、グローバルブランドは戦略の再構築を迫られることとなった。

一方、日本市場においては法的に全面禁止されてはいないものの、企業の自主的な対応が進展している。大手3社を例にとると、資生堂は2013年に動物実験廃止を表明し、細胞培養モデルや人工皮膚を活用した代替法の開発を加速。花王は2009年から代替法研究を本格化し、2015年以降は新規化粧品における動物実験を行わない方針を明示している。ファンケルは「動物実験を一切行わない」と早期に宣言し、エシカルブランドとしての地位を確立してきた。

動物実験と並んで、美容業界が直面するもう一つの課題がマイクロプラスチック規制である。マイクロビーズを含む洗浄料やスクラブは、長らく環境汚染の原因として問題視されてきた。米国では2015年に「Microbead-Free Waters Act」が成立し、2017年には製造、2018年には販売が禁止された。

日本では2022年に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、業界には代替素材への転換が求められている。国内メーカーはこの流れを受け、米ぬか・こんにゃく・海藻など、日本特有の植物由来素材を活用した生分解性スクラブを開発している。こうした「伝統素材 × サステナビリティ」の組み合わせは、海外市場でも高く評価されつつあり、日本独自の強みとして差別化につながっている。

EUでは2023年10月にREACH規則に基づき、「意図的に添加されたマイクロプラスチック」の使用制限(Commission Regulation (EU) 2023/2055)が施行された。用途によっては4〜12年の移行期間が設けられているが、規制の方向性は明確であり、メーカーにとって製品設計の抜本的な見直しが避けられない状況にある。

環境リスクの深刻さも科学的に示されている。顔用スクラブを1回使用するだけで最大94,500粒のマイクロビーズが環境に流出するという研究報告があり、この現実が代替素材開発を急務とさせている。日本メーカーが得意とする「自然素材の応用技術」は、この規制環境において国際的な競争力を発揮できる分野といえる。

規制強化は法的対応にとどまらず、消費者の価値観にも深く関わっている。例えば、Global Growth Insights のレポートでは、「世界の消費者の60%以上が、クルエルティフリー認証された製品(動物実験を行っていない商品)を好む傾向がある」とされており、この傾向は欧州や北米で特に強いと報告されている。

また、 “Exploring consumer purchase intention towards cruelty-free beauty products” では、調査対象者のうち 約73.9%が動物実験を行っていない化粧品を購入する意向を示しており、倫理性の重要性が消費者の購買意思決定において実質的な影響を持っていることが確認されている。

日本に関しては、ナチュラル・オーガニック化粧品市場に関する調査の中で、「日本の消費者は、商品の安全性だけでなく環境に配慮した製品を求めており、若年・都市部におけるサステナビリティ志向が強まっている」という報告が出ており、クルエルティフリーやヴィーガン表記を含む製品への関心が上昇していることが示されている。 

これらのデータから、Z世代やミレニアル世代を中心に、エシカルやサステナブルといった価値観が「付加的な選択肢」ではなく「製品を選ぶ上での前提条件」として消費者に受け入れられつつあることがうかがえるだろう。

こうした規制と市場環境の変化は、美容企業に複合的な対応を求めている。研究開発では、動物実験代替法やバイオ由来素材、AIやビッグデータを活用した肌反応予測モデルなどへの投資が不可欠となる。サプライチェーンにおいては、規制対応可能な原料の調達と、その透明性がブランド信頼性の基盤となる。

マーケティングにおいては、エシカルやサステナブルをブランドの中核に据えることが、とりわけZ世代・ミレニアル世代の支持獲得に不可欠である。製品性能に加え、「企業姿勢」そのものが競争力につながっている。さらに、規制対応を強みに変えることで、プレミアム市場やホテル・スパとの協業による「サステナブル美容体験」など、新しい市場機会も広がりつつある。

日本においては特に、伝統素材と最新技術を組み合わせた「ジャパン・サステナブルモデル」を構築できるかどうかが、国際競争力の鍵になるだろう。

動物実験禁止やマイクロプラスチック規制は、美容業界にとって避けられない課題である。それは同時に、業界のあり方を刷新し、持続可能な成長の条件を整える契機ともなり得る。消費者ニーズ、法規制、技術革新が交差するいま、規制対応を「守り」ではなく「差別化の武器」として活かせるかが問われている。

日本市場においては、資生堂や花王、ファンケルをはじめとする大手企業がクルエルティフリーや代替試験法を先取りしており、伝統素材を活かした環境対応型製品の開発も進んでいる。国際市場での輸出依存度を考えれば、世界基準への適応は不可避だが、それを単なる義務ではなく競争優位に転換できるかどうかが分岐点となる。

日本発のサステナブル美容が世界に発信される可能性は十分にあり、今こそその実現に向けた動きが期待される。

参照サイト
1. Global Growth Insights「Cruelty-Free Cosmetics Market Size, Share, Growth, and Industry Analysis」

2.Japan Natural Cosmetics Market Analysis – Size, Share & Trends 2025 to 2035

3. IDEAS FOR GOOD「欧米で関心が高まるクルエルティフリーの化粧品。動物を守る新しい考え方とは?」

4. Nearly 70% of Americans Say Animal Wellness Plays an Important Role in Purchasing Decisions

Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

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美容経済新聞

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