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五感と神経科学が牽引する美容サービスの高度化―施術価値を高める新要素とは

視覚、聴覚、嗅覚、そして一般的に語られる触覚のその先には、まだ十分に認識されていない感覚の領域が広がっています。こうした感覚は、施術やボディケア、化粧品、さらに各種プロトコールの受け手の知覚や効果に深く影響を与えています。サロン施術のプロトコールに、より豊かな感覚的価値を取り入れるためのヒントをご紹介します。

執筆:Laëtitia Poncet

最新神経科学が示す美容と感覚の新しい関係

感覚は刺激を神経伝達へと変換し、脳へ情報を届ける働きを持っています。脳は受け取った情報に応じて行動を調整します。この感覚システムは、人の生命維持に加えて、社会的および環境的な相互作用にも重要な役割を果たしています。

神経科学の発展とともに、こうした生理学的システムについての理解も進化しています。今では五感ではなく、少なくとも十種類以上の感覚が存在すると考えられています。ここでは、美容の現場や施術プロトコールに影響を与える可能性のある感覚を取り上げます。

身体のナビ機能として注目される固有感覚とは

固有感覚は一般にはあまり知られていない内部感覚ですが、視覚や聴覚と同じほど重要な機能を担っています。
この感覚は、手足など身体の部位が空間のどこにあり、どのように動いているかを正確に把握する働きを持っています。着座、立位、仰臥など身体の姿勢や、腕や脚の位置を視覚によらずに感じ取ることができます。
筋肉、関節、腱、靭帯、皮膚に存在する固有受容器から脳に送られる信号により、姿勢の安定、筋緊張、運動機能が調整されています。

高齢者ケアからスポーツまで広がる固有感覚活用の可能性

固有感覚を支えるケアが必要とされる理由

高齢者で自立度が低下している方、神経疾患の患者、また化学療法を含むがん治療を受けている方は、固有感覚の低下に直面することがあります。その結果として、動作の流れがぎこちなくなり、協調性が失われ、身体の動きに滑らかさが欠けてしまいます。

身体的・心理的に困難を抱えるこうした方々に向き合う専門家は、手技によるタッチだけでなく、リラクセーションやイメージ誘導のプロトコールを通じて、クライアント自身が身体のイメージを取り戻すことを促します。

施術中に伝わる感覚情報は脳に送られ、筋肉と神経系のつながりを強化します。その結果、全体的な固有感覚の向上につながり、動作の安定性や流れが改善されます。

科学的に証明された効果

臨床研究では、六十歳以上の男性を対象とした膝の施術が、固有感覚の信号処理の低下を補い、歩行が改善されることが示されています。

施術効果を高めるために欠かせない要素

健康な人にとって固有感覚は、無意識のうちに働いている場合が多いものの、本来は大切に扱うべき機能です。
この感覚の存在と役割について情報を伝えることで、クライアントは自ら意識してケアできるようになり、初期のバランス低下に素早く気づくきっかけになります。Shiatsu やバリニーズの施術のようなアプローチは、身体感覚への意識を高める助けとなります。

施術がもたらす作用

深層の筋繊維や関節に働きかける施術は、身体と神経系のつながりを促します。
こうした手技は、動きの正確性と調和を支える働きを持ち、長期的なウェルビーイングの維持につながります。なぜなら、固有感覚は加齢や身体へ負荷のかかる生活習慣、長時間同じ姿勢を続ける仕事などによって低下しやすい特性があるためです。

また、関節や背中の不調を抱える人が増加しており、これはそのままクライアントにも反映されています。こうした傾向を理解しておくことで、将来的な固有感覚の低下を予防するための施術を提案することができます。

スポーツ向け施術に欠かせない視点

固有感覚は、スポーツパフォーマンスと筋肉の回復において最も刺激される感覚のひとつです。スポーツ施術では、圧の調整、パーカッション、振動、パッシブストレッチ、特定の動きによるモビライゼーションなどが行われ、神経系と筋肉、靭帯、関節の連携が高まり、機能が向上します。これらの働きにより、敏捷性や筋力がより良く発揮されます。

冷感と温感が生み出す美容効果のメカニズム

温度感覚は、痛みを伴わない温度変化を身体が察知する能力です。脊髄や視床下部、さらに真皮や表皮に存在する温度受容器が変化をとらえ、中枢神経に伝達します。これらの受容器は、周囲の温度だけでなく、特定の香気分子や化学成分にも反応します。例えば、歯磨き粉に含まれるメントールによる冷感などがその一例です。

なぜ温度感覚が美容現場で重要なのか

実際のところ、この感覚はすでにボディラップ、施術用のさまざまなツール、温感または冷感タイプのフェイスマスクなどによって刺激されています。
しかし温度感覚は、より新しいトレンドであるニューロコスメティックの中心に位置しています。これらの処方は、皮膚と神経系の関係性を活かし、化粧品を塗布する際の感覚的かつ情緒的な没入体験を生み出すものです。こうした美容アイテムは、皮膚に存在する温度受容体を刺激し、トップケア製品の使用時に脳がどのように反応するかへ働きかけます。

冷感をもたらす成分

例えば、メントール、サリチル酸メチル、乳酸メンチル、メントンのグリセリンアセタールなどは、皮膚の冷感受容体を刺激します。
これらの成分は、清涼感の向上によって保湿、むくみ軽減、引き締め、クレンジングといった効果を感じやすくします。冷たさの感覚は、こうした効果を求める人にとって「実感の指標」となるためです。そのため、洗浄料、メイク落とし、角質ケア、引き締めケア、脂性肌向けアイテム、脚の軽やかさをサポートする製品に適した成分といえます。

温感をもたらす成分

一方で、カンフル、バニリルブチルエーテル、ショウガやカプシクムの抽出物は、皮膚の温感受容体を刺激します。
これらは血管拡張を促し、血流を高め、肌にやさしい温かさを感じさせます。この働きは、心地よい温かさや緊張の緩和を求める人にとって、施術の効果を実感しやすくする要素となるため、温感タイプのオイルなどでよく利用されています。

温感と冷感がもたらす作用

温感成分は血管拡張を促すため、他の成分が肌に浸透しやすくなります。一方で冷感成分は、皮膚組織を引き締め、経表皮水分損失を防ぐ働きがあります。そのため、冷感は乾燥対策にも役立つと考えられます。
温度受容体の研究やニューロコスメティックによる革新はまだ始まったばかりですが、すでにサロン施術や化粧品の使用における感覚的なつながりに変化をもたらす可能性を示しています。

福祉・医療現場で注目されるノシセプションの役割

ノシセプションとは「危険から身を守るための感覚」を意味します。
この内部感覚は、中枢神経系が有害または危険となり得る刺激を察知し、回避するために働くものです。

なぜこの感覚が重要なのか

Société Française d’Étude et de Traitement de la Douleur(SFETD)は二〇一七年に、フランス国内で一二〇〇万人が慢性痛に悩んでいると推計しました。このうち少なくとも七割は、医療機関で十分なケアを受けられていませんでした。
この状況を受けて、病院や医療施設、EHPAD、高齢者施設では、痛みへの対処を補う手段が求められ、そのひとつとして社会支援領域での美容ケアが注目されました。その結果、医療チームをサポートする Fondation APICIL の協力により、多くの社会支援美容専門家のポストが創設されました。

科学的に証明された効果

研究では、施術における軽擦、特定の指圧、リフレクソロジーなどの手技が、急性および慢性痛のケアに良い影響を与えることが示されています。

ウェルネス体験を深める骨伝導技術の導入メリット

一般的に、音の波は空気中を伝わり、外耳に届き、耳道を通過して内耳に到達します。その後、蝸牛が音を神経信号に変換し、脳が意味として解釈します。

しかし、音にはもう一つの伝わり方があります。骨伝導、すなわちオステオフォニーです。
この仕組みでは、音の振動が頭蓋骨、特に乳様突起などの骨へ直接伝わるため、外耳や耳道を経由せず内耳に届きます。
その結果、専用デバイス(骨伝導ヘッドセットや、肘を専用プレートに接触させて使う仕組みなど)を身につけた人だけが、環境音とは別に音楽や声を認識できます。

最大の利点は、外部の音を遮断しないことです。そのため、周囲の状況に注意を向けながら、振動による音を明瞭に受け取ることができます。この特徴は、たとえば水泳選手が水中でコーチの声を聞く際などに重宝されています。

サロンに広がる音響演出の新しい可能性

スポーツ分野に加えて、この技術はウェルネス領域においても新しい可能性を開きます。すでに一部の施設では、Vichy Célestins のように水中サウンド体験への応用が始まっていますが、美容サロンでの活用はまだ大きく広がっていません。

しかし、体験の個別化が重視される今、骨伝導デバイスは施術ルームの音響をより没入的なものにし、クライアント自身がその世界に深く入り込む感覚をもたらすでしょう。複数人向けのワークショップを提供する際にも、体験価値を高める機会となります。

サロンでの具体的な応用例

たとえば、ガイド付き瞑想やソフロロジーのセッションを想像してみてください。骨伝導ヘッドセットを使用すれば、参加者一人ひとりが施術者の声に導かれつつ、自身の好みや必要に応じた音響空間に浸ることができます。ヘッドホンのように完全に外部音を遮断しないため、グループの空気感や一体感も自然に保たれます。

さらに、産前ケアを扱う専門家にとっては、母親と胎児が持つ音のつながりを豊かにする手段としても有用です。胎児はすでに子宮内で骨伝導による音を認識しているため、こうしたデバイスを用いることで、セッション中に母親の声や音楽をより効果的に届けることができます。

多様化する感覚が導く美容施術のパーソナライズ化

一部の専門家によれば、人間の感覚は8つどころか20種類に及ぶともいわれています。こうした感覚の拡張は、施術体験や化粧品の捉え方を新たにし、皮膚や筋肉、内臓と脳が相互に作用する仕組みへの理解を促します。これらの複雑な関係性を踏まえることで、施術者は一人ひとりの感覚に寄り添う、没入型で高度にパーソナライズされた施術プロトコールを創り出すことが可能になります。

Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

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ヌーヴェル国際版

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編集部(フランス)

Les Nouvelles Esthétiques編集部(パリ)…1952年にフランスで創刊されたLes Nouvelles Esthétiques社が発行する美容技術者や経営者向けの専門誌。本誌は、美容、健康、ウェルビーイングに関する情報を提供しており、世界20数か国にライセンスを供給するなど、国際的に展開する美容専門メディアとして広く認知されています。

  1. 五感と神経科学が牽引する美容サービスの高度化―施術価値を高める新要素とは

  2. サブスクとケアプログラムで実現する訪問型美容サービスの安定収益化アプローチ

  3. その協業相手は本当に正解?美容ビジネスを成功に導くための選び方

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