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2026年の美容ウェルビーイング市場を識者に聞く ― 冷却ケアの市場拡大を探る

これまで極端、あるいは一部の愛好家向けと見なされてきた冷却を用いるケアは、いまや現代のウェルビーイングに欠かせない存在として広く受け入れられるようになっています。エネルギーの高まり、筋肉の回復、ストレスへの対処力の向上、睡眠の質の改善など、その効果は確かなものであり、十分なデータに基づいており、長期的な活力や個人のパフォーマンス向上を求める人々から、ますます注目されています。

しかし、この変化は利用者の動向にとどまりません。ケア施設の運営者にとっても、既存の枠組みに揺さぶりをかける大きな転換となっています。冷たさを軸にした新しい利用体験の組み立て方が生まれつつある状況です。より総合的で、持続性があり、しかも収益性の向上にもつながる可能性があります。

これらの新しい技術が、利用者体験と施設の経営面にどのような価値をもたらすのかを理解するため、Attitude の創設者であり、ウェルビーイング関連機器の専門家として革新的なソリューション開発に携わる Lucas Magne 氏に話を伺いました。同氏との対話を通じて、この戦略的転換の意味、単なる話題性にとどまる機器と本質的な革新の違い、そして今後見逃せない動向について整理していきます。

アスリート発の冷却アプローチが美容業界で広がる理由

Lucas Magne 氏(Attitude 創設者/ウェルビーイング機器の専門家)
── これまでのご経歴と、冷たさが心身にもたらす効果に関心を持つようになったきっかけを教えていただけますか。

もともとラグビー選手として活動していたこともあり、かなり前から冷たさを利用した回復法に興味を持っていました。当時は非常にシンプルで、ゴミ箱に水と氷を入れた即席の冷水浴のような方法や、回復を早めるためのさまざまな手法を用いていました。

その後、全身用クリオセラピー装置の製造を専門とする企業で営業ディレクターを務め、国際的なネットワークの運営に携わりました。とりわけ、アメリカへの出張では常にトレンドの先を行く文化に触れ、ウェルビーイング施設の新しいモデルやフィットネス分野の革新的な形態など、多くの発見がありました。

こうした経験を経て、2022年10月に自らの会社を設立しました。目的は明確で、冷たさを利用した回復法に新たな視点をもたらし、ウェルビーイングや長期的な健康維持に大きな変化をもたらす革新的な技術を取り入れることでした。

── 冷たさを取り入れたケアは、ここ数年で特に注目を集めています。なぜ急に関心が高まったのでしょうか。

この関心は、まずトップアスリートたちが日常的に回復プロトコルへ取り入れたことが背景にあります。しかし、決定的だったのは Wim Hof 氏の存在です。同氏はこの実践を広く知らしめ、その優れた効果を世の中に伝える役割を果たしました。現在では科学的にも十分に裏付けられています。

冷たさとの向き合い方は、心身の双方に強力な刺激をもたらします。誰でも取り組むことができ、日常的に自分で行うことも、専門施設で指導を受けながら実施することも可能です。

── 冷たさを活用したケアは、ウェルビーイングの包括的アプローチと言えるのでしょうか。具体的な利点について教えてください。

これは真に包括的なウェルビーイングアプローチであり、常に変化する社会の中で、炎症やコルチゾール、睡眠、代謝のバランスといった重要なバイオマーカーに働きかけ、健康状態を最適化することを目指しています。

冷たさを利用した手法は、全身クリオセラピーや冷水浴など、形態はさまざまですが、いずれもこれらの指標に直接作用します。効果の範囲はそれだけにとどまりません。美容分野でも、脂肪細胞をピンポイントで減少させるクリオリポリシスや、肌を引き締めるクリオフェイシャルなど、即効性と視認性の高い結果をもたらす技術へと広がっています。

冷却テクノロジーの科学的効果と美容市場での価値


── 現在、冷たさを活用したテクノロジーに関して、最も根拠が確立されている生理的および心理的な効果には、どのようなものがありますか。

冷たさの活用による効果は多岐にわたり、使用する技術や目的によって科学的に明確なデータが存在します。この点を理解することは、利用者から具体的な質問を受けた際に適切な説明を行うためだけでなく、導入を迷うホテルやケア施設の総支配人に対し、流行ではなく実証された価値があることを示す意味でも重要です。そこで私は、既存の多くの研究を整理し、技術ごと・用途ごとに特に有効性が示されている項目をまとめました。

スポーツと回復

筋肉の回復

冷水浴(CWI)、全身クリオセラピー(WBC)、温冷交代(CWT)は最も研究が進んでいる分野です。2023年の52件を対象としたメタ分析では、運動後の冷水浴が筋肉痛の軽減と筋力の回復促進に有効であることが示されています。

手法ごとの比較

2024年のレビューによると、温冷交代(CWT)は筋損傷の指標となるクレアチンキナーゼの減少に特に効果的であり、WBC は痛みの軽減や神経筋回復の改善に優れているとされています。

炎症

2025年のメタ分析では、クリオセラピーの反復利用が炎症プロファイルを改善し、IL-1 の低下と IL-10 の上昇を導くことが示されました。

睡眠

2024年のアスリートを対象とした交差試験では、夜の WBC セッションが数日間にわたり睡眠の質を向上させる可能性が示されています。

神経系

2024年のメタ分析によれば、WBC と CWI は副交感神経活動(HRV)を高め、回復を促す働きがあるとされています。

長期的健康と代謝

褐色脂肪(BAT)の活性化

2022年と2024年のメタ分析では、冷たさへの曝露が BAT の活動量およびエネルギー消費を高め、糖代謝・脂質代謝の一部指標を改善する可能性があると示されています。

細胞代謝

2023年のメタボロミクス研究では、細胞の老化に関わる NAD 経路の代謝物が増加することが確認されました。

全身性炎症

2024年の全身クリオセラピー利用者のコホート研究では、高感度 CRP(hs-CRP)が有意に低下し、炎症の改善が見られました。

ウェルビーイング、心理状態、睡眠

睡眠と気分

2024年の健常者を対象とした研究では、5日間の WBC により睡眠の質と気分が向上したと報告されています。

神経化学作用

2024年のレビューでは、冷たさがカテコールアミンやエンドルフィンの分泌を促し、気分の改善や注意力の向上につながる可能性が示唆されています。

生活の質

2024年の公衆衛生領域の分析では、ストレスや生活の質に対する好影響が報告されていますが、研究数はまだ限られています。

脳への影響

2023年には、頭部を水面に出したままの冷水浸漬により、気分の改善と関連する脳の接続性の変化が生じることが画像研究によって確認されました。

美容分野

クリオリポリシス(ボディ)

この技術に関するエビデンスは極めて堅実です。臨床研究および体系的レビューでは、2~3回の施術後、12週間の評価で皮下脂肪の厚みが平均15~25%減少することが示されています。

私たちが扱う技術は、まさに2025年の利用者が抱える課題に適合しています。睡眠、ストレス管理、エネルギー、エイジングケア、スリミングなど、関心はますます多様になっています。

── では、なぜこのアプローチはケア施設に適しているとお考えですか。

冷たさの活用はケア施設との相性が非常に良く、その用途は多岐にわたります。スポーツ利用者の回復サポート、日常生活の質の向上、美容目的の施術など、幅広い目的に対応できるためです。これは汎用性の高いアプローチであり、収益性も非常に優れています。施設では、プログラムとして組み込むことも、単発の体験として提供することも可能です。効果は直後から実感され、体験自体がユニークであるため、顧客の継続利用や追加メニューの購入につながります。

冷却ケア導入で収益を高めるビジネスモデル

── 成功している経済モデルや利用形態にはどのようなものがありますか。

私の経験では、もっとも成功しているのは、しっかりと構成された「巡回型の体験」を提供するモデルです。これらのプロトコルは、身体面と心理面の両方から全体的に働きかけます。もちろん一度の体験でも十分な効果が得られますが、持続的な変化を提供するにはプログラムとして継続的に受けてもらうことが理想です。そして、初回から効果が実感できる点が、他の長期型施術よりもプログラム販売において大きな優位性となります。結果として、収益性を高めるリピートビジネスを戦略的に構築することができます。

── では、ケア施設が「冷たさの巡回体験」を導入する場合、まず何から始めるべきでしょうか。

現時点で導入すべき技術として、収益性と扱いやすさの両面から明確に優位な3つがあります(運営スタッフと利用者どちらにとっても扱いやすい点が重要です)。

1. 電気式全身クリオセラピー
現在もっとも安全性が高い方法で、100%電気式で事故リスクがありません。頭部まで完全にキャビンに収まることで、効果がより高まります。唯一無二の体験価値を提供し、高い集客力を備えています。15分間隔で利用が可能なため、1日に多くの利用者を受け入れることができ、睡眠、全体的な心身状態、ストレス軽減に即効性があります。

2. クリオリポリシス
約45分の施術で皮下脂肪を最大25%減らす「パッシブな」スリミング技術です。高い収益性と美容領域での需要拡大により、大きな成長性があります。

3. 冷水浴(単独導入の場合は後工程)
単独で導入する場合は、利用には強い精神的準備が必要で、誰にでも向くわけではありません。しかし、温冷コントラスト(温→冷)に組み込む形であれば体験が大幅に取り入れやすくなります。アメリカの利用者、スポーツ愛好者、バイオハッカーなどは特に好む傾向があります。たとえば、赤外線サウナと組み合わせて提供することが可能です。

── 医療や規制面で注意すべき点はありますか。この種の体験にはどのような管理が必要でしょうか。

はい、規制の遵守は非常に重要です。医療行為に関わる用語を用いた説明や宣伝は認められていません。医師、理学療法士、医療専門職以外は医療的な表現を使用できません。そのため、コミュニケーションではウェルビーイング、身体のパフォーマンス、回復、生活の質などに焦点を当てることが求められます。

また、全身クリオセラピーとクリオリポリシスについては、専門的な研修を受けることを強く推奨します。

これらの研修では、相対的もしくは絶対的な禁忌事項について詳しく学ぶことができます。また、どのような場合に医師の判断を求めるべきかも明確に理解できるようになります。加えて、健康状態を把握するための問診票をどのように作成し、禁忌を特定し、それぞれの利用者に対して最も安全な形で寄り添うかについても習得できます。

冷却テクノロジーがもたらす高収益モデルの強み


── 従来の温熱系設備(サウナ、スチーム、ジャグジー)と比較して、冷たさを活用した技術の方が「収益性が高い」と言われるのはなぜでしょうか。

一般的に収益性が高い理由は、サウナやスチームなどの基本的な入場料金には含まれず、追加メニューとして提供されることが多いためです。また、これらの施術はより専門性が高く、軽度のサポートを必要とし、同時に利用できる人数に限りがあります。

その結果、利用者にとって体験の価値が高まり、セッション後の明確な変化によって高い満足度が得られます。

── 日々業界動向を見ている立場から、今後どのような冷却関連機器の革新が生まれるとお考えですか。

現在私たちがフランス市場で開発を進めている技術は、冷水浴の体験価値を大きく変える可能性があります。よりシンプルで手軽、水の管理面での負担が大幅に減るアプローチです。具体的には、5〜6℃の冷たさを体験しながら、まったく濡れないセッションを提供するという考え方です。

私たちはすでに導入をスタートしており、水に入ることに抵抗がある層を含め、より幅広い利用者にアプローチすることが目的です。

次に登場すると考えている革新は、-110℃の全身クリオセラピーを完全に自分で体験できる技術です。入退室の管理や、利用者の生理状態に合わせてセッションを最適化するソフトウェアなど、安全性を担保する機能が備わることで、単独で安全に利用できるようになります。サウナを100℃で一人で利用できるのなら、-110℃のクリオセラピーも同じように可能になるはずです。この場合、ケアスタッフの関与時間が減るため、施設側にとってもさらに高い収益性が実現します。

── 最後に、冷たさを導入することに慎重な施設マネージャーの方に、一言で勧めるとしたら何と伝えますか。

まずは体験して、その効果を感じてみてください。きっと考え方が変わるはずです。


Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

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FLORENCE KOWALSKI

FLORENCE KOWALSKI

ウェルネス・コンサルタント

フランス雑誌「Les Nouvelles Esthétiques」の寄稿者であり、ウェルネス分野のコンサルタントとして活躍しています。ウェルネスやコスメティクス分野のウェブ記事編集者でもあり、美容分野でCAP資格やBTS資格を取得後、ホテルスパ業界の発展を目指してマーケティングと経営のコンサルタント会社「Spaboosting」を設立しました。顧客エクスペリエンスの向上や収益性の確保を目的とした手法を開発し、スパ収益性のエキスパートとして高く評価されています。

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