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現場主導への切り替えが急務―施術スタッフが強化するサロンのInstagram

施術スタッフは、まさにお客様が体験するサービスそのものを体現する存在です。提供するトリートメント、扱う製品、来店する顧客の傾向などを誰よりも理解し、日々の体験の中心に立っています。つまり、発信すべきポジティブな内容を誰よりも持っているのに、それが十分に活かされていません。多くのホテル内サロンや都市型サロンでは、デジタル発信は独立した部門として扱われ、外部委託や、現場に常駐しないマーケティング担当者が管理していることが一般的です。

その結果、発信される内容は形式的になりがちで「現実」との距離が生まれ、ライブ感や生命力が不足します。画像だけが唯一の“本物らしさ”を担っているケースもありますが、それですらフォトグラファーが撮影した公式写真だけを掲載し、ブランドイメージを守ろうとする施設もあります。

しかし、2025年のInstagramはその方向性とは大きく異なります。過度に作り込まれたフィードや抽象的な文章は求められていません。いま重視されているのは、リアリティ、瞬間性、企業やブランドとの心理的距離の近さ、そして“人の存在”です。スタッフ、ファン、顧客など、顔の見える人々を通じてブランドを理解したいという欲求が強まっています。

そこで有効なのが、すでにあなたのもとで働く最も大きなリソース、つまり 施術スタッフを可視化し、発信の主役にすること なのです。これが実現すれば、認知度、エンゲージメント、予約数の向上が期待できます。

SNS投稿が顧客とアルゴリズムに届かない理由

誰もが目にしたことのある投稿例として、以下のようなものがあるでしょう。
ライトを落とした空の施術室の写真や「自分を大切にしましょう」といった当たり障りのないフレーズ、石やアロマオイルの定番イメージ写真、もしくはもっとありがちな、ブランドカタログの文章をそのまま転載した投稿。
問題は、これらが何も語っていないことです。
「更新した」という事実だけを満たすための投稿で、アルゴリズムに好まれるだろう、既存顧客が見てくれるだろうと期待しながら発信してしまいがちです。

しかし、このような投稿は、顧客にもアルゴリズムにも、会話のきっかけとしても響きません。「Instagramは効果がない」「時間がかかりすぎる」「集客につながるまでは投資できない」と感じ、負の循環に陥ってしまいます。ここで断ち切るべきです。今こそ、低コストで高い効果を持ち、100%本物の投稿を生み出せる資源 を活用するときです。

現場の知識を活かす施術スタッフの発信効果

今日では、売り手は“ブランド”ではなく“人”です。これはパーソナルブランディングであり、“顔が見える存在”を通じて関係性を築く動きです。この流れはさまざまな業界で顕著で、UGC(User Generated Content)の急増にも見て取れます。

UGCとは、日常の中で一般ユーザーが短い動画を用い、サービスや商品についてリアルな体験を語る形式のことです。彼らはインフルエンサーとは異なり、広告というより証言者に近い存在です。鍵となるのは、あくまで自然さと信頼性を損なわないことです。

では、あなたの施設の提供価値を一番誠実に体現できるのは誰でしょうか。施術スタッフ以外にいません。来店者が実際に出会うのは彼女たちであり、身体や顔、さらにはその日の心の状態まで預けられる相手です。現実の体験において、すでに施術スタッフはアンバサダーであり、それをオンラインへ広げるだけの話です。

さらに、Instagram、TikTok、LinkedInなどの可視性アルゴリズムは

  • 人が映っていること
  • 自然であること
  • 有益な情報であること

の3つを優先し始めています。つまり、あなたの施設はすでに発信の条件を満たしているのです。足りないのは、日々サービスをつくり上げている本人たちの声だけです。

施術体験の共有が投稿内容の質を高める要因

求められるのは以下のような特性を持つ内容です。

  • 信頼できる
  • 誠実である
  • 現場のリアルに基づく
  • 毎週継続的に展開しやすい

施術スタッフはすでに必要な知識と経験を備えています。

  • 担当しているメニュー
  • 使用している製品
  • 顧客の声
  • 効果が出ていること、あるいは改善が必要なこと
  • 施設の魅力として特に評価されている点

もしスタッフ同士で施術を受け合う機会を設ければ、その体験が語る内容の質を引き上げます。同様に、ブランドからサンプルを提供してもらえるなら、リアルな使用感の共有にも役立ちます。このように、月に一度でもスタッフに発信の機会を与えるだけで、全体の発信力は大きく変わります。

ビジュアル投稿を活用した日常的な発信の工夫

ここではシンプルで効果的、さらに美容施術の世界観に適したフォーマットをご紹介します。現場で働く施術スタッフが主役となれる内容です。

  • 「ひとつの手技とひとつの感覚」を伝える短尺動画
    手技の一動作をクローズアップし、ナレーションまたは画面テキストでその効果を分かりやすく説明します。
    例えば「この動きは、一日の終わりにこわばった肩まわりをゆっくりほぐすためのものです」といった内容です。
    シンプルさが大切で、長さは八〜十秒ほど。顔を映さずに撮影しても構いません。普段サロンで流している音楽に合わせるだけで十分です。
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  • 施術スタッフによる実践アドバイス
    たしかにSNSにはすでに多くの美容関連情報が存在しており、まったく新しいアイデアを生み出すのは難しいかもしれません。しかし、「そのスタッフがどのような背景を持ち、どのような言葉で語るか」という点は唯一無二です。まさに個人のストーリー性が差別化を生みます。
    例として「長時間のフライト後に脚の重さを感じないために私がしていることは、着圧ソックスを使い、寝る前に脚を数分ほど高く上げる習慣です。もともと血行に悩みがありましたが、これは本当に助けになります」のような内容です。さらに、フォロワー向けに質問ボックスを設置して、自分たちのコミュニティ全体の知識共有につなげることもできます。
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  • ビジュアル投稿
    ミラーセルフィーと短いテキスト、または施術室の写真に日常のひとことを添える投稿などです。
    朝の挨拶や、新しいオリジナルメニューを初めて施術した時の感想などが向いています。
    ただし頻度が多いと単調になるため、スタッフ一人につき月一回ほどが適切です。
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  • 「体験に基づく商品紹介」投稿
    「最近このオイルを使っている理由は、日差しでほてった肌を落ち着かせてくれて、軽やかで花のような香りがとても心地よいからです」など、リアルな使用感に基づく紹介です。
    フォーマットを変えるため、ストーリーズやミニカルーセルで、商品写真とスタッフ自身の写真を組み合わせると良いでしょう。店販商品の販促にもつながります。
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  • 「施術スタッフの業務日誌」
    これは、いわば美容版「ビルド・イン・パブリック」です。スタッフが仕事の過程を飾らずに語り、成功や学びを共有する取り組みで、きわめて高い「人間味」と「信頼感」を生みます。採用活動においても有効で、同じ志向の人材を惹きつけることができます。
    例として「これから三か月間、強いストレスに悩むお客様の睡眠改善を施術でサポートします。どのように進めていくか、毎回の施術後に経過や効果、改善点をお伝えします」など。LinkedInとの相性が非常に良く、採用広報にも活かせます。Instagramのリールで複数回に分けて投稿することも可能です。
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    無理なく継続できる投稿体制を整える実践ポイント

    実際には、適切に仕組み化すれば、この取り組みは手間よりも楽しさが勝るものです。スタッフが積極的に参加しないのではないかと心配されるかもしれませんが、彼女たちに「インフルエンサーのような活動」を求める必要はありません。取り組みを後押しするために、次のような工夫ができます。

    • 月に一度、あらかじめ決めたテーマで投稿するシンプルな仕組みをつくる
    • 「撮影のコツ」「構図」「短い文章のまとめ方」など、簡単なミニ研修を実施する
    • 顔を映さないフォーマットを複数用意する(手元、施術室、ナレーション、引用テキストなど)

    重要なのは、彼女たちをプロセスに巻き込み、「言葉にすること自体に価値がある」と理解してもらうことです。完璧さより、真実味が優先されます。SNSで発信することを通じて、新たな自信が芽生えるケースもあります。

    顧客の安心感を高め来店促進を支える発信メリット

    • ビジュアル素材に頼った投稿よりも、表現が人間味を帯び、実在感と温度感のある情報発信になります。
    • アルゴリズム面では、エンゲージメントが向上し、可視性が高まり、結果として施術メニューの閲覧数も増える可能性があります。
    • スタッフにとっては、自身の役割が評価され、ブランド価値向上に貢献している実感が高まり、職務経歴としても活かせるスキルになります。
    • 顧客にとっては、担当者の姿が見えることで安心感が増し、施術の効果理解が深まり、来店時の心理的ハードルが軽減されます。

    サロンのInstagram発信品質を高める3つの運用指針

    多くのサロンでは、スタッフがInstagramに登場することに慎重です。理由として

    • 内容の統制が難しい
    • トーンがブランドとずれる懸念
    • 与えた業務時間を超えてしまう不安

    などが挙げられます。

    しかし、現在のサロンは限られた予算で売上を高めなければならず、この機会を逃すのは大きな損失です。重要なのは、チーム全体で合意し、共有されたシンプルなルールをつくること です。以下がその基本となる3つの指針です。

    1. 内容と投稿数の明確化
      どのような形式の投稿をつくるのかを事前に定義し、スタッフ一人あたり月に作成する投稿数と、そのための平均時間を設定します。
      さらに、肖像権の使用について同意書を取り交わし、後のトラブルを防ぎます。
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    3. 簡単に扱えるツールを用意する
      Canvaのテンプレート(ブランドのトーンを反映したもの)、光量を調整できるライト、専用スマートフォン、必要に応じてピンマイクなどを揃えます。
      操作手順をまとめたシンプルなマニュアルをつくり、新しいスタッフでもすぐに活用できるようにします。
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    5. 投稿のリーチを最大化する連携
      投稿が公開されたら、ホテル側のマーケティング部署の公式アカウントでストーリーとして再共有し、広く届けるようにします。これはスタッフのモチベーション向上にもつながります。
      また、発信に積極的に協力したスタッフには、ささやかなインセンティブを設けることも有効です。

    SNS時代に求められるサロンの新しい発信戦略の結論

    サロンのコミュニケーションを強化するための手段は、すでにあなたの手の中にあります。大きな広告予算は必要ありません。 施術スタッフをInstagram上のアンバサダーとして育てることで、新規顧客の獲得と売上向上の機会が生まれます。適切に仕組み化すれば、この取り組みは強力な競争力となり、今後ますますSNSが購買行動に影響を与える美容市場において重要な武器となるでしょう。

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FLORENCE KOWALSKI

FLORENCE KOWALSKI

ウェルネス・コンサルタント

フランス雑誌「Les Nouvelles Esthétiques」の寄稿者であり、ウェルネス分野のコンサルタントとして活躍しています。ウェルネスやコスメティクス分野のウェブ記事編集者でもあり、美容分野でCAP資格やBTS資格を取得後、ホテルスパ業界の発展を目指してマーケティングと経営のコンサルタント会社「Spaboosting」を設立しました。顧客エクスペリエンスの向上や収益性の確保を目的とした手法を開発し、スパ収益性のエキスパートとして高く評価されています。

  1. 現場主導への切り替えが急務―施術スタッフが強化するサロンのInstagram

  2. 時代は温熱から低温アプローチへ―美容施設が今取り入れるべき理由とは

  3. 2026年の美容ウェルビーイング市場を識者に聞く ― 冷却ケアの市場拡大を探る 

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