革新的な技術とSNSの後押しを受け、美容医療の分野はここ数年で驚くべき成長を遂げています。そして2025年は、「自然さ」と「予防」を重視する新しい潮流の到来という転換点を迎えました。これらの傾向は2026年にさらに確実な形で定着していくと見られています。
執筆協力:美容医療専門医 Dr. Sofia Genovese
自然な仕上がりを重視する美容施術の新たな潮流
2025年は、美容医療における消費者のニーズが大きく変化する一年となりました。これまで美容医療の人気を支えてきたヒアルロン酸やボトックスの注入は依然として需要がありますが、それらの提供方法や施術の考え方は、今まさに大きく変わりつつあります。 美やエイジングケアの捉え方そのものが新しい段階へと進んでいるのです。
不自然な仕上がりを避ける美容施術への意識変化
ゆるやかに、しかし確実に、求められる結果の方向性が変化しています。唇を過度にふくらませたり、頬を不自然に高く見せたりするような施術は、もはや支持を失いつつあります。
若年層の場合
「若く流行に敏感な世代でも、近年はわずかな不均衡や小さな欠点を整えるような繊細な修正を好む傾向があります。例えば、左右非対称の唇や鼻の小さな段差などを自然に整え、表情を固定化したり顔立ちを均一化したりすることを避けています」とDr. Genoveseは説明します。
年長層の場合
この傾向は、エイジングケア分野にも広がっています。加齢のサインを「消し去る」というよりも、時間の流れを穏やかに緩やかにしながら、肌の輝きを取り戻し、質を高めるケアが重視されるようになっています。この考え方は年配の女性だけでなく、近年増加している男性の患者にも支持されています。外見を劇的に変えるのではなく、自然に印象を良くすることが目的とされています。
部位ごとに最適化された製剤開発と施術の進化

こうした変化に対応し、各研究機関やメーカーは異なる質感や密度をもつ多様な製剤を開発しています。その結果、顔の部位ごとに最適な効果を発揮する施術が可能になり、例えば目の下のくぼみを滑らかにしながらも不自然なボリュームを出さないといった繊細な補正が行えるようになっています。
ハイブリッド型注入剤の登場
同様の流れの中で、ヒアルロン酸にカルシウムハイドロキシアパタイトなどの成分を組み合わせた“ハイブリッド型注入剤”も登場しています。ヒアルロン酸は即時的にボリュームを補い輪郭を整えると同時に、肌の質感を美しく整えます。一方で、刺激成分は長期的に作用し、コラーゲンの生成を促して組織の密度を高める効果があります。
AI解析による美容医療の個別最適化が進む2026年の展望
あらゆる産業分野で注目を集めるAIは、美容医療の分野でも2026年に本格的に導入が進むと見られています。
「AIの最大の利点は、治療のすべての段階で一人ひとりに合わせたフォローを実現できる点です」とDr. Genoveseは説明します。
アルゴリズムが顔や体の特徴を解析し、そのデータをもとに将来の肌状態の変化を予測します。これにより、最も適した施術法を選び、個々の状態に合わせた治療計画を立てることが可能になります。この技術では、化粧品ブランドがすでに広く活用している拡張現実(AR)も取り入れられています。例えば、メイクアップ製品やヘアカラーを試す用途に使われているように、美容医療では施術後の仕上がりを画面上で可視化できるため、患者の期待に合致しているかを確認し、必要に応じて治療内容を調整することができます。
急速な脂肪減少が生む皮膚たるみと顔ボリューム低下の問題
フランスでは、成人の約48.8%が過体重または肥満に該当すると報告されています(肥満疫学フランス観測所 OFEOによる)。さらに、急速に脂肪を減少させる薬剤が市場に登場したことで、新たな美容上の課題が浮上しています。それは、体の特定部位における皮膚の大きなたるみや、顔全体のボリューム喪失といった問題です。
「この影響は若年層にも及んでおり、もともとの回復力だけでは脂肪減少による組織の損失を補いきれないケースも見られます」とDr. Genoveseは指摘します。
外科手術に代わる新たなアプローチ
アメリカではすでにこの課題に対する取り組みが進んでおり、フランスでも外科手術に代わる解決策を求める声が着実に高まっています。そのため、メスを使わずに体全体のリフトアップ効果を得るためのプロトコルの確立が不可欠となっています。主に、コラーゲン生成を促す超音波(Ultherapy)やレーザーが活用されており、さらに高周波による引き締め効果や筋肉を刺激する電気刺激を組み合わせて、筋肉量を増やす手法が採用されています。
自然志向と予防ニーズが促す非侵襲的施術の拡大
近年では、劇的な変化よりも「自然さ」や「予防」を重視する流れが主流となりつつあります。こうした需要の高まりを受けて、美容医療の分野では、従来の注入施術に加えて、より負担の少ない最先端の非侵襲的トリートメントが広がっています。
これらはエネルギーを活用した技術に基づいており、老化のサインや肌トラブルに対して確かな効果を実証しています。そのため、皮膚を傷つけることのないレーザー、超音波、ラジオ波などの利用が美容医療クリニックで一般的になりつつあります。
さらに、光の作用を利用して細胞の再生を促すフォトバイオモジュレーションやLED療法も注目を集めています。
「この傾向は今後5年間でさらに拡大していくでしょう」とDr. Genoveseは見通しを語っています。
美容サロンが担う美容医療との橋渡しとしての役割
これらの多様な技術は、美容サロンにも導入が進んでおり、美容医療と従来の美容の間をつなぐ存在となっています。
「両者の活動に混同はありませんが、その境界が時に曖昧に見えることはあります」とDr. Genoveseは述べています。
それぞれが独自の専門領域を持ち、美容サロンはエイジングケアやボディメイクなどの予防的ケアを気軽に体験できる場所として、顧客にとって安心感のある入口の役割を果たしています。
美容サロンの利用者の中には、将来的に美容医療を受ける人もいますが、その選択はサロン通いをやめる理由にはなりません。むしろ、化粧品分野を中心に革新的な技術が次々と誕生しており、美容専門家の知見と技術がこれまで以上に価値を発揮する時代になっています。
個別化フェイシャルトリートメントと高機能製品の拡大

2026年には、より個別化されたフェイシャルトリートメントと、高濃度有効成分を配合したコスメシューティカル製品がさらなる発展を遂げると見られています。カウンセリングによって肌状態を診断し、それぞれに合わせたオーダーメイドケアを行う流れが主流になっていくでしょう。
細胞を活性化するエクソソームの再生メカニズム
次世代の化粧品革命の一つとして注目されているのが、医療分野から生まれたエクソソーム技術です。エクソソームとは、細胞内で形成されて体内に放出されるナノサイズの小胞で、生物学的メッセージを伝達し、細胞の働きを活性化させます。また、損傷したり老化した細胞に対して、修復に必要なタンパク質、成長因子、DNAやRNAの断片を届ける役割も果たします。
ヨーロッパではヒト由来のエクソソームの使用が禁止されているため、美容医療では植物由来やLactobacillus(乳酸菌などの細菌由来エクソソームが用いられています。その目的は、組織を生体刺激して再生を促すことで、特にエイジングケアや抜け毛対策の分野で注目を集めています。
医療クリニックでは、エクソソームはマイクロニードル、超音波、またはラジオ波と組み合わせて皮膚や頭皮に塗布され、より深部まで浸透させることで高い効果を得ています。
一方、美容サロンでもエクソソームを高濃度で配合した化粧品が登場しており、既存のラジオ波技術などと組み合わせることで、これまでにないレベルの施術が可能になっています。これにより、美容サロンは今後、アンチエイジングの最前線として新たな地位を確立し、美容医療との間に新しい架け橋を築く存在となるでしょう。
