予定がぎっしり詰まり、常に走り回っているように感じたり、自社の戦略に割く時間が取れなかったり、私生活に十分な時間を充てられないことに罪悪感を覚えたりすることは、収益性や効率を低下させる要因となります。
しかし、効果的な方法論と体系的な整理、そして適切な振り返りを取り入れることで、より落ち着きを持って業務に向き合えるようになります。
執筆:Valérie Desmaisons-Bouthier(Perfectis Formations 創設者、美容サロン支援の専門家、研修講師、美容業界向けサブスクリプション「Perfect’Pro」開発者)
美容サロン経営に欠かせない時間の整理術
過労の最大の原因は、明確な計画を持たず、その場しのぎで次々に現れるタスクをこなしていくことです。経営者であれば緊急の対応が必要な場面は当然ありますが、日常の業務がしっかり整理されていれば、突発的な出来事にも時間を割けるようになります。
仕事とプライベートの時間配分
まず必要なのは、仕事の時間とプライベートの時間をきちんと分けることです。必要とするプライベートの時間は人それぞれですが、週に50時間以上を仕事に充てるのは長期的に見て持続可能ではありません。
シンプルな計算をしてみましょう。1日は24時間、そのうち睡眠に8時間を割くと16時間が残ります。仮に1日の労働時間を8時間とすると、活動可能時間の50%を仕事に充てていることになります。
休憩を確保すること
勤務日の中で、昼食や気分転換のために45分から1時間は必ず確保しましょう。この時間を事務処理や遅れの挽回に使うべきではありません。休憩を取ることで、次の作業に集中しやすくなります。直接的に売上に結びつかなくても、経営者本人の心身を維持するためには不可欠です。
運営と施術を両立させる効率的な一日の組み立て方
8時間をどのように割り振るか
経営者の仕事はサロンの施術だけではありません。運営やマネジメントの時間を確保する必要があります。そのため従業員に比べて稼働率は低く見えるかもしれませんが、それは当然のことです。
「どこにでもいる」状態を避ける
「一度に複数のことはできない」という言葉の通り、業務外の時間を必ず確保することが重要です。1日1時間は外部から干渉されない時間を取りましょう。Perfectis Formations では、2時間ごとの作業ブロックで集中する方法を推奨しています。2時間を2回に分けて大きな業務を進め、残りの1時間を短時間で済むタスクや緊急対応に充てると効率的です。
よくある誤りに注意
今でも多くの経営者が、予約の合間や休日に片手間で運営業務を行っています。しかし2025年現在、こうした働き方はもはや成り立ちません。運営に関する業務を軽視すると、収益性そのものが損なわれてしまいます。この部分を担えるのは経営者本人しかいないのです。
戦略的な思考時間を持つ
経営戦略を考えることは、数分の空き時間にできるものではありません。落ち着いた環境で腰を据えて、自分の考えを文字に落とし込む必要があります。この時間自体は売上を直接生みませんが、長期的には目標達成につながり、結果的に収益を増やす原動力となります。
チームと成果を高めるためのスケジュール術
効率よくスケジュールを管理するには、自分に合った方法論を設定することが欠かせません。状況が立て込んだ際でも軌道を外さないよう、整理された計画を作成しておきましょう。
時間をブロックする
まだ多くの経営者にとって習慣化されていませんが、運営に取り組む時間をスケジュールにあらかじめ確保することは必須です。複数の枠を週ごとに設けてもよいですし、半日や1日をまるごと使う方法もあります。こうして戦略を立てる時間を取ることで、計画性が増し、安定感を持って業務を進められます。
チームとの時間を確保する
スタッフを抱える場合、定期的に打ち合わせを行うことはさらに重要です。目的が共有されているか、導入したプロセスが守られているか、スタッフが不安を感じていないかを確認しましょう。この時間は必ず成果につながり、問題が大きくなる前に調整することが可能になります。
一日の準備をする
また、効果的な方法論の一つは一日の準備を怠らないことです。これは経営者本人だけでなく、チーム全体にとっても有効です。
毎朝15分を活用する
毎朝15分を使って、スタッフにその日の目標を伝えることで、各自が進む方向を明確にできます。人間的な面でもチームの結束が強まり、全員が同じ方向を目指していると感じられます。
また、この時間を利用して1日のスケジュールを見直すことで、予約に合わせてどのような提案を行うか、どのようにお客様にお話しするか、前回販売または提案した製品について感想を伺うかなどを準備できます。そうすることで、施術に入った際には迷いなく業務に集中でき、会話もよりスムーズになります。もちろん、スタッフも同様の準備を行うことで、施術の効率や販売のしやすさにつながります。
自分のための休息が美容ビジネスの成功を支える
研修に参加する方々から「昼休みを取らない、時間がないから」という声をよく聞きます。ですが、お客様が「時間がないからケアを受けない」と言ったとき、皆さんはどう思うでしょうか。時間はつくるものであり、優先順位の問題です。これは自分自身にも当てはまります。
自分のための休憩を確保すること
日中に一息つく時間を持つことは、1日の活力とモチベーションを維持するために欠かせません。昼食、仮眠、散歩、美容院、瞑想や趣味のレッスンなど、何を選んでも構いませんが、自分自身のための時間を確実に取りましょう。休憩時間を事務作業や後片付けに充てるのは本来の意味から外れます。頭と身体をリセットすることで、午後の仕事を落ち着いて迎えられます。
施術後の時間活用で顧客体験と収益を向上
もう一つ重要なのは、施術終了後にお客様へ追加の時間を設けることです。連続した予約を入れ、お客様に余裕を与えない形は避けるべきです。
遅れへの対応
お客様が数分遅れて到着しても、間に余裕時間を設けておけば次のお客様を待たせる心配が減り、経営者自身のストレスも軽減されます。
体験価値を高める
施術後に飲み物を勧めたり、サービス内容についてお客様と話すことで、体験の質が向上します。この時間は、施術メニューの案内やホームケアのアドバイスを行う好機にもなります。さらに、商品や追加サービスの販売にもつながります。結果として、お客様が入れ替わる際の混雑を避け、特別感のある空間づくりにも貢献します。
収益性を高める
施術後の15〜30分を活用して製品やサービスを提案すれば、収益が増加します。例えば、15分の間に30ユーロの商品を販売し、40ユーロの次回予約を取れたとしたら、それだけで70ユーロの追加売上となります。1分あたり4.60ユーロの利益に相当します。
落ち着きを得る
施術に追われる日々から解放され、心に余裕を持ってお客様と向き合えるようになります。お客様にとっても「次の予約に急かされている」という不快感がなくなります。さらに、この時間は相談内容を周囲に聞かれないよう配慮できるため、信頼関係の強化にもつながります。
冷静な判断を導くための時間と環境づくり
時間管理が適切にできれば、経営を冷静に見直すための余裕も生まれます。日々は予約で埋まっていても、売上を分析し、目標を再設定し、スタッフの方向性を確認する時間が不可欠です。
静かな環境で考える
電話や来客、スタッフからの質問に妨げられない静かな環境を確保し、集中して考えることが必要です。この時間は冷静な判断や意思決定を支えます。
感情に流されない
忙しさや緊急事態の中で感情的に判断すると、多くの場合は戦略的な誤りにつながります。経営者にとって感情に左右されない冷静な意思決定は不可欠です。事実を分析し、計画的に行動するための時間を持つことが重要です。
経営者としての立ち位置を持つ
美容サロンにおいて、施術が売上の大部分を占めているとしても、それだけに依存していては成長は望めません。戦略やコミュニケーションの視点を持つことが、企業を目標に導く羅針盤となります。経営者としての役割を果たすためには、日常業務から一歩引いて考える時間を確保し、事業を持続させる基盤を築く必要があります。
スケジュール整理が経営にもたらすメリット
効率的な整理は時間を要します。時には、これまで快適だと思っていたやり方を見直す必要が出てくるでしょう。しかし、すぐにその価値を理解し「なぜもっと早く取り入れなかったのか」と実感するはずです。
日ごと、週ごと、月ごとにタスクを整理したスケジュールを作成すれば、やるべきことを漏れなく把握できます。その結果、いずれは一部の業務を自動化でき、時間を浪費せずに済みます。
最後に忘れてはならないのは、美容の専門職であると同時に、皆さんは起業家でもあるという点です。経営者としては、企業全体を見渡し、戦略的な意思決定を行わなければなりません。整理された経営は、論理的で冷静な選択を可能にし、失敗を防ぐ助けとなります。