美容の世界は急速に進化しており、それに伴って専門職の期待や価値観も大きく変化しています。とりわけ、Z世代に代表される新しい世代の人材は、これまでの世代とはまったく異なる優先順位を持っています。これからの人材を惹きつけ、長く活躍してもらうためには、彼らの根本的な動機を理解することが欠かせません。
執筆:Sandra Robichon(美容・ラグジュアリー・ウェルネスブランド向けの採用を専門とするエージェンシー〈Catwalks〉の創設者)
Z世代が求める職場とは 美容現場に必要な人間的な環境づくり
健全で人間的な職場環境
現在、多くの美容従事者は、思いやりやコミュニケーション、相互の敬意が行き届いたサロンを優先して選ぶ傾向にあります。
「以前の職場を辞めたのは、雰囲気が重く感じられたからです。挨拶すらろくに交わされず、どんなに頑張っても誰にも気づいてもらえませんでした」と語るのは、25歳で5年間の経験を持つLéaさんです。
このような環境づくりには、日々の小さな気配りが欠かせません。心のこもった挨拶、意見や感想に耳を傾ける姿勢、対立を個別かつ丁寧に解決する努力、そして定期的なチームミーティングを通じて意見交換を促すことなどが挙げられます。
仕事に対する具体的な評価と認知
Z世代の従業者は、「自分の仕事が社会や顧客にとってどのような意味を持つのか」を理解し、役立っている実感を求めています。
「化粧品を販売するときは、なぜその商品を勧めるのか、他の製品との違い、そしてそれがお客様にどのような価値をもたらすのかを理解していたいんです。そうでなければ、自分の中で納得できません」と話すのは、23歳のSarahさんです。
称賛の言葉やポジティブなフィードバック、成果に応じた報奨、そして明確な目標設定は欠かせません。月ごとのチャレンジ制度を設け、成果に応じて商品券や製品のプレゼント、マッサージ、チームランチなどの特典を用意するのも非常に好評です。
バランスの取れた勤務時間とその遵守
現代の若い世代は、仕事とプライベートのバランスを非常に重視しています。長時間労働や3時間もの中抜け、直前になって変更される勤務スケジュールなどは、もはや受け入れがたいものとなっています。
「自分の生活を計画するために、何時に仕事が終わるのかを知る必要があります。自分の仕事は大好きですが、それだけが人生ではありません」と語るのは、22歳のCamilleさんです。
勤務シフトの的確な管理は、人材定着の鍵を握ります。例えば、15日前にローテーションを決定したり、月に1度は土曜日を休みにするなどの取り組みは、大きな魅力として機能します。
将来を見据えたキャリア形成
若い美容従事者たちは、成長し、学び、スキルを高めたいと考えています。刺激がなければ、関心を失ってしまいます。教育プランの提示や専門分野の育成、アシスタントマネージャーやスパマネージャー、あるいは専門職へのステップアップを支援する体制があれば、大きな差を生み出します。
「私が求めているのは、自分を信じて育ててくれるサロン、そして新しいチャンスを与えてくれる場所です」と語るのは、フェイシャルケアに情熱を注ぐ24歳のJulieさんです。
意味と価値を持つサロンで働くこと
Z世代は、ブランドのイメージ、価値観、そして透明性に非常に敏感です。ナチュラル製品やオーガニック、メイド・イン・フランス、倫理的な取り組みなどが重視されます。自分の信念と一致する職場で働くことが、彼女たちにとっての最優先事項になっています。
「成分がクリーンでない製品や、意味のない商業的なメッセージを扱う仕事は、もうできません」と話すのは、21歳のNoraさんです。
サロン経営者が直面する人材課題と採用の現実
採用難と人材の流動性
一方、経営者たちは人材不足と高い離職率という現実に直面しています。採用のたびに、まるで障害物競走のような苦労を強いられることもあります。
信頼でき、長期的に働く人材を見つけるのは容易ではありません。離職率は高く、若い世代は予告なしに職場を変えることもしばしばです。
「わずか6週間で、何の前触れもなくスタッフが辞めてしまいました。これで一年間に3人目です」と語るのは、リヨンでサロンを経営するSophieさんです。
採用に割ける時間の不足
小規模から中規模のサロンでは、経営者自身がマネージャー、人事、教育担当、広報など、複数の役割を兼ねています。そのため、採用活動は時間的にも精神的にも大きな負担となり、しばしば「とりあえずの採用」に頼らざるを得ない状況が生まれます。結果として、戦略的な採用が難しくなるのです。
高い職業意識への期待
経営者たちは、美容従事者に対してプロとしての姿勢、時間厳守、スケジュール管理能力、そして営業的な感覚を求めています。
「技術は教えられますが、笑顔や顧客志向の心は教えられません。それは自然に備わっていなければならないのです」と語るのは、Citron Vertのフランチャイズサロンを運営するVanessaさんです。
経済的成果へのプレッシャー
収益性へのプレッシャーも大きな課題です。美容従事者には、販売促進や顧客の定着、スケジュールの充実が求められています。経営者は投資に対する早期のリターンを期待していますが、その目標が適切に共有されないと、「ウェルビーイング重視」の価値観を持つ従業員との間に溝が生まれることもあります。
美容サロンの人材定着を実現する6つのアクション
経営者が大きな投資をしなくても導入できる、具体的で効果的な取り組みはいくつもあります。
1. 入社初期のサポートを丁寧に行う
最初の数週間は極めて重要です。オリエンテーションを実施し、サロンの理念やチームのルール、主力製品などを紹介しましょう。先輩スタッフとのペアで一定期間観察を行う「同行期間」を設けることで、新人が安心して職場に慣れることができます。
2. 継続的な研修制度を整える
研修を受ける従事者は、自らが尊重されていると感じます。社内研修やブランド研修、チーム向けのウェルネス研修など、継続的な学びの機会を設けましょう。研修費の一部はOPCOによる支援を受けられる場合もあります。
「研修に参加させてもらえると、自分を認めてもらえた気がして、もっとこの職場で頑張りたいと思えるんです」と話すのは、26歳のClarisseさんです。
3. 明確で意欲を高める目標を設定する
Z世代は挑戦することを好みます。達成可能で具体的、かつ測定できる「SMART」な目標を設定し、その成果に応じた報酬を用意しましょう。
報奨金制度や社内コンテスト、休憩室に設置する進捗ボードなどが効果的です。
4. 他と差別化できる福利厚生を提供する
- 月に1回の土曜休み
- 四半期ごとに1回、スタッフ自身への施術サービス
- チーム目標の達成で実施する報奨イベント(食事会やギフトカードなど)
- クリスマスや誕生日のプレゼント、個別メッセージなどの心配り
このような小さな取り組みが、職場への愛着を大きく育てます。
5. 定期的な対話の場をつくる
月に1回の非公式な面談、または少なくとも四半期に一度は意見交換の場を設けましょう。これにより、緊張や誤解を早期に解消し、従業員のニーズを的確に把握できます。
「私が経営者を信頼している理由は、きちんと対話があることです。いつも『元気?』と声をかけてくれて、しっかり話を聞いてくれるんです」と語るのは、23歳のAmandineさんです。
6. 採用を専門家に委ねる
採用に多くの時間を割けない場合は、専門の人材紹介会社(たとえばCatwalks)に委託するのも有効です。これにより、事前に選考された候補者を紹介してもらえ、サロンの価値観や文化に合った人材を見つけやすくなります。
持続的なサロン経営に欠かせない人材定着の要点
いまの美容従事者は、情熱的で仕事に真摯ですが、自分の価値観に合う職場を選ぶ「選択的」な傾向があります。採用はもはや「急ぎの決断」で済ませられるものではありません。意味のあるビジョン、明確な組織構造、そして約束された成長環境が求められます。
採用の段階から信頼関係を築くことが、定着の第一歩です。スキルアップの仕組みを整え、努力を正当に評価し、安心して働ける環境をつくることこそが、持続的でモチベーションの高いチームを築く鍵となります。
美容サロンの未来は、運営の卓越性と人間的な理解力を融合させることにかかっています。