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美容サービスにおける言葉選び―売り込まずに伝える表現の考え方

執筆:Arnaud Walleton(著者、トレーナー、コンサルタント)

施術ルームでは、適切な手技、適切な圧、適切なリズムを選ぶことができているはずです。
では、あなたの言葉は、手の動きと同じくらい正確でしょうか。

現在、あらゆるコミュニケーション媒体において、顧客は「スクロール」しています。 わずか8秒で、その先を読むか、離脱するかを判断します。そして、この8秒間ですべてが決まります。 不適切な一文があれば、離れてしまいます。
一方で、的確な一文があれば、立ち止まりたいと思わせることができます。

この過酷なカウントダウンを乗り切るために、ここでは避けるべき表現と、より魅力的に伝えるための代替表現を紹介します。

アンチエイジング訴求が共感を失う理由

・「セルライトを除去する」
・「ボディラインを引き締める」
・「年齢サインと闘う」

確かに、これらの表現は2000年代初頭の女性誌を席巻していました。当時は、あらゆるものに「アンチ」を掲げるキャンペーンの時代でした。アンチシワ、アンチたるみ、アンチ肌悩み、アンチセルライトといった具合です。

そのアプローチはどうだったでしょうか。解決すべき問題に、できるだけ直接的かつ強く焦点を当てることでした。「物事をはっきり言う」ことが求められていたからです。顧客の行動を促すために、痛みを感じやすい部分をあえて刺激する。脂肪、余分な肉付き、頑固なセルライト、目に見える肌悩みといった言葉を使ってきました。

しかし、この方法には大きな落とし穴があります。人間の脳は、強く揺さぶられることを好みません。欠点や脅威を想起させる言葉に触れた瞬間、防御モードに入ってしまいます。その結果、顧客は「自分ごと」として受け取れなくなります。共感するのではなく、攻撃されたと感じてしまうのです。本来は行動を促すはずの言葉が、逆にブレーキになります。こうした表現を目にした瞬間、視線をそらし、ウェブやSNSでは、別の投稿へとスクロールしてしまいます。

心身のバランス回復を伝える美容表現の考え方

表現の軸を変えてみてください。「闘う」ことを約束するのではなく、 心身の快適さやバランスを取り戻す提案へと切り替えます。例えば、次のような表現です。

「身体の緊張を解き放つ」
「軽やかさを取り戻す」
「肌本来の健やかな活力を呼び覚ます」

迷ったときは、文章を声に出して読んでみてください。命令口調や攻撃的な言葉が含まれていると感じたら、それは時代も、書き方も、見直す必要があるサインです。

施術内容と調和した言葉が生む一貫した印象

あなたの言葉は、実際の施術やサービスと調和するようになります。人間味があり、繊細で、思いやりのある印象を与えます。文章はもはや「刺さる」ものではなく、心を落ち着かせ、体験してみたいという気持ちを自然に引き出すものになります。

技術的表現に偏った文章が伝わりにくくなる要因

・「微小循環の活性化と線維芽細胞の刺激」
・「脂肪細胞への集中的な作用とコラーゲン生成の再活性化」
・「皮下脂肪量の目に見える減少」

これらの表現は、安心感を与えます。とりわけ、それを書いている本人にとってはそうでしょう。専門的に聞こえ、自らの知識や専門性を主張できているような印象を与えます。

しかし、顧客にとっては、むしろ冷や水を浴びせられた感覚です。専門的すぎて、距離を感じさせてしまいます。文章は読まれていても、何もイメージできません。科学用語で埋め尽くされた説明は、ラテン語で語られる施術のようなものです。とてもリラックスできるものではありません。顧客が求めているのは、生物学の授業ではありません。自分がどのような感覚を得られるのかを知りたいのです。

専門性を保ちながら表現をシンプルにする方法

伝えている内容は変えずに、表現をシンプルにしてください。専門書の言葉を、伝わる言葉へと置き換えます。感覚、具体的なメリット、顧客の体験に結びつく表現を意識します。

例えば、
「コラーゲンの自然な生成を促します」
これは「I型およびIII型コラーゲンの合成を再活性化します」という表現の代わりになります。
また、
「肌に明るさとハリが戻ります」
これは「皮膚細胞の代謝が改善されます」という表現よりも伝わりやすい言い回しです。

これらの文章は、施術の本質を損なうことなく、顧客の生活感覚に近い形で理解できる表現になっています。

内容を保ったまま伝える専門家の表現力

あなたの語り口は、専門性を保ったまま、明確で親しみやすいものになります。文章は人を遠ざけるものではなくなり、読みたい, 理解したい, 試してみたいという気持ちを引き出します。本当の専門家とは、決して内容を単純化することなく、物事をわかりやすく伝えられる人なのです。

法規制だけではない美容表現の信頼性課題

・「毒素を排出するドレナージュケア」
・「ストレッチマークの治療」
・「抗炎症ケア」
一見すると問題のない言葉に見える表現もあります。しかし、それが一線を越えた瞬間、意味合いは大きく変わります。悪意があるわけではありません。多くの場合、周囲を真似た結果であったり、「きちんとして見せたい」「専門的に見せたい」という思いから生まれています。

ただし、美と健康のあいだには、時として非常に曖昧で繊細な境界線があります。効果を証明しようとするあまり、本来果たすべき役割から離れてしまうことがあるのです。

「治す」「治療する」「治癒する」「抗炎症」といった言葉、そしてそれ以外にも多くの表現は、医療分野の語彙に属します。それらを美容分野のコミュニケーションで用いることは、混乱を生みます。それは、法規制の観点だけの問題ではありません。あなたの仕事そのものの意味を曖昧にしてしまうのです。なぜなら、あなたは治療を行う立場ではありません。寄り添い、伴走する存在です。治すのではなく、整え、予防し、バランスを取り戻すことを支援します。それは、専門性を損なうことにはなりません。むしろ、その価値をより強く示すものです。

治療表現を避けて価値を伝える言い換え例

自分の領域にとどまり、その立場をしっかりと受け入れてください。

例えば、
「セルライトを治療する」ではなく「肌の見た目を整える」
「毒素を排出する」ではなく「軽やかさを感じられる状態へ導く」
といった表現が考えられます。

参考として、美容サービスの表現に関するDGCCRF(フランスの消費者保護・市場監督を担う行政機関)の通達には、どこまでが許容範囲なのかを理解するための情報が整理されています。

美と健康の境界を守る言葉の整理効果

言葉が、美と健康の境界を曖昧にすることはなくなります。過剰な約束をすることなく、信頼を育てます。そして、この信頼こそが、実現不可能な表現を重ねることよりも、はるかに確実に顧客の再訪につながります。

商業的トーンが美容サービスにもたらす違和感

「見逃せない特別オファー」
「今すぐ予約しないと間に合いません」
「初回から結果を実感できます」
これらの表現は、どこか量販店の販促手法を思い起こさせます。

確かに目を引きますが、心を動かすことはほとんどありません。何より、日々あなたが体現している姿勢とは一致しません。誠実さ、品質へのこだわり、一人ひとりに合わせた対応。それらとはかけ離れた印象を与えてしまいます。

このような「商業的なトーン」の問題は、距離を生んでしまう点にあります。顧客はそれを瞬時に見抜きます。なぜなら、同じような表現に日常的にさらされているからです。押しつけがましいメッセージに直面すると、顧客が思わずブレーキをかけるのは自然な反応です。耳を傾けてもらえなくなり、「理解されている」のではなく「売り込まれている」と感じてしまいます。

必要性と感覚を軸にした訴求の組み立て

売ることを控え、伝えることに力を注ぎましょう。必要性、感覚、変化のプロセスを語ります。判断の主導権は、顧客に委ねてください。そして、満足の声に語らせます。体験談、適切に管理されたビフォーアフターの写真、顧客レビュー、実体験に基づくフィードバックです。

約束過多な市場で際立つ誠実なトーン

文章から、過度な圧力が消えます。表現は本来の的確さを取り戻し、誠実さと専門性が自然に伝わります。約束であふれた市場において、この「誠実なトーン」こそが、あなたにとって最も強力な価値になります。

Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

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編集部(フランス)

Les Nouvelles Esthétiques編集部(パリ)…1952年にフランスで創刊されたLes Nouvelles Esthétiques社が発行する美容技術者や経営者向けの専門誌。本誌は、美容、健康、ウェルビーイングに関する情報を提供しており、世界20数か国にライセンスを供給するなど、国際的に展開する美容専門メディアとして広く認知されています。

  1. 美容サービスにおける言葉選び―売り込まずに伝える表現の考え方

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