【連載】幹細胞化粧品開発元年【7】花王、毛母細胞増殖のエキス発見、育毛成分の開発実現(下)
2015.10.7
編集部
花王は、毛髪組織の遺伝子発現の研究を通じて毛髪のツヤやハリに関連する因子の解明やより効果の高い育毛剤、美髪剤などの開発に取り組んでいる。
日本国内で薄毛や抜け毛で悩んでいる人は約800万人にのぼる。その中で、育毛剤を使用している人は約560万人程度とみられる。しかし、男性型脱毛や女性の薄毛の発症要因は必ずしも解明されていない現況にある。
そうした中で花王は、生物科学研究所とビューティケア研究センターが中心となって加齢とともに毛髪が細くなり、ハリやコシがなくなってしまう原因を解明するため、遺伝子レベルの解析を行なった。その結果、髪のハリやコシの低下に関係する遺伝子として血管の形成を促進する作用が知られている遺伝子「血管内皮増殖因子」(VEGF)を特定した。
この特定により毛根におけるVEGFの作用(遺伝子発現)は、加齢にともなって減少することで毛根で作られる毛髪が細くなりハリやコシが弱くなることを導き出した。また、ハリやコシのある人とない人を比較すると、加齢によるVEGF作用の減少の程度はハリやコシのない人が顕著で、これにより毛根においてVEGFの作用を促進することができれば「太くハリコシの強い毛髪を生み出すことが可能」との考察が得られた。
さらに、天然物のスクリーニングから毛母細胞の増殖を高めて毛成長を促進させる効果のある西洋オトギリ草エキスを発見。同時に、西洋オトギリ草エキス中の有効成分であるアスチルビンを単離・同定し、その成分をリード化合物として新しい育毛有効成分「t-フラバノン」(写真)を開発した。
同社は、約2,000種以上の生薬ライブラリーの中から育毛有効成分を探索。その中から「西洋オトギリソウ」のエキスに高い毛母細胞の増殖促進作用がある物質「アスチルビン」を発見。
アスチルビンを手がかりに、より安定した高機能化合物を得るため、分子科学技術を駆使して分子構造が似ている化合物を合成してその効果を確かめる探索研究を続けて開発したのが育毛有効成分「t-フラバノン」だった。
t-フラバノンの作用メカニズムは、薄毛が進行している状態では、毛乳頭細胞で「TGF-β」というタンパク質が産生される。TGF-βが毛母細胞に作用すると毛母細胞の分裂が抑制され、髪の成長を妨げる。
研究の結果、t-フラバノンは、ヘアサイクルが退行期・休止期に誘導されることを抑え、成長期を維持できるように働くとの結論を導き出した。男性の被験者197名による30週間の使用試験では、t-フラバノンを使用した場合に、成長期の髪の数が増加し髪が太くなる傾向が見られた。また、男性の被験者8名による6カ月間の使用試験では、t-フラバノンを使用した場合に、洗髪時の抜け毛の数が減少する傾向を示すなど毛球部に直接作用して毛母細胞の増殖を促し、薄毛・抜け毛を予防する効果が判明した。
同社は、一連の研究成果を踏まえて毛髪を太くしハリコシを増強する薬剤の開発や育毛料、コンディショナーなどのヘアケア商品の応用開発に引き続き取り組んでいる。