漢方の将来ビジョン研「漢方の論点を国民に広く情報発信を」
2017.12.13
編集部
一般社団法人日本東洋医学会(会長・佐藤弘氏)と日本漢方生薬製剤協会(会長・加藤照和氏)の共催による「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会2017」が12日、都内で開催され、漢方エビデンスの研究支援体制の整備とその資金確保、漢方薬の診療ガイドラインへの記載、漢方薬の新剤形の検討、漢方薬の医療経済的研究といった論点を国民に広く情報発信していくことが必要との認識で一致した。
同研究会では、徳島大学大学院消化器・移植外科学教授の島田光生氏が「がんの支持療法の漢方研究~がん手術後の合併症軽減~」と題して講演。大建中湯を用いた大腸、肝臓、胃の3つの臨床試験の統合解析結果を明らかにしたほか、術後の肝不全に対する茵陳蒿湯の効果、膵頭十二指腸切除術(PD)後の愁訴に用いる六君子湯でバイオマーカーが一部に使用できる症例などを示した。
日本神経精神医学会理事長の堀口淳氏は、「高齢者医療に対する漢方研究」と題した講演の中で、レム睡眠行動障害(いわゆる寝ぼけ)に対する抑肝散の効果について紹介。発現予測が不可能なBPSD(行動・心理症状)の予防につながるとして、抑肝散の予防的投与は有意義であることに言及した。また、衝動性が亢進したラット(統合失調症モデル)には電気けいれんで神経炎症を治めるが、抑肝散の投与で同様の効果が見られたケースなどを紹介した。
国立医薬品食品衛生研究所生薬部長の袴塚高志氏は「漢方製剤等多成分系医薬品の承認申請ガイドラインについて」講演。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の調整費を用いて、漢方薬の剤形変更に向けて、顆粒剤と錠剤におけるクロスオーバー臨床試験などを実施し、生物学的同等性の評価法に関して研究している状況を説明した。剤形変更に資する承認申請ガイドラインの策定時期については、“個人的な思い”と断ったうえで「2018年度末あるいは2019年度初め」(袴塚氏)との希望的観測を示した。
また、東京大学大学院臨床疫学・経済学教授の康永秀生氏は「医療ビッグデータを用いた漢方薬の臨床研究・医療経済研究」と題した講演の中で、大建中湯と五苓散でコストセービングにつながった研究結果などを紹介した。
最後のディスカッションでは、「古典に記載があるように、大建中湯は痩せている人に効果があることが(エビデンス的に)裏打ちされてきた」「術後サルコペニアを予防できる漢方薬はどれが良いのかまだはっきりわからないが、人参養栄湯が良いのではないか」「抑肝散は軽度認知症には早めに飲んでおくと良い」「嚥下障害がある患者に対しては、剤形が変わると漢方薬を上手く使える」「現場の医師からの“漢方薬は効果がある”との声を診療ガイドラインに載せていければ、漢方薬の新しい効能効果の記載につながる」などといった声が挙がった。
- 参考リンク
- 一般社団法人日本東洋医学会
- 日本漢方生薬製剤協会