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米TikTok規制不透明期、美容ブランドが取るべきKOL投資ヘッジ戦略

米国で続くTikTok規制の不透明性は、美容業界にとって最大級の外部リスクとなりうる。禁止か、分離か、それとも延命か。行方次第で広告配分やKOL投資の成果は大きく左右される可能性がある。しかも影響は米国内にとどまらず、TikTokを経由して世界に広がる美容コンテンツの流れが変われば、日本ブランドの海外展開や国内インフルエンサー市場にも直撃しかねない。こうした状況で求められるのは、単一チャネル依存から脱却し、広告配分・契約設計・測定基盤を再構築する「ヘッジ戦略」といえる。

2024年に成立した「外国資本アプリ規制法」により、米政府はTikTokに対し「米国内事業の売却」か「サービス停止」を迫っている。米最高裁はこの法を合憲と認め、270日+大統領の90日延長という期限設計を明記した。現状、執行猶予は9月17日まで延長されたものの、それ以降も延長される保証はない。
米国のTikTok広告市場は2023年に約67億ドル(Statista調べ)と推計され、美容・ライフスタイルカテゴリは最大シェアを占める。停止が現実すれば、美容ブランドの新規流入チャネルが一夜で失われる可能性がある。CPAの高騰や在庫滞留リスクを避けるためにも、依存度の棚卸しと損益シナリオの試算は美容ブランドにとって急務となりうる。

TikTokの不確実性を前提にすれば、広告主にとって「二刀流」の投資配分は欠かせない。

YouTube Shortsは検索性が高く、レビューやHow-to動画との接続に適している。一方、Instagram Reelsはソーシャルグラフを活用した拡散力に強みがあり、コミュニティ内でのブランド浸透を促す。

さらにPinterestやCTV広告を組み合わせることで、面でのリーチと購買ファネル強化につながりうる。日本ブランドにとっては米国市場での販売チャネルを守るだけでなく、国内でも「米国発トレンドの逆輸入」を通じてショート動画戦略を高度化する好機となっていくであろう。

KOL(Key Opinion Leader)契約は今後、マルチプラットフォーム対応を前提に書き換える必要が出てくる。

二次利用権や配信先の横断を明記し、TikTokが使えなくなった場合でもYouTube ShortsやReelsに即時展開できるよう備えることが望ましい。

報酬形態では固定+成果報酬型を採用し、ROIの下振れリスクを抑える工夫が重要となる。加えてクリエイティブは素材を分割編集し、各プラットフォームの特性に合わせて再利用できる仕組みを整えるのが効果的と考えられる。

日本市場では、米国案件の減少によりKOLの仕事が国内に流入し、単価下落と案件増加という再編が進む可能性が高い。中小ブランドにとってはチャンスになりうる一方で、トップKOLは「マルチ活用を前提にした高額契約」を維持していく可能性がある。

TikTok依存の計測は、サービス停止によって一瞬にして機能不全に陥りかねない。だからこそ、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)やインクリメンタリティテストを導入し、プラットフォーム依存を脱することが求められる。

さらにGoogleがサードパーティクッキーの廃止を撤回したとはいえ、プライバシー規制強化の流れは不可逆的と見られる。今後は1stパーティデータを収集し、POSやECの実売データと統合した全体ROAS管理がブランド経営の生命線となりうる。日本企業も米国の規制強化を「先取り」して基盤を整備することで、国内外の市場で優位に立ちやすくなる。

米国でTikTokが制限されれば、日本市場への波及は避けにくいとされる。

  • トレンド流入の遅延:米国発の美容トレンドが日本に届くスピードが鈍化しうる
  • インフルエンサー市場の再編:米国案件が減少したKOLが日本市場に流れ込み、単価調整と案件増加が同時に進む可能性がある。
  • ブランド戦略の再構築:日本企業が米国展開を行う際には、マルチプラットフォーム広告配分とKOL契約の再設計を前提にせざるを得なくなる。

消費者にとっても影響は間接的ながら身近なものとなる。広告コストの上昇や在庫調整が商品価格やキャンペーン設計に反映され、日常的に目にする美容広告や購買体験を変えていく可能性がある。

米国のTikTok規制は美容ブランドにとってリスクであると同時に、事業モデル刷新のきっかけとなりうる可能性がある。広告配分の二刀流化、KOL契約のマルチ化、測定基盤の再構築──こうした取り組みは、日本市場にも波及しうる要請と考えられる。
「もしTikTokが明日使えなくなったらどうするか」。この問いに即答できる企業ほど、次の成長を掴みやすいのかもしれない。ヘッジは守りの策というよりも、不確実な時代に成長を持続させるための前提条件へと形を変えつつある。

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美容経済新聞

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