株式会社トニーズコレクション 代表取締役社長トニータナカさん

インタビュー

監修:美容経済新聞

花上:世界には脈々と受け継がれてきた歴史がある中で、日本にやってくると単なる“流行”でしかなくなってしまう風潮がある、と。それは、美容にかかわる人々の意識レベルの低下にもつながりますね?

トニー:はい。それは美容業界のみならず、あらゆる産業において言えることではないでしょうか。たとえばヨーロッパのデパートに行くと、ベビー用品売り場には50代、60代のスタッフが接客しています。「私は子どもを5人も育ててきたんだから、なんでも聞いてね!」って。かたや日本では、子どもを産んだこともないような若い人たちが販売員になっていたりします。美容の仕事も同じ。体の仕組みや筋肉の動きを学んでいない、ひいては人間の心と体がつながっていることや、美と健康がリンクしていることも理解していないような人たちが、“手の動きを習った”というだけで施術に入っていたりします。「その手の動きは何のためにするの?」と聞いても、答えられなかったりする。それは嘆かわしい話です。僕は過労が原因で病気をしたことがありますが、その際、リハビリのためにイギリスにあるロイヤルホメオパシーホスピタルという病院で治療を受けました。そこはリフレクソロジーやアロマテラピーなどの代替医療の病院なのですが、技術者たちは、「その治療を何のためにやるのか?」ということを僕に向かって滔々と語るんですね。僕のために行うすべての行為について、理論づけて話すことができるんです。

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花上:世界と日本の技術者を比べると、レベルの差は歴然なのですね。その根本の理由はどこにあるとお考えでしょうか?

トニー:日本の教育体制が変化してきていることにあると思います。僕は全国の美容学校の生徒たちに向けて、定期的に講演を行っていますが、10年前、20年前と比べると、学生の質が違っていることに気づきます。“考える力”がすごく落ちているんです。現代社会はインターネットが普及し情報がありふれていますが、それによって、人々が考えることを止めてしまっているような気がします。それによって、“本質”を見抜く力が落ちてしまっている。

花上:情報がありふれる現代社会の中で、“本質”を見抜く力をつけるためにはどうしたらよいでしょう?

トニー:「考えること」、「創造すること」、「表現すること」――。その3つを繰り返すことが重要だと思います。インターネットで情報を収集するのもいいでしょう。しかし、そこで得た情報を知識として活かし、知恵に変え、さらにアクションにつなげて検証していく――。そうすることでようやく、情報は活かされるのだと思います。また、“百聞は一見にしかず”という言葉があるように、自分が体感すること、見ること、それがすべて。知識を得て満足するのではなく、積極的に体感していただきたいですね。

花上:単に情報を風景のように眺めるのではなく、奥深く検証していくことが大事なんですね。

トニー:はい。それが考える力。考えることができるようになると、人に感動を与えることができるようになりますから。現在、僕が代表理事を務める日本メイクアップ連盟(MSOJ)では、年に一度、メイクアップアーティストを目指す学生に向けたアワードを開催しています。メイクアップを競うアワードで、3000名を超える学生たちが、毎年、熱い戦いを繰り広げます。会場はまるでニューヨークのブロードウェイにあるミュージカル劇場のような雰囲気。エキシビジョンでは、スペシャルゲストにハリウッドで活躍するメイクアップアーティストを招聘して、特殊メイクの実演を行ったり、メイクアップにおいてすぐれた成果を示した方を表彰する「ゴールド・メイクアップ賞」の表彰なども行ったりします。それはそれは華やかなイベントで、参加した学生たちは涙を流して感動してくれます。

花上:それは素晴らしいイベントですね。学生の方々にとっては大きな刺激になることでしょう。

トニー:今、僕は次世代のメイクアップアーティストを育てていく立場にあります。それと同時に、これまでの素晴らしい経験や培ってきたノウハウを、次世代の人たちに伝えていかなければならないと思っています。そのために、若い人たちに僕が体験してきたメイクアップの世界をどんどん体験してもらって、将来の糧にしてほしいと思っています。「本物」を積極的に吸収して、「本質を見抜く力」を養っていただきたい。そんな風に願っています。

花上:貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。これからのますますのご活躍を、お祈りしています。

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トニータナカ Tony Tanaka

Profile
1948 年東京都世田谷区生まれ。
幼少のころからヘアやメイクアップといった美容に興味を持ち、高校生の時にメイクアップを生涯の仕事と決意する。
20 歳のとき、日英米合作映画でメイクアップを担当。その後本場ハリウッドでビューティメイクアップとスペシャルメイクアップを学ぶ。
帰国後はTV・雑誌・CF など様々なメディアで活躍。
現在は『トニーズコレクション』の代表取締役社長として、オリジナル化粧品の企画・販売、美容サロンの経営、後進の教育・育成、ウェディングヘアメイクなど、美容にかかわる業務を総合的に行っている。

一般社団法人日本メイクアップ連盟 代表理事
一般社団法人日本メンズファッション協会 理事
株式会社トニーズコレクション 代表取締役

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