NTTデータがヘルスケアで重点3事業を展開

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2013.10.4

編集部

ヘルスケアで重点3事業、地域医療連携の成功例「とねっと」

NTTデータ(東京都江東区豊洲)のヘルスケア事業部は、超高齢化社会の進行にともない将来増大が予見される国民医療費の効率化などを目指し、3つの重点事業を展開している。

第1は「勘定系」と言って、医療機関から健康保険組合に請求される膨大なレセプト(診療報酬明細書)を、電子化したデータにして社会保険診療報酬支払基金(厚生省分掌)の医療費支払いのお手伝いをしている。請求されたレセプトの内容の医療費明細が正しいかどうかを同基金の審査委員会が判断するが、そのデータを提供、支払い審査業務の効率化を図っている。レセプトの電算処理システムの確立である。

第2は「診療系」で、医療機関と診療所を連携させて患者の診療情報を地域で共有することにより効率的な医療を提供するシステムの構築が代表的な事例である。救急搬送の現場から、かかりつけの医療機関や既往歴、薬、アレルギーを確認して適切な搬送に役立てるものである。例えば同社が支える「とねっと」という地域医療連携ネットワークでは、埼玉県の加須市など7市2町が構成する「利根保健医療圏」を中心に、地域全体を病床と捉えることにより多くの医療機関をネットで結んでいる。患者の疾病の予後などの経過を医師同士で共有するなどにより、患者にとって適切な医療の提供や、これを支える医療現場の効率化をもたらすことにより、それぞれの医療機関の役割が明確になる。その結果、医療者の疲弊の軽減やや救急車のたらい回しの防止に寄与する。国(厚労省)もまた全国規模のEHR(生涯電子カルテ)などを検討しているが、現在、各種予算施策などで地域医療連携を積極的に推進している。

NTTデータ_ヘルスケア事業部_田中智康課長第3の「予防系」では、同社のヘルスデータバンクに健診データを預かり、サービスを提供することにより保険者による従業員の健康管理を支援している。時系列的に従業員の健康歴が参照できる機能などにより、従業員自らの啓発に役立てるとともに、疾病のリスクがある従業員に、健康管理のアドバイスや受診勧奨を行うことによって、慢性疾患の罹患などを防ぐ試みなどを支援している。現在、国により特定健診の事業などが推進されており、糖尿病を含む慢性疾患予備群を見極めるためのメタボリックシンドロームの基準値が設けられている。例えば、糖尿病の患者は重症化すると人工透析に到るケースがあるが、これに歯止めをかけることは、医療費の削減のみならず患者のQOL(生きがい)の維持のためにも重要な取り組みである。
同社ヘルスケア事業部の田中智康課長(写真)は「超高齢化社会を迎えたいま、国民が健康を保ち労働力を維持することが、医療費の単なる抑制のみならず、結果的に医療費の効率的な活用につながる。これを支援する仕組みを社会基盤として提供することが急務である」としている。

同社は、経産省24年度助成事業として、薬局(札幌市、長野市、大阪府門真市)と連携した「健康ステーション具現化コンソーシアム」を展開している。これはPHR(個人の健康情報)という考えを基礎としているが、糖尿病などで病状が重症化する前に、薬局が健康ステーションとなって健康指数を測定したり、薬剤師がアドバイスを行うという新たな視点で実証が行われた事業である。

 

地域完結型医療の実現目指す「とねっと」
IT活用で医療連携した7市2町

NTTデータが構築した「埼玉県保健医療圏地域医療ネットワークシステム『とねっと』」は、加須市など7市2町が住民の地域IDである「かかりつけ医カード」をネットワークに乗せて医療情報を共有し診療に役立てるシステムである。総務省から自治体主体で行う地域医療連携の取り組みの成功例として評価された。

埼玉県は人口当たりの医師数や看護師数が全国でも最低レベルである。中でも「とねっと」圏(66万人)は高齢化率が高く医療資源の不足が顕著だ。高齢化の進行で医療を必要とする住民がますます増えることから、埼玉県利根保健医療圏医療連携推進協議会(会長・加須市長)は、医療情報の共有に同意している住民の「かかりつけ医カード」とITを活用して、ネットワークで医療連携に踏み切った。医師の紹介、検査や投薬の重複防止を目指している。また、救急車にタブレット端末を配備して、救急隊が現場で「とねっと」に登録された患者の医療情報を参照し、適切な処置や搬送先の選定に役立てている。地域完結型医療の実現が目標だ。

「とねっと」は平成24年7月から本格稼働し、今年3月までに118の医療機関が参加している。稼働からわずか11年で加入者数は1万人を超えた。この広がりの理由は(1)地区医師会や中核病院などに加え7市2町の行政が全面的に関与した(2)行政主体で積極的に「かかりつけ医」カードを発行した(3)臨床検査施設も参加し検査データの共有が可能になった―などが挙げられる。

「とねっと」の健康記録システムには、患者自身が身長・体重・血圧・検査値を登録し更新できる健康記録システムになっている。患者本人が健康増進や重症化予防に利用している。医療従事者にも「これまではCD-ROMを使って検査画像データを医療機関に提供していたが、提供できる画像枚数はわずかだった。地域医療ネットワークシステムを活用すれば枚数を気にせず提供できるようになった」と好評だ。「カルテの共有」は医師や病院の抵抗が強かったが、その壁を取り払った功績は大きい。普及啓発し参加者増加が今後の課題である。

 

【解説】
患者情報を共有化し、ビッグデータで予防医療へ
NTTデータ、「電子お薬手帳」も検討

保険医療機関は診療にかかわる医療費を社会保険診療報酬支払基金に請求し、同基金は請求内容が正しいかどうかを審査した上で健保に請求、健保が同基金に診療費を払い込み、最終的に医療機関に支払われるという複雑なルートをたどっている。

この国民医療費は国家予算90兆円のうち377兆4200億円(平成22年度)と最大の支出項目になっている。毎月、支払いが適正かどうか審査されるレセプト(診療報酬明細書)は7800万件に達する。審査は各都道府県が委嘱する有識者の審査委員が行うが、基本となるレセプトは電子化してコンピュータで内容をチェックしている。NTTデータはその電子レセプトを使用して、同基金の審査支払業務の効率化を図っている。

問題は膨れ上がる一方の医療費の抑制である。総務省と厚生労働省は来年度から健保加入者の病歴や健診データ、投薬履歴などのビッグデータを分析して病気の予防に役立てるシステムを作るという(日経新聞)。データを基に、病気にかかる前に加入者に警告し、生活習慣を改善できれば医療費は抑制できるのではないかという考えである。まさにNTTの「勘定系」事業と同じ発想である。

厚労省が進めようとしているという「患者情報の共有化とネットワークの構築」(読売新聞)も、同社の「診療系」の考えと共通している。埼玉県の7市2町の「とねっと」はその実証例である。救急車の救急救命士が搬送中に個人の診療情報を閲覧できることも認められた。個人の生涯電子カルテが健保加入者全員に適用されるのが理想である。患者情報の全国共有化とその活用、健保や薬局からの患者への適切なアドバイスがあれば、医療費は大幅に抑制できるのではないか。同社はヘルスケア事業に「電子お薬手帳」を検討している。みんなが健康ならば結果的に医療費は削減できるという発想である。

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