HIVERNOTHÉRAPIE(イヴェルノテラピー)
氷点下のウェルネストレンド、新たな癒やしのかたち
文:Laëtitia PONCET ROMEO
「冬の憂鬱」から解放―季節性うつを防ぐ冷刺激のメカニズム
冬は憂鬱の季節―そんな固定観念を持ってはいませんか? 実はそうとも限りません。これまでのイメージを覆し、顧客に「完全に氷のような体験」を提供できるのが、今注目の「イヴェルノテラピー(hivernothérapie)」です。この革新的なアプローチは、寒さをネガティブなものとして捉えるのではなく、「祝い」として受け入れ、自分自身と改めてつながり直すためのきっかけを与えてくれます。そして、従来とは一線を画す新たなウェルネス体験の道を切り開くのです。
お客様の心の変化に寄り添うために
曇り空や日照時間の短さにより、毎年秋から冬にかけて、多くの人の気分が落ち込みがちになります。実際、フランス人の5〜6%はこの時期に「ウィンターブルー」とも呼ばれる軽度の気分の低下を経験するといわれています。こうした冬の気分の落ち込みは、ある人にとっては「季節性情動障害」、通称「季節性うつ病」として知られる深刻な状態に発展することもあります。この季節性うつ病の世界的な有病率は、地理的な地域の光の強さによって1%から10%の間で変動します。
季節性うつ病の症状とは?
この疾患は医学的にも、うつ病性障害のサブタイプ、あるいは双極性障害の一種として認識されています。サイクル性を持つこの障害は、通常、秋または冬に発症し、春や夏になると自然に軽減する傾向があります。診断が下されるのは、これらの症状が少なくとも2年連続して同じ季節に繰り返し現れた場合です。この障害は、気分と全体的なウェルビーイング(心身の健やかさ)に悪影響を及ぼします。代表的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- イライラしやすくなること
- 過度の睡眠(過眠症)
- 常に疲労感を感じること
- エネルギーの低下、または身体的・精神的な鈍さを感じること
- 糖質や脂質を過剰に摂取してしまうことにより、急激な体重増加を招くこと
- スポーツや趣味などの活動をやめてしまうことによる運動不足
- 社交を避ける、または「冬眠したい」という気持ちになること
- 強い悲しみを感じること
冬の憂うつや季節性情動障害とどう向き合うか?
医学の分野では、冬のブルーや季節性情動障害に対してさまざまな治療法が用いられています。代表的なものとしては、薬物療法、心理療法(カウンセリング)、ビタミンDの補給などが挙げられます。しかし医療従事者の多くは、こうした治療に加えて、季節性情動障害の症状をより良く緩和・管理するために、より自然でホリスティックなアプローチも積極的に推奨しています。これらの多くは、フィットネス施設やスパ、ウェルネスセンターなどで気軽に体験できるものです。
- 光療法(ルミノセラピー):体内時計(概日リズム)と気分の調整を促進します。
- 植物療法(フィトセラピー):自然の植物成分によって心身のバランスを整えます。
- マインドフルネス実践:今この瞬間に意識を集中させることで、心の安定を図ります。
- リラクゼーションのプロトコル:深いリラックスを導くセッションや施術で、緊張をほぐします。
- 栄養バランスを考えた食事法:気分やエネルギーに影響する栄養素を最適化します。
- 定期的な運動:身体と心の活性化を促し、ストレス耐性も向上します。
- イヴェルノテラピー(hivernothérapie):寒さそのものを味方につけた新しいウェルネスアプローチとして注目されています。
3ステップで完結―イヴェルノテラピー体験の流れを徹底解説
イヴェルノテラピー(hivernothérapie)は、2021年にカナダ・ケベック州のStrøm Spa Nordiqueによって考案された、比較的新しいウェルネスコンセプトです。この施設では「冬を耐えるものではなく、祝福するべき季節として捉え直す」ことを提唱し、従来の考え方に挑戦するようなユニークなスパ体験を創出しました。特に、カナダ人の15%が抱える冬季のブルーな気分(季節性の気分低下)に対抗することを目的として、温冷を組み合わせたオーダーメイドのスパコースが設計されています。
イヴェルノテラピーの3つのステップ
- ステップ1:15分間の温熱空間体験
サウナ、ハマム(蒸気風呂)、ジャグジーなどに身を委ねます。温かさは、すぐに安心感とリラクゼーションをもたらし、ストレスを軽減します。 - ステップ2:15秒間の極寒シャワーまたは冷水浴
「北国の震え」と呼ばれるこの工程では、冷たい水に一気に浸かるか、シャワーを浴びます。冷水の強い刺激が細胞の代謝を活性化し、老廃物を排出し、肌の見た目を整え、今この瞬間への集中を促します。 - ステップ3:20分間の深いリラクゼーション
屋外のテラスに座ったり、ハンモックで横になったりして過ごします。この時間は幸福ホルモン「エンドルフィン」の分泌を促し、心身に深い癒やしをもたらします。
この3ステップは、効果を最大限に引き出すために2〜3回繰り返すのが一般的です。
科学が裏付ける温冷交代療法―ヒートショックプロテインで若々しく
温熱と冷却を交互に体感させるこの実践は、健康的なエイジングを促し、身体の寿命を延ばす可能性があると科学の分野でも注目されています。実際には、温冷のコントラスト刺激が「ヒートショックプロテイン(熱ショックたんぱく質)」の生成を誘導します。これらのタンパク質は、わずかな量であっても、身体を多様なストレスから守る働きがあるとされています。
- 外的・内的ストレスに対する適応力や回復力(レジリエンス)を強化する
- 免疫機能を活性化させる
- リンパ系や皮膚を刺激し、美容面の改善にも貢献する
- 情緒や神経系のバランス維持を助ける
クライオセラピー市場動向―2025年以降も成長が見込まれる理由
年間成長率7%、市場規模は12億ユーロ超へ
市場調査会社Businesscootによると、2015年以降、フランス国内における全身クライオセラピー市場は著しく拡大しています。2019年の時点で、国内には約300か所の施設で施術が提供されており、その後も需要は右肩上がり。2022年には市場売上が12億ユーロに達し、2023年から2030年にかけての年平均成長率(CAGR)は7%と予測されています。
「クライオセラピー(Cryothérapie)」とは、極度の冷却による治療法を意味し、1970年代に発展した技術です。専用チャンバーやカプセル内でマイナス196℃の乾いた冷気を身体に吹き付け、トップアスリートの筋肉回復や炎症性疾患の緩和、メンタルケア、美容効果など多方面に活用されています。
トップアスリート直伝―筋肉回復&痩身に効く冷水浸漬のポイント
冷水浴(6〜10℃の水温)による浸漬法は、特にトップアスリートたちの間で筋肉のリカバリー法として広く取り入れられています。この実践は以下のような効果をもたらします。
- 筋肉痛の軽減
- 微細な筋繊維損傷(ミクロトラウマ)の修復サポート
- 筋疲労の蓄積を防ぎ、運動後の回復をスムーズにする
- 鎮痛作用(冷却による痛みの軽減)
さらに、冷水に定期的に浸かることで褐色脂肪細胞が活性化され、エネルギー消費の向上が見込まれます。これは代謝促進や体脂肪の燃焼を促す効果にもつながるとされており、痩身を求める顧客層にも適した施術といえるでしょう。
冷たさが冬の憂うつに効く理由
一部の研究によれば、寒冷への曝露は、依存性のない自然な抗うつ作用を持つ可能性があるとされています。実際に、冷水や冷たい空気に身体をさらすことで、ドーパミン、セロトニン、コルチゾール、ノルアドレナリン、エンドルフィンなど、さまざまなホルモンや神経伝達物質の分泌が促進されます。これらの物質は、ストレスや感情に対する神経反応を調整する働きがあり、うつ病や不安障害、その他の感情的な不調とも関連しています。
このような冷刺激を活用した方法は、注意力や気分の改善に寄与するだけでなく、過眠症や神経過敏、冬季うつに伴う精神的な苦痛などの症状をやわらげる効果も期待されています。さらに、モチベーションの向上などポジティブな感情を促し、心身のエネルギーを再び活性化させる手段としても有効です。
ホリスティックケアとの融合―クロモセラピー&フィトセラピー併用術
- 光と色のアプローチ(クロモセラピー)
冬季における日照不足を補うため、可視光線領域の波長を用いてホルモンの分泌バランスを調整します。雪を踏む音や暖炉のはぜる音などと組み合わせたセッションもあります。 - 植物療法(フィトセラピー)
セントジョーンズワートやバレリアンなどの薬用植物によるハーブティーや精油を通じて、ストレス耐性と精神の安定を促進します。 - ハーブティースペース(ティザンリースペース)
管理栄養士や自然療法士が設計した季節限定メニューを提供し、施術効果を高める補完的要素として機能します。 - 火によるマッサージ(ファイヤーマッサージ)
オイル塗布とスクラブの後、アルコールを含ませたタオルに火を灯す古代技法。約1分間の燃焼で皮膚を温め、安全管理と高度な専門技術が求められます。 - 冬のマインドフルネス
雪の中での瞑想ウォーキングやガイド付きの瞑想セッションを通じ、「今」に意識を集中させることで心の安定を支えます。 - 北欧式スパの空間演出
没入感を生むデザインと五感を刺激する演出で、“非日常”のスパ体験を提供し、ブランド差別化を図ります。 - 氷のファウンテン
サウナの合間に氷の粒を体に塗布し、血行促進と自律神経のリラックス効果をもたらすクール体験です。 - 雪のシャワー(スノーウェルネス)
舞い降りる雪のフレークで穏やかに体を冷やす装置。エネルギーコストが低く、導入しやすい冷却手法です。 - スノーキャビンとアイスケーブ
−2℃〜2℃に保たれた閉鎖空間で、人工雪や氷の壁に囲まれた演出体験。段階的冷却で安全性を確保しつつ極寒体験を提供します。