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顧客満足も利益も諦めない!ホテル向けスパ外部委託の最適解とは


ホテル経営者がスパ運営を外部業者に委託するという手法は、決して目新しいものではありません。とはいえ、Covid以降の深刻な人材不足を背景に、スパの運営代行を請け負う企業が急増しており、その中には信頼性に疑問の残る事業者も散見されるようになっています。こうした状況下で、スパのブランドイメージを損なうことなく、外部委託を成功させるにはどうすべきか——これはいま、多くのホテルが直面している実務的な課題です。

最近では、十分な準備もなくスパ事業に参入し、未経験のセラピストを雇用して稼働させる業者も存在します。彼らは、ホテル側が抱える「人材が確保できない」「自社運営は難しいのではないか」といった不安心理につけ込み、自社サービスを巧みに売り込んでくるのです。

その結果、信じがたいような事例も報告されています。例えば、パリの5つ星ホテルで開催されるフェイシャルケアのエキスパート向け研修に、まったくの未経験者が参加していたというケースです。こうした事例は一部に過ぎないのでしょうか?残念ながら、そうとは言い切れません。証言によると、こうした団体を通じてキャリアをスタートさせた独立系セラピストの中には、1時間あたり15〜20ユーロという低報酬で働かされる例や、退職を申し出た途端に一切報酬が支払われなくなるといった問題に直面した人もいるようです。

また、衛生管理や接遇マナーに関しても深刻な問題が指摘されています。例えば、タオルが極端に使い回されるなど、ホスピタリティ業界の基準を満たしているとは言えない運営実態も報告されています。

とはいえ、本記事の目的は、こうした事業者を一方的に批判することでも、スパの外部委託を否定することでもありません。むしろ、外部委託という選択肢は、ホテルの経営資源を最適に配分し、顧客満足度を高めるための有効なビジネスモデルとなり得ます。重要なのは、適切なパートナー選定と透明性のある運用体制の構築にあるのです。

人材不足時代の新常識?施術を外注するハイブリッド型スパの仕組み

ホテル内スパの運営方法には、大きく分けて2つの形態があります。

  • ホテル経営者自身が自社のスパチームによって内部的に運営する方法
  • スパの運営を外部の業者に委託する方法

後者の場合には、さらに2つの選択肢が存在します。

最も一般的な外部委託モデル:スパの完全運営委託

このモデルでは、ホテル側はスパの運営に一切関与せず、外部の業者に鍵を預け、運営全体を任せます。業者は、トリートメントメニューの構築、ブランドの選定、スタッフの採用、研修、施術代金の会計処理、日々の清掃に至るまで、すべてを担います。

このモデルの最大の利点は、社会的責任を負わずに済む点にあります。例えば、人材の採用や給与の支払いといった責務が発生しないことです。また、ホテルはスパの売上そのものを受け取るのではなく、契約で定めた割合の手数料のみを収益とします。

一方で、ホテル経営者とスパ運営業者の間で利害が一致しない場合があることが、デメリットとして挙げられます。ホテル側が重視するのは顧客体験であるのに対し、業者側は収益を最優先する傾向があります。この利害のズレにより、運営がすぐに複雑化することがあり、それがこのモデルから撤退するホテル経営者が後を絶たない主な要因となっています。

ハイブリッド型モデル:ウェットエリアは自社運営、マッサージは外部委託

ホテルによっては、常設のスパ施設は持たずに、ウェルネス体験を提供することを選ぶ場合もあります。これは、トリートメントルームが1~2室しかなく、スパ単体で採算が取れないものの、マッサージの予約対応であれば十分に可能であるという状況に多く見られます。

また別のケースでは、サウナ、ハマム、プールなどの設備を備えた本格的なスパが常時開放され、専属チームによって運営されている場合もあります。これには特別な背景があります。たとえば、スパチームとの間でトラブルがあったり(しばしばホテルの他部署と比較してホテル文化への理解が浅いとされる)、もしくは人材が確保できないため、社内での運営を断念して全てを外部に任せた方が効率的だと判断されたりする場合です。

このようなホテルにおける運用スキームは、次の通りです。

  • ウェットエリア(サウナ、ハマム、プールなど)は常時、宿泊客に開放。利用は予約制である場合もあれば、自由利用や有料のケースもある。
  • 施術は、予約があった時にのみ提供される。
  • 宿泊客は、ホテルのフロントを通じて施術の予約を行う。
  • 施術は外部のマッサージ専門業者またはフリーランスセラピストが対応し、依頼に応じてホテルに来館し、施術後に退出。

この場合、ホテルは独立したフリーランスや、出張マッサージ専門の外部業者に依頼し、1施術ごとに報酬を支払う形でセラピストを派遣してもらいます。一般的には、施術と消耗品は外部業者が管理し、清掃やリネンはホテル側が担当します。使用するコスメブランドやトリートメントメニューの内容については、ホテルと業者の間で取り決めがなされますCovid以降、スパ業界における深刻な人材不足により、多くのホテル経営者がスパ開業時からこのハイブリッド型モデルを選択するようになっています。

ホテル経営者にとっての利点

完全外部委託型と同様に、ホテル側はスパ自体の収益性について深く懸念する必要がありません。なぜなら、リネン類やトリートメント製品などの可変費用しか発生せず、それらのコストは実際に売上があった場合にのみ支払う仕組みだからです。

さらに、ウェットエリアを有効活用する手段として、ホテルに宿泊していない一般客向けにスパを開放する「デイスパ」プランを導入することも可能です。これにより、設備の稼働率を高められるうえ、ホテル宿泊者にはその利用コストの一部を宿泊料金に反映させたり、スパの利用を有料オプションとすることで、追加収益の確保にもつなげることができます。

委託する際のデメリット

一見すると、フリーランスのマッサージ師を管理する外部業者にすべてを委託することは「手間がかからない」ように思えますが、実際にはいくつかの課題が存在します。

ホテル側がスパ利用客の体験全体を把握・管理しづらい

スパを担当するのがホテルスタッフではないため、顧客体験の一貫性が失われるリスクがあります。

事前準備の不足

専属のスパチームがいないため、伝統的なスパのように施術ルームが朝から自動的に開かれることがありません。その結果、施術開始時にオイルやおしぼりが冷たいままの状態になるのを防ぐには、別の対応策が必要となります。

アップセルにつなげる可能性が低い

スパの予約受付を担うホテルのレセプショニストは、通常スパ販売の専門トレーニングを受けていないため、アップセルにつなげる可能性は極めて低くなります。

予約に関する柔軟性の欠如

直前予約のニーズが増加している現在、このモデルでは柔軟性に欠ける場面もあります。施術の可否をその場で即答できないケースが多く、当日すぐの対応が困難なことも珍しくありません。

施術者の「資格不明リスク」が生む落とし穴

ホテル側がフリーランスの施術者について経歴や資格を事前に十分把握していないケースが多く見受けられます。結果として、自社の顧客にフェイシャルケアを提供するセラピストが、本当にCAP Esthétique(フランス国家資格)を保有しているのか、顔の施術に必要な専門知識を持っているのかどうか、確証が得られないまま施術が行われることもあります。

理論上は資格保有が前提となっているものの、現場ではそうでないケースも少なくありません。特に、フェイシャルケアに慣れた国際的な顧客層を抱えるホテルでは、この点が顧客満足度に直結する重要なリスクとなり得ます。

さらに、フェイシャルケアを行うには、法的にもCAP Esthétiqueの取得が義務づけられている点を忘れてはなりません(1996年7月5日のフランスにおける法律第16条および1998年4月2日の政令による規定)。

セラピストの資格と選定に関する保証はあるのか?

もし現在、ホテル経営者がスパの外部委託を希望する場合、派遣されるスパセラピストの資格について、どのような保証を受けられるのでしょうか?また、セラピストのプロフィールを選ぶことはできるのでしょうか?それとも、業者側が空き状況に応じて独自に人選を行うのでしょうか?

私は、これは業者ごとに異なる運用がされていると考えています。リクエストベースでのみ対応しているところもあれば、ホテル側の要望に応じて一定の枠をあらかじめ確保し、宿泊客にすぐ「ご案内可能です」と伝えられるよう配慮しているところもあります。これは、業者が抱えるフリーランスの人数にも左右される部分です。

例えば、私たちの事業では、ホテルに自社の内部システムを提供しており、施術者の空き状況をリアルタイムで確認できるほか、トリートメントの追加や予約確定までホテル側で完結できるようになっています。これにより、2時間以内、通常はそれより短時間での対応が可能となっています。

施術者については、すべて事前にスキルテストを実施し、1日間の導入研修も受けてもらっています。接遇に関するガイドラインを提供し、それに基づいて評価を行い、希望があれば時給単価の見直しにも対応しています。さらに、全員が有効な職業賠償責任保険に加入していることも確認しています。

また、法律を遵守するため、各セラピストが複数の業務を行っていることを把握しており、偽装雇用とみなされる事態を避けるよう配慮しています。このような体制は私たちだけのものではありませんが、マッサージ業務を外部委託する際には、こうした要素が非常に重要なチェックポイントになります。後々の大きなトラブルを回避するうえでも欠かせません。

ホテル側が業者に対して要求できる事項として、以下のようなこともあります。

  • あるセラピストとの対応が芳しくなかった場合、(差別的でない理由であれば)今後その人物の派遣を止めてもらうよう依頼すること
  • 顧客の希望に応じて、女性または男性セラピストを選べるようにすること

フランスでは今もなお、女性の施術者を希望する顧客が多い傾向にありますが、これは地域によって異なります。なお、このようなセラピストの性別指定は、高級ホテル業界のLQA(Luxury Quality Assurance)基準にも含まれている要素のひとつです。

フリーランス施術者を迎えるための事前準備

多くのマッサージ系フリーランスが、訪問先のホテルの特徴すら把握せずに次々と施術を行っている様子が見受けられます。では、こうした状況をどう防ぐべきなのでしょうか?

これは、ホテル側の運営体制によって大きく左右されます。もし独立系のフリーランスと直接契約している場合、施術者たちは自らのスケジュールを最大限に効率化しようとします。訪問先の施設情報を十分に把握していなかったり、複数ホテル間の移動時間を過小評価していたりすると、すぐに予定が崩れてしまい、結果としてホテル側にとって深刻な問題につながる可能性があります。

その点、マッサージ専門の業者を介する場合は、こうしたリスクをあらかじめ理解したうえで業務設計がなされており、ホテル側に不都合が生じないよう配慮された体制が整っているのが一般的です。中でも重要なのは、フリーランス施術者の受け入れプロセスが明確に整備されているかどうかを、ホテル側が事前に確認することです。例えば、私たちの事業では、各ホテルの運営スタイルに合わせた専用のチェックリストや動画マニュアルをすべての施術者に提供しています。その内容は、ホテルのスタッフ用入口から施術ルームまでの動線、必要備品の保管場所、タオルの回収・補充エリア、施術後の清掃手順に至るまで、実務に直結する幅広い項目をカバーしています。

実際のところ、こうした準備はホテル側にとっても決して難しいものではありません。スマートフォンで簡単な動画を数本撮影するだけで、施術者への情報提供は十分に可能です。例えば、スタッフ用入口(フリーランスが誤って顧客用エントランスから入らないため)、ユニフォームの受け取り場所、スパエリアや施術室の鍵の開け方、トリートメント用品の保管場所、施術後のセッティングの手順など、要点を押さえた動画を用意することで、現場での混乱を大きく減らすことができます。とはいえ、実際にはこうした準備に十分な時間やリソースを割いていないホテルも少なくありません。その結果、現場でのすれ違いやトラブルが発生するリスクが高まってしまいます。

ホテルがスパを外部委託する際に直面する2つの課題

スパ運営を外部に委託する際、ホテル側が最も苦労するのは直前の予約対応です。例えば、当日の16時に「16時30分から施術を追加したい」といった依頼が突然入ることがあります。そのたびに「物理的に不可能です」と丁寧に説明しているのですが、それが当然の判断であるという認識が、必ずしも共有されているわけではありません。

もうひとつの大きな課題は料金設定です。多くのホテルは、顧客にとって「利用しやすい価格」を維持したいと考えていますが、施術者に適正な報酬を支払えるかどうかには十分な配慮がなされない場合も少なくありません。料金をわずかに引き上げようとしただけで、大きな反発を受けるケースもあります。

特に難しいのは、施術1回分の料金が宿泊1泊分の価格と並ぶような価格帯のホテルです。このようなケースでは、価格改定のハードルが極めて高く、理解が得られにくいのが実情です。しかし、私たちとしては、サービスの質を維持するためには価格の見直しが避けられないという現実があります。

一方で、高級ホテルではこの課題が比較的生じにくい傾向にあります。というのも、ラグジュアリークラスの施設では、宿泊料金がマッサージ1時間分の3〜4倍に達することも多く、価格のバランスに対する抵抗感が少ないためです。

厳しい採用環境のなかで、フリーランスのスパセラピストをどう見つけるか?

これは決して簡単なことではありません。そして、フリーランス施術者の技術レベルにばらつきがある一因でもあります。そのため、私は自らマッサージスクールを立ち上げました。現在活動している多くのフリーランスは、自社の研修機関の出身者です。また、採用においては口コミも非常に大きな役割を果たしています。

加えて、現在では多くのフリーランス施術者が「特定の一社に依存せずに活動したい」「顧客を安定的に確保するのが難しい」という現実を認識し始めています。

外部委託であっても最高のスパ体験を提供する条件とは?

私の考えでは、スパ体験の質を決める最大の要因は「関わる人間の姿勢」です。それが社員であれ、外部の施術者であれ変わりません。

モチベーションが低かったり、疲労が溜まっていたりする社員は、心のこもったマッサージを提供できないこともあります。一方で、外部の施術者は、より意欲的でフレッシュな姿勢で、顧客の声に耳を傾けてくれる傾向があります。もちろん、社員の方がスパの運営ルールやブランドの指針に従いやすいという利点もあります。一方、フリーランスは、その柔軟性を活かして、顧客一人ひとりのニーズに応じた対応が可能です。

例えば、ホテルで社員として働くスパセラピストが、入社時に2日間の導入研修を受けた場合、接客や施術の流れがブランド基準に沿って最適化されているのが理想です。しかし、フリーランスであっても「質の高い顧客体験を届けたい」と強く願う施術者であれば、それは十分に実現可能です。

正直なところ、スパセラピストの提供する体験の質を左右するのは、その人が働く「環境」です。そしてその環境は、ホテル内であれば関与度の高いスパマネージャーによっても、外部であれば意識の高い専門業者によっても構築され得ます。

スパの外部委託を考えているホテル経営者へのアドバイス

まずおすすめしたいのは、複数のフリーランスと提携している専門業者と協働することです。1人のフリーランスに依頼しても、毎日8時から20時まで、週7日対応してもらうのは現実的に困難です。しかし、複数名の施術者を抱える事業者であれば、より高い即応性を確保でき、それが顧客満足に直結します。重要なのは、信頼できる採用プロセス、管理体制、そして豊富な現場経験を備えたパートナーを選ぶことです。

もちろん、コストを抑えるためにフリーランスと直接契約するホテルもあります。ただしその場合、柔軟な対応力や施術品質の一貫性が得られないリスクがあることも理解しておく必要があります。

また、施術者のバックグラウンドによってサービスの“雰囲気”も異なるという点にも注意が必要です。たとえば、ラグジュアリースパでの勤務経験を持つフリーランスは、高級感のある落ち着いた接客や振る舞いが期待される一方で、都市型スパ出身の施術者は、よりスピード感と実用性に優れた対応を得意とする傾向があります。いずれも高いスキルを持っていますが、提供される体験や印象は大きく異なります。私たちのようなマッサージ専門業者は、ホテルの雰囲気や客層に合わせて、最適な人材の選定とご提案を行うことが可能です。

契約書の作成と資格確認を忘れずに

フリーランスと契約を結ぶ際には、契約書の締結と資格の確認が不可欠です。中でも特に重要なのは、施術者が他の現場でも業務を行っているかどうかを確認することです。ひとつのクライアントに依存した働き方と判断されると、「偽装雇用(サラリーマン化)」とみなされるリスクが生じます。このような法的・経済的依存状態は、ホテル側とフリーランスの双方にとって不利益をもたらす可能性があるため、事前の確認と配慮が欠かせません。

さらに、トラブルやクレーム発生時の対応を見据えて、施術者が職業賠償責任保険に加入しているかどうかも必ず確認しておくべきです。こうした契約や法務、リスク管理に関する業務は、外部業者が一括で対応するケースもあれば、ホテルの人事・総務部門が担う場合もあります。

フリーランスのテストは必須

採用候補の施術者については、必ずマッサージの施術テストを行ってください。これは、技術レベルやホスピタリティを評価するうえで非常に重要です。もし、こうした評価に慣れていない場合には、施術者の採用ノウハウを持つ外部業者に委託する方が安心です。たとえば、ホテル側では「施術前のカウンセリングの質」「施術説明の仕方」「既往症の考慮」などの判断が難しい場合もあります。

収益性か、顧客満足か──外部委託スパに求められる投資判断の視点

もちろん、フリーランスの管理会社を通す場合と、直接契約する場合とでは、利益率に違いが出るのは事実です。しかし、「安心して任せられる体制」にはそれ相応のコストがかかるという現実もあります。

スパ運営を外部に委託する場合、必ずしも収益性だけを重視すべきではありません。顧客満足を100%達成できること、そしてホテル側が煩雑な管理業務から解放されることが、最も大切な価値です。

まずは1年契約から始めてみましょう

このモデルを試すには、1年ごとの契約更新制を導入するのが最も現実的です。運用がホテルの環境や顧客層に合っているかどうかを評価しながら進められるためです。また、契約を円滑に進めるためには、フロントスタッフの研修や館内・顧客向けの情報共有体制など、パートナー業者が活動しやすいようにサポートすることも忘れてはなりません。


Noélia Ségadé氏に聞く、フリーランスのスパセラピストという働き方とは?


Noélia Ségadé氏は、パリで10年以上にわたり活動しているフリーランスのマッサージセラピストです。現在も複数のマッサージ派遣会社と契約し、パリ市内のホテル向けにサービスを提供しています。今回は、フリーランスのスパセラピストを探しているホテル経営者や、これから独立を目指す施術者に向けて、彼女の視点から「良い事例」と「避けるべきケース」を紹介していただきました。

「フリーランスのスパセラピストとして働くことは、短期間で多くの経験を積み、様々な顧客層と出会い、美しい環境で働けるチャンスです。ただし、非常にタフなリズムで、組織力と冷静な判断力が求められます。というのも、マッサージ分野でフリーランスを活用する会社が急増しており、中には非常に良い会社もあれば、そうでない会社もあるからです」

フリーランスセラピストの現場と需要

どのようなホテルがフリーランスのスパセラピストを採用しているのですか?

4つ星、5つ星、ラグジュアリーホテルが主なクライアントです。施術の合間にホテル側と話す中で感じるのは、「人材不足」が最も大きな課題であるという点です。接客意識が高く、ディテールに配慮でき、なおかつ高い技術を持つスパセラピストを確保するのは、ほとんど不可能に近いとされています。

また、多くのスパが慢性的な人手不足に陥っており、精神的にも肉体的にも過酷な労働環境にあります。そのうえ、報酬水準が非常に低いため、特に家賃が高騰しているパリでは働き手が集まりにくく、地方でもスパセラピストの需要が高まっている背景から、フリーランスの必要性が急速に高まっているのです。

採用体制とその実態

採用のプロセスはどのように行われるのですか?

それは業者と責任者の体制によって大きく異なります。元マッサージセラピストが経営している業者であれば、現場を理解しているため、直接的で信頼性の高い採用が行われる傾向にあります。

一方で、私がこれまでに関わったいくつかのエージェンシーでは、マッサージの知識がない人物(受付係、秘書、メイクアップアーティスト、元警察官、ヨガ講師など)が採用を担当していました。子ども部屋や団地の一室などで面接を受けたこともありましたし、骨と筋肉の違いすら把握していない人が担当していたこともあります。このような状況で、私たちを5つ星ホテルに派遣するというのは、今では私にとって完全に「レッドフラグ」です。

スパ施術者の事前評価とリスク

ホテル側が、施術者を事前にテストすることはありますか?

一部のパラスホテルや5つ星、ラグジュアリーホテルでは、施術前に「ハンドテスト」や面談を通じて事前評価を行うケースがあります。ただし、これは全体のごくわずかに過ぎません。このような場合、施術はオーダーメイドのマッサージやスタンダードなフェイシャルケアで行われますが、たいていはスパ専用ブランドの施術研修は事前に受けていません。

大多数のケースでは、スパマネージャーは施術を担当するフリーランスの履歴書すら把握していないのが実情です。つまり、フェイシャル施術を担当する者がCAP Esthétique(フランスの美容国家資格)を持っているか、顔のケアにおける専門知識があるのか、ホテル側には確認する術がないのです。特に、フェイシャルに慣れた国際的な顧客が多く滞在するホテルでは、顧客満足度に影響を与えるリスクが現実的に存在します。

ブランド研修の現状と即興対応の実態

実際に働くホテルで、ブランドや施術プロトコルの研修を受ける機会はありますか?

必ずしもあるとは限りません。簡易的な研修が1〜2時間行われることもありますが、例えば4つのプロトコルを短時間でざっと説明する程度の内容です。機密保持の観点から、マッサージのプロトコル資料が配布されることも稀です。あるエージェンシーでは、施術経験のない研修生に対し、2ヶ月後に予定されていた研修に先駆けて「今日から働けるように」と、たった1時間でマッサージを教えるよう求められたこともありました。

実際のところ、私たち施術者はこれまでの経験をもとに即興で対応しているケースがほとんどです。幸いなことに、多くの顧客はマッサージに対して明確な基準を持っていないため、何とか乗り切れてしまうのが現状ですが、本来あるべき姿ではありません。


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FLORENCE KOWALSKI

FLORENCE KOWALSKI

ウェルネス・コンサルタント

フランス雑誌「Les Nouvelles Esthétiques」の寄稿者であり、ウェルネス分野のコンサルタントとして活躍しています。ウェルネスやコスメティクス分野のウェブ記事編集者でもあり、美容分野でCAP資格やBTS資格を取得後、ホテルスパ業界の発展を目指してマーケティングと経営のコンサルタント会社「Spaboosting」を設立しました。顧客エクスペリエンスの向上や収益性の確保を目的とした手法を開発し、スパ収益性のエキスパートとして高く評価されています。

  1. 顧客満足も利益も諦めない!ホテル向けスパ外部委託の最適解とは

  2. ChatGPTで時短×集客アップ!エステ経営者のためのAI活用マニュアル

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