世界の美容とヘルスケアビジネス情報を配信

FEATURED

注目の企画

BUSINESS

【インタビュー】アメリカのホテルスパに学ぶ収益アップ 5つの秘訣


ウェルネス分野において、アメリカが市場をリードしているというのは、もはや常識となっています。実際、ウェルネス業界、特にホテル業界における主要トレンドを一堂に紹介する年次イベント「Global Wellness Summit」が、北米を拠点とするGlobal Wellness Instituteの主催で開催されているのは偶然ではありません。アメリカにおけるスパの強さを理解し、フランスのホテルスパ市場で取り入れられる要素を明らかにするために、私はChristelle Fourcade氏と意見交換を行いました。彼女に注目したのには三つの理由があります。

  • フランス出身でありながら、アメリカに25年間在住していること
  • ホテル業界出身であること(スパ業界ではこの経歴は非常に希少であり、その視点は見逃せないほど大きな影響を与えています)
  • Yon-Kaの商業責任者として、現在はホスピタリティ分野におけるグローバル事業開発ディレクターの役職を担いながら、アメリカを西から東、東から西へと横断的に訪問していること

この対談は非常に示唆に富むものであり、彼女の重要な発言を抜粋しつつ、注目すべき製品や施術トレンドを抽出しました。さらに、それらがフランスでどのように応用できるのかについて、実践的なアドバイスも交えて分析しています。このやりとりを通じて、アメリカではホテルスパがいかに「戦略的なビジネス装置」として機能しているのかが明らかになります。それに対して、フランスではなぜこれほどまでに立ち上がりに苦戦しているのか、その理由も浮き彫りになってきます。

1 – スパ機器導入で差別化を図るホテル業界の動向

Christelle Fourcade氏:「現在、ほとんどのホテルには“看板マシン”があります。なかでも多く導入されているのが、HydrafacialやIntraceuticalsのフェイシャル酸素マシンです。そして、フランスとは異なり、アメリカではこうした施術が単独で提供されるのではなく、ホテルが所有する機器を取り入れた施術プロトコルを、各化粧品ブランドが開発しています。これは時に、そのブランドが導入されるための条件になることさえあります」

フランスでの応用方法は?

スパ業界でも、こうした機器の導入はホテル内で徐々に進んでいます。それにより、以下のようなメリットが得られます。

  • 競合との差別化が可能になる
  • より高い効果が期待できる施術の提供が可能になる

ただし、実際のところ機器の選定はまだ一貫性に欠け、営業担当者の印象や新しさへの期待といった理由で選ばれてしまうケースが多く見受けられます。その結果、導入した機器が施術メニューに適合せず、販売しづらくなってしまうことがあります。

アドバイス

  • 導入する機器は、施術メニュー全体の一部として位置付けて選定してください。
  • メーカーに対して、その機器を使った施術がどのように自社メニューに組み込めるのかを具体的に尋ねてみましょう。
  • 化粧品ブランドには、その機器を組み込んだ専用プロトコルの作成を依頼することをためらわないでください。

2 – 人手不足時代のスパ経営に効くハンズフリー技術の活用法

Christelle Fourcade氏:「注意すべき点として、これらの技術の目的はスパセラピストの代替ではなく、手技によるマッサージとは異なる体験を提供することにあります。たとえば、Aescape社が開発したロボティック・マッサージベッドは、来店時の顧客の好みを学習し続けることで、よりパーソナライズされた施術を提供し、30分間で60分の手技マッサージに匹敵する効果を謳っています。

アメリカ人はトレンドや流行を好みますが、新しいものに置き換えるのではなく、“体験を追加する”という発想を持っています。つまり、常に新しさがあり、変化があることを求めているのです。他とは違う何かを求めているため、ホテルスパにとっても刷新の機会になり、トレンドに敏感であることや挑戦する姿勢を保つことに繋がります。こうした絶え間ない進化こそが、スパが“勢い”を維持し、顧客にとって魅力的であり続ける理由です」

冷却技術のもう一つのトレンド

ハンズフリー技術におけるもう一つの注目は、冷却療法の活用です。クリオセラピーやコールドプランジ(水風呂)といった、冷水への全身浸水により、冷温交代による健康効果を得るものが挙げられます。これは既にフランスでも個人レベルでは普及が進み、Wim Hofメソッドの広まりとともに認知されていますが、スパ施設における集団的な導入はまだ限定的です。

フランスでの応用方法は?

現在、フランスでは伝統的なスパ利用者がハンズフリー技術に対してまだ懐疑的な傾向があります。多くの人はマッサージ=手技という固定観念を持ち、手技でなければ「本物の」マッサージではないと考えがちです。

ハンズフリー施術の導入について

ロボティック・マッサージベッドはまだ国内での導入例は少ないものの、着実に技術開発は進んでいます。手技とは異なる施術ではありますが、“劣った”マッサージというわけではありません。大切なのは、手技と機器施術の対立ではなく、両者をどのように組み合わせて、お客様やスタッフ、そして最終的には売上に還元できるかを考えることです。

現在、スパにおいて最も需要の高い施術がマッサージであり、加えて熟練のスパ施術者の採用は難航し、離職率も高いという実情があります。そのため、ハンズフリー施術はメニュー構成の中で無視できない要素です。

その導入にあたっては、価格設定やサービスの位置づけを適切に行う必要があります。同じ時間の施術であれば、手技によるマッサージの方が価格は高くなるべきです。ハンズフリーによる施術は、マッサージカテゴリの中でもプレミアムな選択肢として提供するのが理想的です。

冷却技術に関するポイント

冷却を活用した技術の中でも、クリオセラピー(冷却療法)は現在のフランスにおいて、依然として規制の対象となっています。特定の技術については、医療従事者による施術が義務づけられているなど、医療行為として扱われる場合があります。

一方で、氷水への浸漬といったシンプルな手法は誰でも実践でき、実際に全身を浸す体験をした私自身、そのリフレッシュ効果の高さを実感しました。

アドバイス

施設の構成や立地条件によっては、100%ハンズフリーの施術を提供メニューから最初から除外しない方が良いでしょう。たとえば、施術室の数、スタッフの規模、リクルートが難しい地理的条件(人里離れた立地など)を抱える施設にとっては、伝統的なマッサージに対する優れた補完となり得ます。

機器導入の前に、以下の視点から検討してみてください。

  • この機器はどのような顧客ニーズに応えるのか?そして実際に、そのニーズは私たちの顧客に存在するのか?
  • 設備メーカーが提示する販売価格や資金計画をもとに、投資の回収は可能か?それが可能なら、どの時点から黒字化できるのか?

3 – 複数ブランド導入と収益拡大の可能性

Christelle Fourcade氏:「アメリカのスパでは、複数ブランドを導入していることがごく一般的です。その目的は、あらゆる顧客層のニーズに対応するためです。たとえば、自然派を求める人、オーガニックにこだわる人、あるいは即効性の高いケミカルピーリングのような結果重視型の施術を希望する人など、多様な期待に応えることが求められます。

フランスにいまだに見られる、他のブランドを同時に導入することを禁じる“排他的契約”という考え方は、アメリカでは存在しません。もちろん、ブランド側としてはいつでも契約が終了する可能性があるため、厳しい状況ではあります。しかしその一方で、まずは1種類のトリートメントだけを導入してもらい、顧客に好評であれば徐々にラインナップ全体を採用してもらえるという流れが一般的であり、その分スパへの参入障壁は低くなっています」

結果がすべてを決める

また、フランスではよく「海外の顧客はフランス製のスキンケアブランドを好む」と信じられていますが、ブランド名に「Paris」と記載されているだけで売れるわけではありません。

Christelle Fourcade氏:「アメリカの顧客は、ナショナルブランド(自国ブランド)やフランス製のブランドに、フランス人ほど強いブランドロイヤリティを持っているわけではありません。確かに“フランス発”というラベルに惹かれる人はいますが、それよりも大切なのは、“その製品が効果的かどうか”、つまりエイジングケア・保湿・肌の輝きといった目に見える効果を実感できるかという点なのです」

フランスでの応用方法は?

フランスでは、長年にわたり多くのブランドが「単一ブランド導入(モノブランド)」を基本方針としてきたこともあり、その考えが深く根付いています。また、多くのケースでブランドが製品と施術メニューをすべて一括導入させようとするため、スパ側には大規模な初期在庫投資が求められるというハードルもあります。その結果、第2ブランドの導入を検討する際には時間をかけて慎重に判断する、あるいは断念してしまう傾向があります。

これは非常に残念なことです。なぜなら、こうした制約があることで、ブランド側がまずは単品の施術から導入してもらい、スパ顧客の反応を見ながら広げていくという「第一歩」を踏み出すチャンスを失ってしまっているからです。この手法は、いわゆる“フット・イン・ザ・ドア”(入口商品戦略)や、現在デジタル製品分野で言われる「ミニマムオファー」と同様であり、フランスでももっと活用されるべき“Win-Win”の機会といえるでしょう。

アドバイス

スパ側としては、既存または将来の顧客ニーズにマッチしそうなブランドがあれば、ポップアップ形式の試験導入を積極的に提案してみてください。期間は3か月から6か月ほどに設定すれば、十分に実用的なテストとなり、有益な判断材料が得られるはずです。

ブランドとして、戦略の見直しを

ブランドとして、市場の変化に対応し続ける必要があることは誰もが理解しているはずです。より多くの人々に認知されるほど、顧客への転換率も高まります。そうした状況において、今こそ販売戦略を見直すべきタイミングなのかもしれません。

4 – 平日の空きを収益に変えるスパメンバーシップ活用術

アメリカでは、スパのメンバーシップ制度が非常に一般的です。年間一定額を支払うことで、ホテルに宿泊していない外部の人でもスパの設備を利用できます。たとえば、サウナ、ハマム、プール、フィットネスルーム、体操やヨガのレッスンなどが含まれます。この会員制には通常、月に1回の60分間フェイシャルまたはマッサージの施術が含まれており、追加の施術や製品については10〜15%の割引が提供されるのが一般的です。メンバーシップ制度は、ホテルの宿泊率が日によって大きく変動する状況下で、平日にスパの稼働率を補うための有効な手段となっています。実際、月曜から金曜まではビジネス会議やコンベンションの出席者がホテルを訪れるケースが多く、彼らはスパを利用しないことが大半です。

したがって、ホテル側は外部からの顧客を積極的に呼び込む必要があります。フランスと異なり、アメリカのホテルは、スパ利用の中心を必ずしも宿泊客に絞ることはありません。その顧客層がスパに適さないと判断した場合は、広報戦略に予算をかけ、メンバーシップそのものを独立した“商品”として構築します。これが収益性のカギになるからです。そのため、アメリカのスパは日常的に過ごしたくなるような空間としての魅力を強化し、「社交的に見られて良い場所」としてのポジショニングを意識的に行っています。

フランスでの応用方法は?

フランスにおいて、スパのメンバーシップ制度はもっとも過小評価されている商品といえるかもしれません。実際、「adhésion annuelle(年間会員)」というフランス語表現は響きが地味なため、英語の“membership”という語をあえて使うケースも少なくありません。

しかし、メンバーシップ制度には次のような利点があります。

  • 年間一括払いであれば前払いの確定売上に、月額制であれば安定した月次収益になります。いずれにしても収益の見通しが立ちやすくなります。
  • コスト負担は比較的軽く、消耗品としてはリネン類の使用が中心で、その他はほとんど固定費の範囲で運営できます。
  • 人の少ない時間帯でも施設を活性化させる効果があります(飲食店と同様に、「人がいる場所にはさらに人が集まる」傾向があります)。
  • 会員は口コミによる宣伝にもつながります。メンバーシップには強い社会的側面があり、所属していることに誇りを持ち、周囲にそのことを話したくなる心理が働きます。

とはいえ、現在のフランスではウェルネス領域において、スポーツジムを除けばメンバーシップという文化はあまり根付いていません。この制度は存在はしているものの、積極的に販売されることはほとんどなく、「スパ施設が混みすぎてホテル宿泊客の体験を損なうのではないか」という懸念がその背景にあります。

確かに意図としては理解できますが、実際のところホテル宿泊者はスパ売上の主力ではなく、継続的な収益を生む可能性は限定的です。その点、メンバーシップは、広報戦略としても、そして定期的な収益源としても、アメリカ同様にスパの収益性を支える柱となり得ます。必要なのは、フランスのシステムに合わせて上手にアレンジすることです。

アドバイス

  • メンバーシップ制度といえば高級ホテル専用のものという考えはそろそろ捨てるべきです。多くのスパマネージャーがいまだにそうした“特権的”なイメージを持っています。
  • 自施設のスパ利用者数のデータを見直し、過去1〜2年の間に「あとどれだけの人を受け入れる余地があったか」を推定してみてください。
  • 仮に混み合っている時間帯があったとしても、それだけでメンバーシップ制度を断念すべき理由にはなりません。まずは3か月間限定・10人程度という小規模な枠からスタートし、うまくいけば期間を延ばし、人数枠を少しずつ増やしていくというステップを踏むのが現実的です。

試行錯誤を重ねながら学ぶことが重要です。

唯一確実に言えるのは、もしホテルのGeneral Managerが「顧客体験第一」を理由に、こうした取り組みを全否定しているならば、そのスパが真に収益性の高い“販売拠点”になる可能性は低いということです。

5 – アメリカ型ホテルスパ経営に学ぶ収益性向上の実践ポイント

Christelle Fourcade氏:「アメリカでは、“スパがあるのが当然だから”という理由でスパを設置するホテルはありません。スパは“利益を生むため”に存在しています。一方で、フランスでは、スパはまだ“付加価値”の要素として扱われているように感じます。つまり、他ホテルとの差別化を図るために、スパを備えているという位置づけなのです。

実際にフランスのホテル経営者と話してみると、多くの場合、スパからの明確な収益を期待していないことが伝わってきます。<アメリカではその前提が異なります。ホテルのGeneral Managerや、チェーンホテルのウェルネスディレクター、スパディレクターたちは、フランスとはまったく異なる姿勢で取り組んでいます。アメリカでは、“収益性”はスパの存在意義そのものなのです。そのため、スパマネージャーやディレクターは経営会議に参加し、料飲部門や宿泊部門と同じレベルで戦略立案に関わります。広報活動にも積極的で、実施した施策の効果を分析し、必要に応じて即座に改善を図るという高い柔軟性を発揮しています」

フランスでの応用方法は?

フランスのスパ業界の多くの専門家が、「スパは利益を生むためにある」とホテル経営者の口から聞けたらどれほど嬉しいだろうと思っているはずです。なぜなら、それは戦略的な行動計画を受け入れてもらえる環境が整っているという意味になるからです。

しかし現実には、そうした前向きな姿勢に出会える機会はまだ稀です。スパはしばしば、“お詫びの場”として利用されてしまいます。つまり、宿泊やレストランで不満があった顧客への補填手段とされ、本来得られるべき収益が失われるケースが多く見受けられます。

さらに、スパ部門への投資は後回しにされがちです。多くの経営者がいまだに、手動式のマッサージベッドを電動ベッドに置き換える必要性を理解していません。レストラン部門では季節ごとにメニューが刷新されるのに対し、スパの施術メニューは滅多に変わりません。季節性の違いはあるものの、それだけでは説明しきれない差です。しばしば、スパには「静かに、目立たず、最小限のリソースで機能してほしい」といった期待がかけられています。これでは、アメリカのようにスパが“収益の主力装置”として機能する状況には到底たどりつけません。

経営陣の明確な支援がなければ、どんなに意欲の高いスパマネージャーでも、スパを本当の意味での収益源に変えることは難しいでしょう。

アドバイス

General Managerの多くは、スパ経済や運営上の課題について、学校教育の中で十分な知識を得ていません。そのため、スパマネージャーの立場としては、これらのテーマに関する“啓蒙”を積極的に行う必要があります。まずは、自身がスパの経営指標(KPI)を正確に把握し、分析できるようにすることが重要です。たとえば、売上、ホテル宿泊客および外部顧客の利用率、固定費・変動費などを理解し、それを基に自施設の状況を説明できるようにしておきましょう。

加えて、同規模の他施設との比較(ベンチマーク)を行い、改善点を洗い出し、明確な行動計画として提案できれば、スパに収益目標を設定するという考え方を現実のものとして浸透させることができるでしょう。

要点まとめ

アメリカのホテルスパで観察された一部の傾向は、現時点ではフランス市場とはかけ離れているように見えるかもしれません。例えば、常駐する看護師がBotox注入などの非侵襲的な施術を行い、顧客を他施設へ流出させないようにする事例などは、フランスではまだ一般的とは言えません。

それでも、ここまでに紹介したアメリカのホテルスパにおける5つの潮流は、フランスにおけるホテルスパが「宿泊」「料飲」に続く第三の柱としてその地位を確立するための、大きな可能性を秘めています。その道のりは決して平坦ではありませんが、その価値は十分にあります。ホテル経営者、化粧品ブランド、スパマネージャーなど、すべての関係者が手を取り合って行動を起こすべき時が来ているのです。


ヌーヴェル日本版(LNE)公式サイトwith美容経済新聞 2025年6月正式リリース!

  • Byline
  • New
FLORENCE KOWALSKI

FLORENCE KOWALSKI

ウェルネス・コンサルタント

フランス雑誌「Les Nouvelles Esthétiques」の寄稿者であり、ウェルネス分野のコンサルタントとして活躍しています。ウェルネスやコスメティクス分野のウェブ記事編集者でもあり、美容分野でCAP資格やBTS資格を取得後、ホテルスパ業界の発展を目指してマーケティングと経営のコンサルタント会社「Spaboosting」を設立しました。顧客エクスペリエンスの向上や収益性の確保を目的とした手法を開発し、スパ収益性のエキスパートとして高く評価されています。

  1. 【インタビュー】アメリカのホテルスパに学ぶ収益アップ 5つの秘訣

  2. Grand-Hôtel Four Seasonsに学ぶ、ラグジュアリースパにおけるウェルネス・リトリート導入の実践事例

  3. Instagramアルゴリズムを味方に!美容サロン・スパのための集客ルーティン

RELATED

気になるなら一緒に読んでほしい関連記事

PAGE TOP
インナービューティーアワード開催!
市場調査に基づき健康貢献度の高い商品を選抜。発表は8/25~本サイトにて!
受賞企業様向け特設ページ