執筆:Galya ORTEGA
近年、採用と人材の定着に関して、私たちは混乱とも言える状況に直面しています。求人数は豊富でありながら、多くの企業が人材確保に苦慮しており、同時に、数多くの求職者が職を求めて奔走しています。これほどまでに「人を求める側」と「職を求める側」が存在しているにもかかわらず、なぜ両者はうまく結び付かないのでしょうか。
企業価値と倫理性が鍵となる現代の採用トレンド
近年、採用分野においては、新たな潮流が顕著になりつつあります。こうした変化は、技術・社会・経済といった多様な要因の影響を受けて加速しています。以下に、主なトレンドのいくつかをご紹介します。
スキル重視の採用
近年、学歴や形式的な資格ではなく、実践的なスキルや実務経験を重視して人材を採用する企業が増加しています。このアプローチにより、従来の経歴にとらわれず、成功に必要な能力を備えた人材を見出すことが可能になります。
非常に魅力的に聞こえますが、この手法は採用プロセスの根本的な見直しを伴います。採用担当者にはこれまで以上に多くの時間と判断力が求められ、求職者にも、自身の嗜好や能力、さらには個人的、あるいは内面的な習慣まで開示することが期待されます。
それでもなお、この採用手法は「より人間らしい」として、多くの関係者から高く評価されています。
遠隔採用とハイブリッド勤務
Covid-19のパンデミックを契機に、テレワークやハイブリッド型勤務は、もはや例外ではなく標準的な働き方として定着しつつあります。これにより、企業は地理的な制約を超えて人材を募集できるようになり、採用の選択肢が大きく広がりました。
しかし、スパ業界においては事情が異なります。スパマネージャーやスパセラピストなどの職種は、現場での対応が不可欠であり、リモートワークの適用は現実的には難しいのが実情です。
人工知能(AI)の活用
採用プロセスの効率化と高度化を目的に、AIの活用が急速に広がっています。具体的には、履歴書の自動スクリーニング、事務手続きの効率化、さらには候補者の適性評価など、多岐にわたる領域で導入が進んでいます。
加えて、AIツールはプロフェッショナル向けソーシャルネットワーク上のプロフィールを解析し、いわゆる“潜在的な人材”を特定する手段としても機能しています。
応募者体験
近年、「応募者体験」が、重要な戦略要素として注目されています。これは、求職者が求人情報を目にした瞬間から、応募、面接、選考結果の通知、そして入社に至るまでのすべての接点で企業に対して抱く印象や感情を指します。
企業はこの体験価値を高めるために、選考過程における透明性の確保、応募手続きの簡素化、さらにチャットボットなどのツールを活用した迅速な対応などに積極的に取り組んでいます。こうした施策は、求職者からの信頼を得ると同時に、優秀な人材の獲得競争において他社との差別化にもつながっています。
多様性、公平性、包括性に関する取り組み
現在、ダイバーシティに関する方針は採用活動の中心的な位置を占めています。企業は、民族的マイノリティや多様なジェンダー、その他の社会的に過小評価されがちなグループの出身者を積極的に採用することで、チームの多様化を図ろうとしています。こうした取り組みによって、より包括的な職場環境と、多様な視点が育まれるようになります。
柔軟性とウェルビーイング
求職者の間では、ワークライフバランスや柔軟な働き方に対する関心が一段と高まっています。柔軟な勤務時間の設定やリモートワークの導入、さらにメンタルヘルスや心身の健やかさへの配慮を行う企業は、働き手にとってより魅力的な選択肢となりつつあります。
一方で、スパを併設するホテルでは、21時頃までの営業や週7日体制の勤務が一般的であり、現場スタッフには一定の拘束が求められます。そのため、候補者の多くは、可能な限り週末の休暇を確保したい、あるいは家族や友人との時間を大切にするために夕食時までに業務を終えたいといった希望を、初期段階から明確に伝える傾向があります。
ソーシャルリクルーティング
LinkedIn、Twitter、Instagramといったソーシャルメディアは、優秀な人材を発掘し、効果的にアプローチするための不可欠な手段となっています。企業はこれらのプラットフォームを活用し、雇用ブランドの構築や発信に注力することで、有能な求職者を惹きつけようとしています。
倫理的かつ持続可能な採用
とりわけ若い世代の求職者の間では、企業の価値観に対する関心が一段と高まっています。人権の尊重、透明性の確保、そして持続可能な取り組みを重視する倫理的な採用姿勢は、優秀な人材を引き寄せる上で、今や極めて重要な要素となりつつあります。
こうした採用トレンドは、人間性を重視し、スキルに基づいた評価を行うアプローチを反映しており、同時にテクノロジーの進化を取り入れることで、プロセスの効率化と精度向上も実現しています。
採用と人材の定着を妨げる要因とは
採用や人材の定着を妨げる要因は、さまざまな要素によって異なりますが、現在、多くの企業に共通して見られる傾向がいくつかあります。
労働条件:一部の業種では、勤務時間、プレッシャー、肉体労働などが原因で、労働環境が厳しいと見なされ、採用が困難になるケースがあります。
柔軟性の欠如:テレワークの普及に伴い、柔軟な働き方を提供できない企業は、魅力に欠けると見なされることがあります。
競争力のない給与水準:業界の平均よりも低い給与は、優秀な人材を遠ざける要因となります。
成長機会の不足:従業員は、キャリアの発展や継続的な研修の機会を求める傾向が強まっています。成長の可能性がない場合、離職率が高くなる傾向があります。
企業文化の不適合:包括性に欠ける職場環境や、透明性のないマネジメント手法は、従業員のモチベーションを下げる要因となります。
仕事と私生活のバランスの欠如:従業員は、良好なワークライフバランスを求めるようになっています。これを支援しない企業は、人材の定着に苦戦する可能性があります。
企業の価値観と候補者の不一致:若い世代は、企業の価値観(エコロジー、インクルージョン、社会的影響など)を重視しており、それらが自分と一致しない場合、距離を置く傾向があります。
スパ業界における人材採用と育成の最適戦略
Laetitia Vesperini氏は、スパ、タラソテラピー、ホテル・観光業界に特化した人材紹介会社STC Gestionのディレクターであり、「効果的かつ納得度の高い採用」を実現するための重要な視点をいくつか提示しています。
彼女によれば、採用担当者は、候補者との間で想定される条件面や勤務環境に関する制約について、事前にクライアント(採用企業)へ十分な説明を行う責任があります。それを怠ると、採用活動は早い段階で停滞し、非常に困難な状況に陥る可能性が高まると指摘しています。
ニーズの分析
自社のニーズを正確に把握することが非常に重要です。
的確なターゲティング
ポジションの構造を理解することが求められます。求人市場の供給と需要、そしてその背景は変化しており、ポジションの詳細な説明や期待される内容、制約についても適切に調整する必要があります。施設およびその組織に特化した職務記述書(ジョブディスクリプション)を明確に定義することが大切です。また、応募者の期待についても十分に理解することが必要です。
パーソナライズされた人材探し
理想的な人材像を明確に定義することが求められます。“ペルソナ”という概念を活用することで、ターゲットとなる人物像を効果的に絞り込み、企業への参加を促すことが可能です。スパにおいては、必要とされる人物の特性を具体的に示す必要があります。そこには、身体的なスキルのみならず、感情面や性格的な傾向といった内面的資質の記載も不可欠です。こうした視点を欠いてしまうと、現在の採用環境では、適任者とのマッチングが困難になる恐れがあります。
経験の浅い人材の育成
経験が浅いからこその利点もあります。
適応力:若い候補者は柔軟性が高く、学習意欲が旺盛であることが多いです。
革新的な視点:既存の慣習にとらわれず、新しい視点を持ち込むことで、業務の見直しや改善が期待できます。
スキルの開発:意欲と人間性を備えた候補者を採用することで、将来的に優秀な人材へと成長させることが可能です。
応募者を惹きつける戦略
研修と学習機会の提供:スキル不足を補うための育成プログラムを導入することが重要です。
エンプロイヤーブランディングの強化:企業文化や職場環境の魅力を打ち出すことで、企業の価値を高めます。
求人広告の最適化:明確かつ魅力的な求人情報を作成することが、応募率向上に寄与します。
ソーシャルネットワークの活用:オンライン上での存在感を強化し、より幅広い層にリーチします。
これらのアプローチは、効果的な採用だけでなく、やる気のある人材を人手不足の業界に惹きつけるうえでも有効です。もちろん、採用活動は非常に時間を要する業務となるため、時間とコストを最適化するには、専門家による支援を受けることが推奨されます。
Clarisse Trouiller Gerfaux氏に聞く:人材の定着と成長を実現するマネジメント改革
Boost your BのCEOであるClarisse Trouiller Gerfaux氏は、現在の採用の難しさについて、その背景を詳しく説明しています。
Trouiller氏:採用難は全体的な現象ですが、ウェルネス分野では特に深刻です。というのも、スパのチーム運営はホテルのチーム運営とは異なるからです。
もう一つの大きな課題は、スパマネージャーおよびスパプラクティショナーの研修制度です。職業の進化に対して、研修内容が追いついておらず、現在のニーズに合っていない状況です。今は、単なる技術的なスキルを超えた対応が求められています。
チームというものは、エネルギー面でも、財政面でも、時間的観点でも、長期的な投資であるべきです。ですが、この点に関して私たちは、時代遅れのシステムの中にいると言わざるを得ません。私たちは、適切な問いを立てておらず、正しい姿勢を持てていません。したがって、今起こっていることはある意味、当然の結果なのです。
チームの情熱を育む
Trouiller氏:新しい世代にとって、仕事は最優先事項ではありません。私たちは、情熱を持つ人々が集う業界に身を置いているという幸運に恵まれています。そのため、情熱を持つ人々に合わせた対応をし、彼女たちがさらに何に情熱を注げるのかを見極める必要があります。私たちは、彼女たちの情熱と安定を育む努力をしなければなりません。つまり、好循環を築くことが求められます。
それには確かに時間がかかりますし、多くの見直しや内省も伴います。最終的には、チームのメンバーを理解するためのマネージャーの感性にかかっています。
職業の再定義
Trouiller氏:この職業を再定義する必要があります。その際には、技術的なスキルを備えているだけでなく、顧客に対して、そしてスパのチームに対しても、真の意味での感情的な「あり方(savoir-être)」を持った人材を、明確にターゲットとすることが大切です。
自由を与えるということ
Trouiller氏:スパプラクティショナーに欠けているのは、マッサージという技術を、自分の望む形で実践できる「自由」です。何をしているのかを深く理解できる適切なツールと研修があり、さらに、クライアントとつながる時間を確保し、感情を受け止める余裕を持てること。そのうえで、誰かの身体と人生に良い影響を与えるという実感を得られることこそが、この仕事の本当の価値なのです。
そして、もしそのような価値をスパのビジョンに組み込むことができなければ、その時点で道を誤っていると言えるでしょう。もちろん、収益性という観点は不可欠です。だからこそ、双方にとって適切なバランスを見出し、明確な枠組みを設定することが求められます。
成功するマネージャーたちの強みは、状況に応じて柔軟に適応できる能力にあります。すべての人にとって「ちょうどよい」と感じられる基準点を見つけることが、最も重要なのです。
集団の力
Trouiller氏:私は、集団の力を強く信じています。スパマネージャーとして問題を抱えたときは、全員を集めて話を聞き、一緒に解決策を探してきました。だからこそ、スパマネージャーでありながら同時にスパプラクティショナーでもある人材を採用することが理解できません。それはまったく異なる職業であり、両立することはできません。必ずどちらかの役割に支障が出てしまいます。
チームを育てましょう
Trouiller氏:技術やマッサージにとどまらない研修を提案してください。そうすることでチームの定着率が高まり、人生全体の向上についての視野も広がります。そこで得られた新たなスキルは、後にスパのプログラムに組み込むことも可能です。
そして、外部の情熱に関する研修を展開するのも一つの方法です。例えば、料理が好きなスパプラクティショナーに料理教室を提供したり、デジタル領域に興味があるスタッフにデジタルスキルを習得させることで、将来的にスパのデジタルコミュニケーション戦略を強化することも考えられます。
チームメンバーの個人的な情熱の中に、才能を見つけてください。それは「認められている」という実感を生み出し、忠誠心と定着率の向上につながります。得られるものは非常に大きいはずです。
Amandine Laurent氏に聞く:人材が定着するスパ運営と参加型マネジメントの実践
Excillianceグループで3つのスパを統括するAmandine Laurent氏が、自身のマネジメント手法について語ります。
参加型・協働型のマネジメント
Amandine氏:私が選んでいるマネジメント手法は“参加型”です。私は、自分のチームメンバーのニーズ、スキル、そしてやりたいことに常に耳を傾けていますが、同時に自分自身の置かれている状況にも配慮しています。私は3つの施設を統括しており、顧客に対して360度の視点で気を配っていますが、それはスタッフに対しても同様です。私のマネジメントは、協働的であり、協力的なスタイルです。
私たちは毎月、マネージャーと現場スタッフ全員が参加する会議を開催しています。その中で、月ごとの数値を共有し、各メンバーが自分の成功や失敗について発言します。必然的に、業務の進め方について意見が交わされるようになります。そして、全員が解決策を模索するようになります。誰もが発言できる場を持つこと──それが非常に重要なのです。
与え合う関係を重視したマネジメント
Amandine氏:私は、自分のスパプラクティショナーたちが、企業の成長を当事者として実感できるようにしたいと考えています。すべての人が積極的に関わりたいと思うわけではありませんが、それでも関係は「ギブ・アンド・テイク」です。そのうえで、スタッフと企業の間に適切なバランスを見つけることを常に意識しています。
私のマネジメントは、縦型の厳格なヒエラルキーで成り立っているわけではなく、むしろ横断的な関係性の中にあります。各スパプラクティショナーには、個別にカスタマイズされた職務記述書(ジョブディスクリプション)が用意されています。会議では、私たち全員で企業の成長について共に取り組みます。それぞれが関心のあるテーマについて主体的に関わることもできます。
私は3つの施設を運営しており、それぞれの施設に1人ずつ担当者を配置し、たとえば季節限定の施術やシグネチャートリートメントなど、特定のテーマに取り組む時間を持たせています。彼女たちはその成果や考察を共有し合います。作業はスキルに基づいて進められますが、同時に、私自身がその成長を支援するという姿勢も持っています。
私は、スパプラクティショナーたちの職業上のニーズと企業側の課題のちょうどよい接点を探るようにしています。スタッフは、会議や開発プロセスをはじめ、各サービスの企画段階から実施に至るまで、すべてのプロセスに関与しています。彼女たちは企業の成長に大きく貢献しているのです。
一方で、私の進め方に共感できず、自分の居場所が見いだせなくなったスタッフが退職することもあります。しかし、それもまたお互いにとって納得のいく選択であり、双方にとって正しい判断だと思っています。
チームを成長させるという視点
Amandine氏:ひとつの例をご紹介します。現在、私のもとで働いているスパプラクティショナーのひとりが、栄養学の研修を希望しています。彼女は、その専門性を施設に付加価値として取り入れたいと考えています。正式な資格を取得し、「痩身」のスペシャリストとして、私のすべての施設において中心的な存在になることを目指しています。それが彼女自身のパーソナルな成長とキャリアのビジョンなのです。私は彼女が痩身分野のリファレンスとなれるよう伴走し、彼女自身がそのコンセプトをつくり、新たに入社するスパプラクティショナーの育成にもあたれるように支援していきます。
私は社内研修の機会も豊富に用意しており、スタッフはそれぞれの希望に応じて積極的に関わっています。例えば、マッサージの質と精度を高めるためのオーダーメイド型研修を実施しています。また、顧客導線、受付対応、そして痩身メニューについても細部にわたって見直しを行っています。
このように私は自分の施設を運営していきたいと考えています。ここでも「ギブ・アンド・テイク」の精神が重要であり、スタッフ一人ひとりが自分のキャリアを発展させながら、組織としてのバランスをとっていくことが不可欠です。
給与面でも同様の考え方を持っています。私は各施設の全体像を把握したうえで、スタッフが「ここでこそ輝ける」と思えるようなポジションに配置するよう努めています。