競争が激化するなかで、もはや同じようなサービスを提供するだけでは十分ではありません。長期的にお客様のロイヤリティを確保するためには、自分の強みを打ち出し、他と差別化することが求められます。ここでは、売り込まずに売上を生み出し、効果的に差別化するためのコミュニケーションのコツをご紹介します。
専門性を活かした販売がリピート客を育てる
販売研修で受講生と接する際、多くの方がこの「販売」というテーマに対してまだ抵抗を感じていることが伝わってきます。しかし、販売は売上を増やし、サロン経営を安定させるための大きな武器なのです。
とはいえ、販売とは単にお客様のバスケットに商品を詰め込むことではありません。販売は、お客様への的確なアドバイスとともに行うことで、あなたの専門性を高め、大手量販店との差別化を図り、リピートにつなげることができます。
トリートメントメニュー表は、販売促進のための重要なツールです
メニュー表(=施術リスト)は、販売をサポートする非常に有効なツールですが、多くのサロンで軽視されています。
実際、他の施術を提案することも「販売」です。ですから、メニュー表そのものが「お客様に体験したい」と思わせる魅力的な内容であることが重要です。この点を重視し、私は「メニュー表を最適化するための個別コンサルティングプログラム」を特別に設計しました。
多くのメニュー表は、低品質な紙や印刷で作られた簡易なパンフレットにすぎず、まるでレストランのメニューのように見えることがあります。しかし、メニュー表はあなたのサロンのイメージを反映するものです。お客様に見せる際、その印象が来店や施術の選択を左右する大きな要因になります。
メニュー表に盛り込むべき要素
- サロン紹介、あなた自身の紹介、そして「なぜあなたがこの仕事をしているのか」という想い
- 施術メニュー(もちろん)+心を動かす一言の説明文(誤字脱字なしで)
- サロンや施術風景の写真
- 品質基準・理念(チャータ)
追加販売(クロスセル)で客単価を上げる方法
「追加販売」という言葉を耳にすると、多くの方は美容学校の販売実習で習った「購入商品に関連する別の商品を提案する」という形式を思い浮かべるでしょう。しかし、サロンでの追加販売にはさまざまな形があります。
既に予約済みの施術に、補完的なサービスを提案する
お客様がまだ体験していない施術を紹介することで、あなたの技術の幅を伝えることができます。この方法は客単価アップにつながる有効な手段であり、習慣化することで自然に実践できるようになります。
施術時間を延長して提案する
時間を増やすことで、お客様に新たな効果や満足度の違いを体験してもらえます。これは「自分のために時間を取ることの価値」をお客様に再認識してもらうきっかけにもなります。
「ハンズフリー施術」や「マスクの追加」を提案する
たとえば施術中に同時進行でできるケアを加えるなど、小さな提案でも価値を感じてもらえるのです。こうしたオプションは、一見すると「10ユーロ程度の追加」にすぎず、大きな変化ではないように感じるかもしれません。しかし、これを1日5人のお客様に提案して成約すれば、月末には1,000ユーロ以上の追加売上になります。忘れないでください――小さな流れが集まって、大きな川になるのです。
製品提案は美容の専門家にとって最大の強み
サロンでの販売は、単なる会計処理で終わるものではありません。
あなたには「時間」という大きな武器があります。施術の際、あなたはお客様と15分から場合によっては2時間を共有します。商品を勧める前に、お客様と一緒に肌の状態を確認します。しわ、乾燥、くすみ、脚の重さなどの悩みを観察し、なぜそのような状態なのかを分析して伝えます。そして、最適な製品を提案することで問題解決のサポートをします。このプロセスでは、何かを「売った」のではなく、専門的な知見を提供し、お客様に解決策を提示しているのです。その後に提案を採用するかどうかは、お客様自身の自由です。
美容の専門家としてのあなたの役割は、お客様をトータルにサポートすることです。
例えば、脚の脱毛を希望するお客様の足にむくみを見つけた場合、見過ごすことはありませんね。お客様の不快感を和らげたいと思うはずです。そのためにボディケアの提案を行い、さらに長期的な効果を得るためには、自宅でもケアを続けてもらう必要があります。あなたが提案するジェルを塗ることで、リンパの流れが整い、より快適な状態を保つことができます。
販売に前向きになるための大切な考え方
販売に対する心理的な抵抗を手放してください。販売を避けてしまうことで、あなた自身の売上アップの機会を逃しています。これまで述べてきたように、販売とはお客様のバスケットを商品で埋めることではありません。「販売」とは、お客様を支えるためのアドバイスと提案であり、お客様の悩みを改善するための伴走です。それにより、あなたはお客様にとって唯一無二の「美と健康のパートナー」として記憶されるようになります。
発信力で信頼と顧客を育てる時代へ

現代において、情報発信をしていない、あるいは中途半端な発信しかしていない企業は、十分な認知も顧客の定着も得ることができません。競合との差別化を図り、あなたの技術力を広く伝えるためには、さまざまな媒体を活用して新規顧客を引きつけ、既存顧客との関係を強化することが欠かせません。
情報発信のさまざまな手段
現在は多くの発信チャネルが存在します。コーチングの現場でもよく見かけますが、SNSだけに頼るのは非常にもったいないことです。確かにSNSは、画像や動画で技術力を視覚的に伝えやすく、コンテンツを素早く発信できるという利点があります。しかし、情報の流れが速く投稿が埋もれやすいため、狙った層に確実に届かないという弱点もあります。
一方で、あなたのウェブサイトは「静的なショーケース」であってはなりません。新しい情報を掲載したり、記事や特集を更新したりするなど、常に動きを持たせることが大切です。ウェブサイトと「Google My Business」ページの両方を持つことは、オンラインでの存在感を高める上で欠かせません。これらは検索結果での表示順位を向上させ、理想とする顧客層を引き寄せるのに役立ちます。
また、外向けの発信だけでなく、既存顧客への「内部コミュニケーション」も忘れてはいけません。メール配信、電話、施術メニュー表、店内掲示物などを活用し、お客様に常にあなたの最新情報を届けましょう。既存顧客を対象にした施策は、新規集客よりもおよそ5分の1のコストで売上向上につながると言われています。
コミュニケーションは信頼構築と集客の鍵
効果的な情報発信は、既存顧客の信頼を深め、大きな売上を生み出す可能性を持っています。既存顧客はあなたを信頼しています。そのため、新しいキャンペーンや製品情報を発信すれば、自然に受け入れてもらいやすいのです。
新規顧客の獲得は時間もコストもかかるプロセスですが、同様に重要です。顧客の平均的なリピート期間はおよそ5年とされており、その後は転居や生活習慣の変化などにより離脱する可能性があります。だからこそ、地元エリアを超えた認知を得るために、インターネット上での発信を継続することが不可欠です。
SNSでは毎日投稿する必要はありません。1日中時間をかけるよりも、週に2〜3回の定期的な更新が効果的です。また、顧客向けの情報配信は、2週間に1回から月1回程度が理想的です。
専門性を発信するという考え方
情報発信は販売のためだけではなく、あなたの専門知識を伝え、差別化を図る絶好の機会です。ブログを開設して美容や健康に関するアドバイスを発信したり、その記事をメールで顧客に送ったりすることも効果的です。
また、SNSで専門的な知識を紹介する投稿もおすすめです。私の連載「1分で学ぶプロのコツ」を参考に、あなた自身のノウハウを発信してみてはいかがでしょうか。
オリジナルのビジュアルを作成する
ブランド提供の画像や投稿をそのまま共有することは避けましょう。それではブランドの認知を高めることになっても、あなた自身のサロンの印象にはつながりません。自分の手で写真を撮り、商品や施術、結果のビフォーアフター、施術ルームなどを見せることで、あなた自身の世界観と専門性を打ち出すことができます。
画像よりも効果的な動画
画像は強力なツールですが、さらに影響力があるのは動画です。完璧な映像を撮る必要はありません。重要なのは、あなたの施術の様子や雰囲気をお客様に感じてもらうことです。動画は完璧でなくても視線を集め、より多くの関心を引きます。ぜひ積極的に活用してください。
発信を続けることが信頼と存在感をつくる
情報発信の手段は多岐にわたり、それは新規顧客の獲得と既存顧客の維持の双方に大きな力を発揮します。効果的に活用することで、あなたの存在感を高め、信頼を築き、技術力を広く伝えることができます。多くの人にあなたの専門性を届け、「一枚の画像は千の言葉に勝る」という言葉を思い出してください。
専門性と情熱がサロンの未来をつくる
競合が激化するなかで、独立系の美容専門家は自らの違いを明確に打ち出す必要があります。
最大の強みは、確かな技術力と専門資格というプロフェッショナルの証です。その価値を活かして、真摯な顧客体験を提供し、地域で信頼される存在を目指しましょう。アドバイス、提案、顧客との関係構築こそがこの仕事の本質です。自信を持って販売し、対話し、情熱を伝えてください。完璧を求めるよりも、「まず伝える」ことを恐れないでください。
デヴィッド・バーンズの言葉を思い出しましょう。「目指すべきは完璧ではなく、成功である。」自分の仕事に誇りを持ちましょう。あなたの情熱と誠実さこそが仕事に意味を与え、事業を輝かせるのです。
