スパ・ブランドの雄「YON-KA」に聞く、店舗マネジメントの実際
2013.03.7
編集部
星野リゾート「界 箱根」とコラボレーションしたYON-KAの戦略とは?
フランスのプロフェッショナル スキンケア「YON-KA」を展開するヴィセラ ジャパン株式会社。2012年12月28日に、星野リゾートが展開する「界 箱根」とコラボレーションし、旅館内にスパをオープンさせた。温泉旅館とフランスのスパブランドの融合の利点・妙味とは?同社代表取締役 武藤興子氏にお伺いした。
「界」が提唱する、「原点」「刺激」「上質」との共通点
YON-KAは1954年に誕生し、いまや40か国以上で親しまれている、フランス発祥の化粧品・スパブランド。製薬会社のライセンスをもつ自社工場内で作られるプロユースのスキンケア製品には定評がある。フランス国外唯一のブランド直営デイスパサロン「L’ESPACE YON-KA Omotesando(以下、レスパスヨンカ)」も、オープンから今年で8年目を迎えた。YON-KAの技術と和のおもてなしの融合をコンセプトとするスパでは、2011年、12年とスパの専門サイト「スパファインダージャパン」が表彰する「クリスタルアワード ―日本のベストスパ」に選ばれるなど、高い評価を得ている。
「界 箱根」とコラボレーションにあたり武藤氏は、「以前から、温泉旅館とスパ施設というのはとても相性が良く、事業的にも大きな可能性がある、と感じて温泉旅館へアプローチをしていました。しかし、旅館の方からはなかなか理解が得られなかった。昨年夏に星野リゾートにプレゼンテーションをさせていただく機会があり、その時に“面白いね”と言って下さったのが契機となりました」と語る。
星野リゾートは経営不振に陥ったホテル、リゾート施設を再生、その物件の立地や条件に合わせて「星のや」「リゾナーレ」などといった複数のブランドを展開してきた。「界」ブランドのコンセプトとしているのは「原点」「刺激」「上質」だ。
一方でYON-KAは、フランスのスパブランドであるが「再生」「調和」を意味する言葉を名前に冠しており、スパは心と身体のバランスを整え「調和」させ、心身の「再生」を行う場所として、その重要性に半世紀以上前から着目してきた。「YON」と「KA」はまさに東洋思想の“陰陽”の関係にあり、その思想が製品・施術開発にも反映された、東洋・西洋を越えた普遍性のあるブランドである。治療を目的とした製品の開発がブランドの原点であるため、星野リゾートが提唱する“進化した湯治の文化”と通じるものがあると武藤氏。さらにその日の顧客の状態に合わせてトリートメントをカスタマイズするため、施術の度に新たな体験となることや、ブランドの希少価値が高いため顧客にとっては新しい出会いとなり、訪れる方すべての五感に新鮮な「刺激」を与えられること。そして、半世紀以上にわたって受け継がれてきた技術や調合方法による高品質な製品を扱い、1回目のスパ体験から違いを実感できる高いクオリティを維持していることなどが「本質」を追求する界ブランドのコンセプトに合致すると武藤氏は言い、賛同を得たことからオープンに至ったそうだ。
立地特性と泉質に合わせた箱根限定メニューを開発
出店にあたっては、木々に囲まれた箱根という立地特性を活かし、シダーウッドやブナ、サイプレスなどの精油をブレンド、森林の香りに包まれながら深いリラックス効果を得られるトリートメント「木香湯治」(120分・26,250円)および、箱根湯本温泉の泉質に合わせた「和泉香草」(トータルコース120分・31,500円)を開発、箱根のみのメニューとして提供している。
「限定メニューは“ここでしかできない体験”をお客様に感じていただきたいと考案しました。また、弱アルカリ性の箱根の泉質は入浴するだけで肌の角質を剥離する効果があります。そこに通常のクレンジングをしてしまうと、肌には刺激が強すぎる。泉質に合致し、温泉との相乗効果をもたらすメニューの開発は、温泉付帯のスパに求められる重要な条件でしょう」と武藤氏は言う。
開業から約2か月、現在は2万円~3万円台のメニューが中心で、客単価も高めに推移しているという。集客状況も「ほぼ想定通り」(武藤氏)といい、手応えも感じているようだ。特に夫婦やカップルを中心とした2名での利用が多く、これを機に男性にもスパの良さを知ってもらいたいという。
スパは初めてという顧客向けに「レッグトリートメント」(30分円6,930円)も設けたが、意外なことにあまりにニーズはないという。もちろんリゾートスパという立地もあるだろう。しかし表参道のレスパスヨンカでも、クーポンサイトなどで特別価格にてメニューを提供してもあまり集客に変化がないそうだ。
「クーポンを使って賢くお店を選ぶ方も増えているでしょう。しかしYON-KAでは常にレベルの高いトリートメントを提供していますので、“高くても通いたい”というお客様が多く、結果的に客単価が落ちないのだと感じています」(武藤氏)と、高い信頼性が寄せられブランドが確立されていることがわかる。
「おもてなし基準」と行動指針を設定した独自の研修プログラム
その理由には徹底したスタッフ研修があるようだ。
トリートメントを提供するための技術や知識の研修はもちろんのこと、どういうマインドをもって施術を行うかという「おもてなし基準」と、ヴィセラ ジャパンの“ミッション・ビジョン”を確認し具現化するための行動指針(プロフェッショナリズム)を設け、スタッフ全員で共有できるよう徹底。また“For me研修”と呼ばれる、スタッフ自身の人間的成長を目指す研修も行っている。課題図書を出したり、問題解決能力を高めるという内容も含まれるそうだ。すぐに実務に活かされるものではないが、長期的なスパンで考えると意義があると判断した内容は実行しているという。その裏には武藤氏の苦い経験がある。
「レスパスヨンカを始めた当初からスパ運営がスムーズにできたわけではありません。ある時お客様に、“製品は良いのに、サービスが……”と言われたことがあり、これがとてもショックだったのです。絶対にスパでのホスピタリティ レベルを上げようと研修に全力を注いだのが奏功したのか、リピートのお客様が増え、「クリスタルアワード」をいただけるまでに成長したのだと思います」と武藤氏。その武藤氏も、同賞のスパ・マネジメントの部門で表彰を受けている。
レスパスヨンカは今年で8年目を迎える。デイスパという事業的にハードルの高い業態を、表参道という激戦区において継続させてきた理由は、高い店販比率にもあるという。「一般的に、サロン業務における売上と物販売上の割合が同じであるのが理想といわれていますが、これは真実だと思います。健全的な経営を持続するためには、物販の売上を高いレベルで安定させる必要があると思います」と武藤氏は言う。
ビューティ、リラクセーションを問わず求められるのは“一回で実感できる効果”
YON-KAのスパでは、コンセプトのひとつとして“癒しにとどまらない確かな効果”を挙げている。「“ああ気持ちよかった”だけではない、確かな効果をお客様自身が実感できるようなトリートメントを心がけています。肌の変化や身体の変化を、一回のトリートメントでお客様がわかることが重要です。そうではないと、お客様の2度目の来店は期待できないでしょう」(武藤氏)。
定期的にトリートメントを受けられないという顧客も多い。金銭的な理由はもちろん、小さな子どもがいるために家を空けられない、家から距離があるなど、顧客の環境はさまざまだ。だからこそ、ビューティ、リラクセーションの分野を問わず、顧客に効果を実感してもらうことが大事だという。それはつまり、効果の追求だけでも難しい。「すごく効くけれどとっても痛い、あまり気持ちがよくないという施術では、やはりお客様は寛げないでしょう。このバランスをどうとるか、オーナーの“こういうサロンにしたい”というビジョンが問われるところです」
レスパスヨンカで提唱しているのは“お客様にとってのかかりつけスパ”だ。3週間に1回ぐらいの頻度で通ってもらい、肌や身体の状態をキープ、改善できるようにするという。インターネットを通していくらでも情報が手に入る時代。訪れる顧客の知識も相当に高いからこそ、プロフェッショナルだけが提供できる知識やアドバイスにも力を入れていかなければならないと武藤氏は言う。
一時期はブームのように、スパを導入するリゾート、宿泊施設が相次いだ。しかし、現在でも確実に集客できているスパはどの程度あるだろうか。
今後は旅館・ホテルだけではなく、医療や介護分野との提携も視野に入れているというヴィセラ ジャパン。その事業展開が楽しみだ。
同社代表取締役 武藤興子氏
- 参考リンク
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ヴィセラ ジャパン株式会社
(TEL:03-6447-1187)