連載・異業種から化粧品分野に新規参入した上場各社の化粧品事業に迫る【11】セーレン、絹たんぱく質セリシン細胞凍結保存液に応用(下)
2015.01.23
編集部
セーレンは、繭から抽出した天然たんぱく質セリシンの力にいち早く着目し、肌や健康に対する新しい機能性を次々と発見・解明してきた。すでに、その機能性を最大限に活用して化粧品・食品事業を展開。ここへきて絹たんぱく質セリシンを利用した幹細胞(ES)やIPS 細胞などの凍結保存液を福井大学と共同で開発し、販売に乗り出すなど再生医療分野への応用展開を図っている。
再生医療実用化のための基盤技術である細胞冷凍保存は、一般的に牛の血清や凍結保護剤の「ジメチルスルホキシド」(DMSO)が用いられている。しかし、牛血清は品質にばらつきがあり感染症の危険性も指摘されるとともに、DMSOは細胞機能への悪影響が懸念されるなど新たな保存液の開発が求められていた。
同社と福井大との共同研究グループは、親水性の高いアミノ酸で構成されるセリシンが持っている凍結、解凍に伴う細胞の脱水を防ぐ効果を利用しマウスのES細胞の冷凍による劣化を抑える保存液の開発に成功した。解凍後のES細胞の生存率が9割を超え、従来の保存液と比較した場合、約40%向上することも実証した。また、IPS 細胞を保存する際、従来の細胞凍結保存液には、秒単位の迅速な操作が要求され、熟練者でなければ結果が安定しないといった技術的な問題があった。
そこで共同研究グループは「セリシン」の細胞を安定化させる効果を活かし、作業者の技能によらず安定的に幹細胞を保存できる凍結保存液を開発した。冷凍保存したIPS細胞は、解凍すると水分が流出して死滅する。開発した新凍結保存液は、解凍後も死滅を防ぐ特徴を持つ。
凍結保存液は、セリシンを含むガラス化法用で、保存液を加えてから凍結までに許容される時間が従来の15秒程度から60秒まで延長可能になった点が大きな強み。
本品の性能についてIPS細胞を用いて凍結保存性能評価も行った結果、凍結操作時間 60秒でのコロニー数は672。これに対して従来品のDAP213のコロニー数が37と良好な生存率を示すことを実証した。エビデンス(図)に従来品(上)と開発品(下)の細胞生存率の状態を示す。
現在、IPS細胞は、難病の研究や移植治療を目的に、細胞バンクの整備が進展し、保存技術の重要性が焦眉の急となっている。同社では「IPS細胞のこれまでの保存方法に代わるガラス化法用技術として業界に広く利用が期待される」として、医療機関向けなどに販売を始めている。繭から生み出したセリシンのオンリーワン技術を活用した医療事業の創出に期待が膨らむ。