【連載】医薬・創薬企業の化粧品事業⑯ナノキャリア(上) ~ミセル化ナノ粒子技術で新薬・化粧品等開発~

2017.07.20

特集

編集部

創薬ベンチャーが新薬開発の基盤技術を使って高機能化粧品を開発した1つのモデルとして注目されているのがナノキャリア株式会社(千葉県柏市、社長 中富一郎氏)による化粧品開発だ。
同社は、東京大学や東京女子医科大学の教授らが研究していたナノテクノロジーを利用したミセル化ナノ粒子(写真)を医薬品開発に応用・実用化することを目的として設立(1996年6月)した創薬ベンチャー。
現在、同社の筆頭株主は、信越化学株式会社(東京都千代田区)となっている。2012年 10月にナノキャリアが実施した第三者割当増資を信越化学が引き受け(取得株式数1万2000株、調達資金約6億8967万円)た。と同時に、ウィズ・パートナーズが無限責任組合員として組成する2つの投資事業有限責任組合が保有する新株予約権の一部を行使して取得した株式1万2000株も信越化学が取得した。
新株予約権の行使において3億6000万円が払い込まれたと見られ、ナノキャリアの調達額は、総額10億4900万円にのぼる見込み。
この第3者割当増資と新株予約権の行使で信越化学は、総数2万4000株の株式を取得し、ナノキャリア株の9.22%を保有する筆頭株主となっている。ナノキャリアは、調達した資金をすべて研究開発費用に充当した。

ところで 同社のコア技術「ミセル化ナノ粒子」は、生体適合性のポリエチレングリコール(親水性)とポリアミノ酸(疎水性)を分子レベルで結合させたブロックコポリマーが水中で拡散することによって、外側が親水性ポリマー、内側が疎水性ポリマーという二層構造を有する直径数十ナノメートルの高分子ミセル(以下、ミセル化ナノ粒子)を形成する。
このミセル化ナノ粒子を医薬品に応用して静脈内投与した場合、血中に薬物が長時間滞留し、徐々にがん組織等の病変部へ集積する(EPR効果)ことで、治療効果が持続することを東京大学、東京女子医科大学の研究グループが証明した。

ミセル化ナノ粒子技術を応用した医薬品には
①薬物を血中に長時間滞留させ、効果を持続させることによる治療効果の増大
②より多くの薬剤をがん細胞に直接届けるため、正常組織へのダメージが少なく副作用を軽減できる
③利便性の改善や患者さんのQOL(生活の質)の向上
④医療費の削減 等が期待されている。

ミセル化ナノ粒子(高分子ミセル=写真)は、水に溶けやすい性質を示すポリエチレングリコール(PEG)からなる親水性ポリマーと水に溶けにくい性質を示すポリアミノ酸からなる疎水性ポリマーを分子レベルで結合させたブロックコポリマー(共重合体)から構成される。ブロックコポリマーを水中で拡散すると、外側が親水性ポリマーで内側が疎水性ポリマーという明確な二層構造を有する20~100ナノメートルサイズの球状の集合体であるミセルを形成。このミセルの疎水性内核部分に薬物や生理活性物質を封入し薬物伝送伝搬「ドラッグデリバリーシステム」(DDS)技術により、体内へ投与することによって病変部位への薬物送達効率を高めるとともに、薬物の徐放制御により、従来の製剤では成しえなかった「副作用の軽減」と「薬効の増大」を実現した。

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