CSR(企業の社会的責任)は、大企業だけのものではありません。ビューティーサロンで責任ある取り組みを導入することは、収益の向上と心身の健康、そして社会への貢献を同時に実現する道です。例えば、働きやすい職場づくりや仕入先の選び方、ゴミの分別・削減といった日々の工夫が、その第一歩となります。 シンプルな行動が違いを生み、あなたのサロンの価値を高めるのです。
執筆:Stéphanie Mauro Gers
美容サロン経営におけるCSRの基本概念と重要性
Stéphanie Mauro Gers氏(コンサルティング会社「Sixième Sens」の創設者、フランスの起業支援団体「Initiative Essonne」でのコーチング担当)
まず、経営者として、責任ある取り組みをサロンの成長戦略に組み込むことが求められます。つまり、人や社会、環境(すなわち生命全体)への配慮をしながら、収益性を追求するということです。利益を上げつつも、それを持続可能で責任ある方法で実現し、社会や環境に対して前向きな影響をもたらす―それがCSRの考え方です。
なぜビューティーサロンがCSRに取り組むべきなのか?
私は、美容・コスメ・ウェルネス業界に携わる経営者の皆さんが、とても重要な役割を担っていると確信しています。というのも、今の時代、消費者や従業員、投資家、仕入先、パートナーなど、あらゆるステークホルダーが企業に対して持つ期待は急速に変化しています。また、環境災害が増える中で、企業が持続可能かつ責任ある形で発展していくためにはCSRの導入が不可欠だからです。むしろ今こそ、CSRのような責任ある経営姿勢を取り入れることで、企業は競争力、革新性、そして経済的な成果を高めることができるのです。確かに、「CSR」という言葉には「大企業向け」「難しそう」というイメージがあるかもしれません。しかし、その本質にある価値観―オープンな姿勢、相手を尊重する心、透明性、先見的な行動―は、小規模な事業者にとっても非常に魅力的です。ビューティーサロンの経営者であれば、きっと共感できる考え方だと思います。
CSR実践を支える7つの基本柱
1. スタッフと労働環境
責任あるサロンは、働くチームのウェルビーイング(心身の健康)を大切にします。そのためには、作業環境の工夫や、動きやすい導線の確保、適切な休憩、肌や手を守るための手袋やマスクといった衛生用具の整備といった快適な環境づくりが欠かせません。さらに、継続的な研修や仕事とプライベートの両立支援、積立制度や医療保険制度などを取り入れた魅力ある人事方針によって、スタッフの定着とモチベーションの向上を図ります。
2. 人権の尊重
責任ある企業であるためには、取引先が倫理的な価値観を守っているかどうかにも目を向ける必要があります。つまり、機器の製造、化粧品の生産、原料の採取などの過程で、取引先の従業員が対して適正で人間らしい労働環境が確保されているパートナーを選ぶことが求められます。
3. 消費者と顧客
責任あるサロンは、透明性を重視します。明確な価格表示、商品の品質やトレーサビリティ(生産・流通履歴)、そして衛生と安全の徹底管理が基本です。また、顧客の期待に応えるために、ニーズに合ったサービスの提供や設備の定期的なメンテナンスを通じて、安心でプロフェッショナルなおもてなしを実現します。
4. 倫理と誠実な経営姿勢
法令を遵守し、誠実な商習慣を実践することは、責任ある経営の基本です。これは、不正労働や脱税などの違法行為を排除する姿勢を含みます。誠実さを貫くことは、サロンの信頼性と持続可能性を高める力になります。
5. 地域とのつながりとコミュニティへの貢献
責任あるサロンは、単に営業活動を行うだけではなく、地域社会との関わりも大切にします。インターンの受け入れや地域イベントへの参加、近隣の商店やウェルネス分野の専門家(コーチ、皮膚科医、ホテルなど)との連携など、地域とのつながりを深めることで、サロンのイメージやネットワークも広がります。
6. 環境への配慮
環境負荷を抑えることは、今日の大きな課題の一つです。在庫や廃棄物の適切な管理、水や電力の消費削減、環境配慮型の認証を受けた製品や、サステナビリティに取り組む仕入先の選定などが、より持続可能なサロンづくりにつながります。
7. 責任ある経営体制
責任ある視点でサロンを運営するには、自らの取り組みを定期的に見直し、マイナスの影響を最小限に抑えつつ、プラスの効果を最大化する戦略を取ることが大切です。また、その過程でスタッフに対しても透明性をもって情報を共有し、取り組みに積極的に参加してもらうことで、チーム全体としての責任ある経営が実現します。
差別化戦略としてのCSR
こうした背景から、CSRはビューティーサロンにとって明確な差別化の軸であり、事業発展のチャンスでもあります。人とのつながりを生み出し、スタッフや顧客の主体的な関与を自然に促してくれるのです。これは、スタッフと顧客のエンゲージメントこそが、中小企業にとって収益性と持続可能性のカギであることを考えると、大きな強みといえるでしょう。
さらに、2019年にフランスでは「PACTE法(企業の成長と変革のための行動計画)」が施行され、企業の責任は法的に明文化されました。 今こそ目を開き、急速に変化する社会の流れを正しく見つめるときです。
CSRへの取り組みに伴走するサポート体制
すでに多くの企業がCSRに関する取り組みを進めていますが、まだ多くの企業は、必要な知識や基準、具体的な進め方(ステップ、ツール、手段、注意点など)を学びながら、責任ある持続可能な企業へと進化するための伴走支援を必要としています。
Groupe Rocherに学ぶCSRとミッション企業の取り組み
このテーマは、小規模事業者にとってはまだ比較的新しい取り組みかもしれませんが、Groupe Rocher(Yves Rocher、 Dr Pierre Ricaud)は、2019年に「ミッション企業」となったことで知られています。この用語はPACTE法(フランスの「企業の成長と変革のための行動計画」)で定義されています。
「ミッション企業」の目的は、単に株主の利益を追求するだけでなく、より広い公益的目標の達成と調和させることにあります。つまり、企業の目的を単なる利益の分配や利潤の追求に限定せず、社会的・環境的な目標を掲げて公共の利益にも貢献することを意味します。
具体的な取り組みとしては、以下のような例があります。
- 森林再生活動への参加
- 調達の段階で地産地消を意識した選択を行う。
- 顧客に対し、製品の再利用やリサイクルを促す
- ワークライフバランスに配慮した職場環境の整備
小さな予算で始めるためのアクションアイデア集
- スタッフ全員がエコな行動に取り組むことを明記した「エコ責任チャーター」を作成する(例:ゴミの分別、水や電気の使用量を抑える、紙の印刷を控える など)
- 蛇口に節水用のアダプターを設置する、コンセントにタイマー機能付きの節電タップを使う
- 店内に掲示をして、来店客に環境への意識を高めてもらう
- フェアトレードで仕入れたハーブティーや紅茶を提供する
- 使い捨てではなく、できる限り洗って再利用できるアイテムを使用する
- チームメンバーに週1回の「グリーンランチ」(魚や肉を使わない食事)を提案することで、環境と健康の両方に配慮する
- カーシェアや乗り合いを促す
- パソコンの設定を、長時間使わないときに自動的にスリープモードになるように調整する
- 移動を減らすために、ビデオ会議を活用する(例:採用面接の初回、研修、仕入先との打ち合わせ など)
- 環境配慮型の検索エンジンに切り替える(例:Ecosia、Lilo、OceanHero など)
持続可能なチーム作りに向けたアクションアイディア集
- 参加型マネジメントを導入する:できる限り業務を任せ、チームを意思決定や運営に巻き込む、あらかじめ決めたルールの中で自主性を持たせ、支援とガイドを両立させる
- スタッフの希望やサロンの方向性に合った継続的な研修プランを立てる
- 誕生日や記念日などを一緒に祝う
- サロン内外で社会貢献活動デー(環境の日、ピンクリボン月間など)を開催する
私は現在、小規模事業者や中小企業に向けて、CSR戦略の導入に関するコーチングやサポートを行っています。2024年にはCSRとサステナビリティ・マネジメントに関する複数の研修を受講し、この分野について自信を持って取り組んでいます。
限られた予算で始める美容サロンのCSR導入ステップ
限られた予算でも、サロンでCSRを取り入れたいと考える美容従事者が最初にできることは?
まずは、CSRをサロンに取り入れることの意義やメリットについて情報を集め、学ぶことが大切です。そのうえで、専門的なサポートを受けながら、責任ある姿勢と収益性の両立を目指すCSRの取り組みを、段階的に構築していくことが理想的です。
一歩を踏み出すか迷っている美容従事者の皆さんへメッセージ
ぜひ革新的で、時代の一歩先を行く存在になってください。CSRの考え方をサロンに取り入れることは、「ケアする」というあなたの仕事の意味を、さらに深めてくれます。お客様に対するケアを超えて、人、社会、そして環境全体を大切にすることにつながるのです。
CSRに取り組むことで、あなたの事業に新たな意味が生まれます。サロンのイメージや採用力が向上し、スタッフのモチベーションも高まるでしょう。さらに、コスト削減や将来の法規制にも柔軟に対応できる体制づくりにもつながり、イノベーションの可能性も広がります。責任ある経営と収益性の両立を目指しながら、持続可能な未来への一歩を踏み出すことができるのです。