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スパ業界におけるジェンダーバランス ― 男性施術者の現場から見た課題と希望

このテーマはこれまでにも何度か取り上げられてきました。ここでは、私自身の経験をもとに、しばしば感じる逆風に対して前向きな視点からお話ししたいと思います。男性が女性の世界に足を踏み入れているような感覚を抱くことがあるからです。

まず初めに、私がこれまで働いてきたすべての場所に感謝の気持ちを伝えたいと思います。どの経験にも喜びと困難の両面があり、それが私の成長の原動力となりました。恨みは一切なく、むしろ得られた学びを糧にしています。現在もチームとともに働く中で、日々学び続けています。

ここでお伝えするのは、男性として感じた課題を思い出しながらまとめたもので、決して不満を述べるものではありません。同じような経験をした方々に共感していただけるのではないかと思いますし、この業界に携わる皆さまにとって、男女平等の実現に向けた一助となればと心から願っています。

執筆:David Rousvoal
(パリで理学療法士のもとに学んだマッサージセラピスト。高級ホテルやタラソ施設での経験を活かし、エネルギー療法と独自のシグネチャートリートメント開発に取り組む。)

男性セラピストの原点 ― スパ業界を志したきっかけ

私は思春期のころから人に触れること、マッサージやエネルギーワークのようなことを自然に行っていましたが、それが職業になるとは当時思いもよりませんでした。

2000年、パリのスポーツクラブでリラクゼーションマッサージを始めたことがきっかけでした。そこで理学療法士でもあったトレーナーと出会い、ハマムでのマッサージ、スクラブ、カンフル入りアルコールマッサージなどを教わりました。

その後、ビジネスマン向けのプライベートサロンでマッサージ師として勤務し、同時にパリ市内のホテルでフリーランスとしても活動しました。

スパ業界の採用格差と偏見 ― 男性セラピストが見た偏見と公正の模索

ホテルスパではすべてが厳密に規定されています。ホテル経営陣が、男性施術者の採用を認めるかどうかを決定します。

忘れられない面接

ベル=イル=アン=メール島の美しいホテルで面接を受けたときのことを今でも覚えています。当時の女性支配人は、男性施術者に関するトラブルの経験を語ってくれました。彼女の話は曖昧で、施術マニュアル外での行動や上下関係に関する問題に触れていましたが、詳細は語られませんでした。

さらに彼女は、「島の生活は都会の人間には向かない」と話し、面接が進むにつれて、それが男性に対する先入観ではないかと感じるようになりました。結局、その面接は徒労に終わったことを悟りました。

私の履歴書に目を留めたのは、以前の勤務先で有名ブランドのボディおよびフェイシャルケアの資格を取得していたからでした。面接自体は丁寧に行われましたが、そのとき初めて「スパにおける男性」という存在が問題視されることを知りました。それまで私は、女性施術者と男性施術者が一人ずつという小規模なサロンでしか働いたことがなかったのです。

卓越したホテルでの平等な取り組み

一方で、男女の施術者が公平に働ける場も存在します。ドーヴィルのタラソテラピー施設はその好例です。

この施設は、性別に関わらずすべての従業員の働きを評価するという理念のもと、革新的な取り組みを行っています。ここでは男女の施術者が同数配置され、管理職も明確な方針を持っています。性別を理由に才能を見逃すことを拒み、スタッフを等しく励ます姿勢は、私のこれまでの経験の中でも群を抜いて印象的でした。

スパ・インテグラティフでの経験 ― 順調な滑り出しからの変化

私は経験豊富なマッサージセラピストとして、非常に先進的で革新的な「スパ・インテグラティフ」のコンセプトに基づく施設に採用されました。これほど刺激的でやりがいのある環境は初めてでした。

当時、セラピストは二十名ほどおり、そのうち男性は三名。二人はフリーランスで、正社員は私だけでした。植物療法と自然療法の知識を活かし、非公式ながら主担当セラピストとしての立場にありました。

十か月の間、すべてが順調に進んでいましたが、ある日突然、思いがけない人事が告げられました。ホテル側とプロジェクト責任者が新たに中医学を専門とする優秀な女性セラピストを採用し、私はその下のポジションに下げられたのです。

彼女は非常に穏やかで学ぶ点が多く、尊敬すべき人物でした。しかしその一方で、上司からは何の説明もなく、男性である私に対する微妙な違和感が漂い始めました。どうやら、私の接客スタイルが「男性的すぎる」「直接的すぎる」と受け止められたようでした。高所得層の顧客との契約をまとめる役割には、女性の方が適していると判断されたのです。

新しい任務 ― シグネチャートリートメントの開発

私の落胆を感じ取った上司は、気持ちを立て直させるために、新しい企画を任せてくれました。それはホテルグループ全体の「ボディケア・シグネチャートリートメント」を開発するという大規模なプロジェクトで、完成までに八か月を要する挑戦でした。

副責任者からは「独自性を出すため、自由に発想してよい」との言葉をもらいました。しかし、時間が経つにつれ、私は同僚の女性セラピストたちが提案した施術動作にあまり共感していないことに気づきました。

私は施術の手順や流れの多さ、あるいは過剰ななめらかさがかえって重く感じられる点を指摘しました。彼女たちの反応を、単なる変化への抵抗だと当初は思っていました。

ところが、最終的にプロジェクト責任者から、「あなたが前に出すぎている」と指摘され、この施術はグループ全体を象徴する「特別なケア」ではなく、あくまで標準的なプロトコルにとどめるよう求められたのです。これは私にとって新たな壁でした。

トレーニングの現場へ

その後、私は全店舗へのトレーニング担当から外されましたが、上司の後押しもあり、アルザス地方とノルマンディーのリゾートスパで限定的にシグネチャートリートメントの指導を行いました。

結果は好評で、革新性のある内容が評価され、顧客からの反応も素晴らしいものでした。

信頼される男性セラピストになるための工夫と努力

「男性施術者=問題」という現実

少し後になって、上司から「男性セラピストを予約時に案内するのが難しい」と打ち明けられました。施術担当が男性だと伝えるだけで、男女問わず抵抗を示すケースがあるのです。宗教的・文化的な背景、社会的な固定観念、あるいは男性=同性愛的という偏見が影響していることもあります。

予約担当者が「男性ですが大丈夫ですか」と確認する行為自体が、「男性=問題」という印象を与えてしまうこともあります。このような構造的な問題の根底には、職業そのものが性的に誤解されがちな現実があります。

男性セラピストの信頼を築くために

ある支配人から「男性セラピストの信頼を高めるために、Tripadvisorに口コミを集めてはどうか」と提案を受けました。以後、予約時に「男性が担当」と伝える際は、技術力を中心に説明するよう工夫しました。

そして、同僚や上司の支えのもと、自分を過度に完璧に見せようとする鎧を脱ぎ、「女性の中の男性」という立場を自然に受け入れられるようになるまで、数年を要しました。私は被害者意識を持つことなく、この性別の壁を乗り越える努力が必要だと理解しています。

現在もカルヴァドス地方で勤務先を探していますが、スパでは約八割の施設から断られています。受付担当者が、男性セラピストを中立的に案内するための教育を受けていないことが、依然として大きな課題です。

施術時の立ち居振る舞い ― プロとしての心得

幸運にも、私は男女両方の優れた指導者に恵まれ、施術中に顧客の空間を尊重するための重要な心得を学びました。

  • 呼吸を静かに整え、顧客に直接的な息づかいを感じさせないようにする
  • 包み込むような手技であっても、決して侵入的にならないよう注意する
  • 余計な会話を控え、顧客が求めた場合のみ簡潔に応じる
  • 医療的情報を求めず、顧客が自ら話したときのみ丁寧に受け止める
  • 音楽や照明のボリューム、施術台の温度、タオルの掛け方に細心の配慮を払う
  • デリケートゾーン付近の施術は、顧客の明確な同意がある場合を除き避ける
  • 退出時や再入室時には、必ず声をかけて許可を得てから入る
  • 予約時に「男性でもよろしいですか」と尋ねるのではなく、担当者の名前だけを伝える

これらの細かな配慮が、男性施術者への信頼を高める鍵になります。

スパ業界の未来と多様性 ― プロが語る持続可能な働き方

男性施術者への助言

他人の偏見や無理解によって落胆してはいけません。あなたの価値は他人の判断ではなく、あなた自身が築いてきた技術と誠実さにあります。

また、同僚がデュオ施術の際に「男性と女性、どちらがよいですか」と尋ねるのを見かけたら、それは誤解を生む行為だと伝えるべきです。顧客が特に希望を述べない限り、性別を話題にする必要はありません。

男性施術者の皆さんにはこう伝えたいと思います。
「無条件の愛を放ち、最高の技術と真心をもってお客様に尽くすこと。それこそがあなたの価値です。」

スパマネージャーへの提言

マネージャーの皆さまには、性別に左右されない確固たる姿勢を持ってほしいと思います。男性セラピストが偏見を受ける場合には、その実力と経験を示して信頼を築く手助けをしてください。予約時に問題が生じないよう、受付スタッフにも適切な説明方法を教育することが重要です。

マネージャーは、揺るがぬ存在としてチームを支える礎であってほしいのです。男性が女性以上に努力しなければならない現状は、残念ながら今も変わっていません。しかし、時間とともに意識は変わるはずです。

最後に、この文章を書くきっかけをくれた多くの男性同業者、そして性別の問題に理解を示してくれた女性の皆さまに、心から感謝を申し上げます。

Inner Beauty Award 2025 ―受賞商品発表―

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スパデボーテ国際版

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編集部(フランス)

SPA DE BEAUTE編集部(パリ)…フランスのLes Nouvelles Esthétiques社が2016年に創刊したSPA向けの専門月刊誌です。スパの経営者や施設関係者を対象とし、世界のリゾート、ホテルスパ、ディスティニースパなどを特集。本誌は20数か国でライセンス供給されており、スパ業界で最も信頼されているメディアの一つとして高く評価されています。

  1. スパ業界におけるジェンダーバランス ― 男性施術者の現場から見た課題と希望

  2. ホリスティックケアがもたらす新しい美容価値と顧客体験の進化

  3. 地域連携で進化するウェルネスビジネス

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