
執筆:Anne-Charlotte LALLEMENT(Profil Spa共同創業者、コンサルタント、講師、マネジメント専門家)
多くの施設は季節変動の影響を大きく受けており、年間12か月のうち実際に収益が立つのは平均5か月程度にとどまります。閑散期が近づくたびに不安が募り、割引キャンペーンを打ち出すことが習慣化している施設も見られます。しかし、既存メニューの価値を損なうことなく収益性の低下を補う方法は他にもあります。
一般的に、売上の純増は夏にピークを迎え、9月を境に急激に落ち込むケースが多く、このアップダウンは経営者にとって悩ましいものです。この状況を補おうと、SNSでは大幅値下げを前面に出した大型パッケージや、まるで最終セールのような強引なプロモーションがあふれています。
活動が鈍る時期に、他施設と同じように魅力的な特別オファーを出しても埋もれてしまいます。その結果、一度きりの利用客や予約しても来店しない層を集めるリスクが高まります。なぜかというと、彼らは「最も割引率の高いところ」に流れる傾向が強く、そもそも本来のターゲットではないからです。
既存メニューの料金を下げることは、提供価値の認識を歪める原因にもなります。例えば、一度50ユーロで提供し、その際にサービス品質も十分に高かった場合、通常期はなぜ100ユーロなのかという疑問が生まれます。
また、料金を下げるということは、運営コスト・人件費・施術に必要な実費を考慮すると粗利が縮小することを意味します。プロモーションは、表面上成果が出ているように見えても、実際には負担の大きい「効果の薄い一手」になりがちです。
では、閑散期を最適化し、既存メニューを活性化させるために、どのように本質的なアクションを構築すればよいのでしょうか。既存メニューの価値を下げずに売上を生み出すには、期間限定の特別施策が最も有効といえます。
ターゲットに響く施策を作るための実践的プロセス

収益改善に不可欠なデータとリソースの整理
- まず、売上が落ち込み始める時期とその期間を正確に把握します。
- 週末や学校休暇は最も客足が増え収益性も高いため、分析対象に含めないようにします。この期間は顧客が初期価格のままであっても条件なく利用してくれます。
- 過去2年間の企画やイベントの結果を整理し、顧客の購買行動の傾向や変化、成果につながった要因を把握します。再活用できる施策が見つかることもあります。
- 人材、設備、消耗品など、現状のリソースを棚卸しします。
- 年間を通じて実施する施策のための専用予算を設定します。これにより、必要となる費用と期待される利益を事前に見積もることができ、売上を段階的かつ安定的に確保するための基盤が整います。
この最初の分析作業は、行動計画の作成を始める上で欠かせない工程です。全体方針の軸となるものであり、実現可能な売上目標を設定するために役立ちます。
収益につながる施策設計の基本ステップ
どのような内容の提供を検討する場合でも、売上目標を明確にし、緻密な準備が必要になります。そのためには、導入から成果までを見渡せる管理表を作成し、全体像を把握すると良いでしょう。
誰に届けるのか
今回の提供内容はどの層を狙うのかを明確にします。地域の外部顧客、ホテル内の利用者、リピーターなど、対象を具体的に絞り込みます。さらに、年齢、性別、社会的背景、利用傾向など、提供内容との相性を基準に顧客像を設定します。
アドバイス:対象が広すぎると結果的に誰にも響かないことを忘れないでください。
なぜ実施するのか
この施策は顧客のどのような明確なニーズに応えるのか、そして行動計画のどの目標に紐づいているのかを確認します。
アドバイス:季節性に合わせて考えることが、顧客の購買行動を理解する上で最も効果的です。時間がない、出費を控えているなど、季節によって特徴があります。例えば、年末年始の後はデトックス、春は引き締め、夏には脚の軽さを求めるニーズなどが挙げられます。新しいことを追求しがちですが、時にはシンプルな施策の方が印象に残り、成果につながることが多いものです。
何を実施するのか
施策の内容を定義し、どのように運用し、どのような形で実際に提供するのか、その流れを整理します。
アドバイス:施策の実施手順を詳細にまとめた技術シートを作成しましょう。各工程の流れと所要時間を明確にしておくことが大切です。例えば、ボディケア商品の販売促進のために感覚体験のコースを導入する場合、準備時間や必要な備品、体験のステップ、最終的な販売トークまでを定めておきます。
リソースは何か
施策を実行するために必要な要素を洗い出します。人材、設備、製品、器具、機器、飲料などが該当します。
アドバイス:スタッフの専門性を積極的に活かしてください。通常メニュー以外にも、チームの中には活かせる技術があるはずです。また、既存の設備を有効活用することも重要です。最近、ある施設で使用していなかったAmmaチェアをウェルネスエリアに設置し、施術を予約していない顧客に向けて8分間の背中リラックスを20ユーロで提供するよう提案しました。これは、空いている時間帯に対応するスタッフの予定を掲示板で示す形で運用されました。
どこで実施するのか
この施策を実施するために施設内のどのスペースを使用するのかを決めます。
アドバイス:施術室ではなく共有スペースを優先してください。施術室を使用するのであれば、その時間は確実に収益につながるべきです。もし施術を伴う施策を選ぶ場合は、同じ日に集中して実施することで運用効率が上がります。
いつ実施するのか
施策の開始日と終了日、提供を行う曜日、そして担当スタッフが対応する時間帯を明確にします。
アドバイス:ここが専門性を発揮するポイントです。チームの技術力を前面に出し、例えばフェイシャルヨガや音響セラピーの専門家が、週に2日、30分ずつ顧客のために時間を確保することを知らせましょう。需要と緊急性を生み出すことが大切です。
どれくらいの期間行うのか
施策を実施する期間と、顧客に提供するメニューの所要時間を設定します。
アドバイス:施策は短いほど緊急性が高まり、購入につながりやすくなります。実施期間は2週間以内に収めることを推奨します。
どのように実施するのか
提供に必要な運用条件を整理します。事前予約が必要かどうか、他のオファーと併用できるか、利用できる枠が限られているかなどを明確にします。
アドバイス:施術を含む施策であれば、事前予約を優先し、予約期限を設定することが効果的です。
費用と収益をどう見積もるのか
施策にかかる費用として、原価、設備投資、外部パートナー費用、商品、飲料などを算出します。同時に、見込める全体の見込み客数、提供可能な最大人数、期待される利益、想定される平均売上(客単価)、そして具体的な価格設定もまとめます。
アドバイス:起点となるのは常に前年の売上です。月ごとの不足額がそのまま目標値になります。もし一千ユーロ足りなかったのであれば、今回の施策では最低でもその金額の達成を目指します。必要な最低顧客数や期待される平均単価も、そこから逆算できます。
施策の実施は、チームメンバーそれぞれに設定されている個別目標の達成手段としても機能します。そのため、この施策自体を担当スタッフのミッションとして位置づけ、専門性やスキル、習得を期待する内容に応じて責任を割り当てることができます。
実例で見る効果的な人材活用と施策運営
私が施設のマネージャーを務めていた頃、チームの一人がKansuボウルを用いたエネルギートリートメントを習得していました。彼女の専門性を活かしつつ、施設の施策にも参加してもらうため、6月の毎週水曜日に新設したガラス張りのスペースで、6名まで参加可能なKansuボウルの期間限定ワークショップを開催することにしました。
1月には、彼女と一緒に目標と実施ステップを明確にしました。
短期的には、ワークショップの技術シートを作成し、説明、実技、設営と片付けの手順をまとめること、中期的には、コスト、料金設定、告知方法を一緒に検討しました。また、長期的には、ワークショップを完全に一人で運営できる段階に到達しました。
彼女の個別目標は、私の売上目標に加えて、新しいガラス張りスペースの活性化という施設全体の目標にも貢献する内容になっていました。そのため、私自身が進捗を確認し、必要な調整を行い、最終的に承認することができました。このように計画を構築することで、スタッフの成長を継続的に確認できるだけでなく、施設全体の戦略を効果的に運営することが可能になります。
売上につながる効果的な情報発信のポイント

施策の情報発信は軽視されがちですが、告知のタイミングが遅く、効果が十分に得られないケースが多く見られます。多くの施設は、施策開始の1週間前になってようやくキャンペーンを始める傾向があります。しかし、顧客が購入行動に移る前には、少なくとも7回はオファーを目にする必要があると言われています。
顧客が新しいオファーを知り、購入に至るまでには時間が必要です。そのため、少なくとも3週間から1か月前には情報を届けておく必要があります。そのためには、編集カレンダーを作成することが欠かせません。これは、紙媒体からデジタルまで、使用するすべてのツールを整理し、どの経路で情報を発信するかを一覧化するための管理ツールです。
掲載先には、ウェブサイト、SNS、紙の掲示物、ニュースレター、メール配信、SMS、QRコード、フライヤー、メール署名のバナーなどが含まれます。加えて、毎週どの日のどの時間帯に投稿するかを決めることも必要です。目的は、顧客の生活の中に自然に入り込むことです。
顧客ニーズを捉えた差別化戦略の重要性
波に乗るのではなく、波を越える姿勢が必要です。多くの施設は、同じようなビジュアル、同じテーマ、同じタイミングでオファーを出しています。顧客にとっては驚きがありません。さらに、目的が「すぐに予約枠を埋めたい」ということだけに偏っているのが見えてしまいます。
では、顧客のニーズはどうでしょうか。本当に理解し、先回りできているでしょうか。
顧客ニーズを読み違えないための視点
昨年9月、私のSNSには多くの施設が「新学期応援」の割引を女性客向けに打ち出していました。
ウェルネスエリアの長時間利用、2時間の施術、フェイスケア商品のプレゼントなど、盛りだくさんの内容で驚くほど安価なオファーが並んでいました。「すごい!」と思うかもしれません。しかし、これは効果が出にくいのです。
その理由は一言で説明できます。
「新学期」です。実際、顧客の7割を占める30〜50代の働く女性にとって、新学期という言葉は魅力的な要素になりません。経営者であり母親でもある私自身の経験からも、この時期はストレスが増え、生活リズムの再編、仕事のフル稼働、膨れ上がる予定や手続き…まさに慌ただしい季節です。
この時期に必要なのは2つだけです。
「1時間だけ、日常から離れて静かに過ごす時間」と「誰にも邪魔されないこと」です。
顧客の今のニーズに応えるためのオファー設計法
こうした状況を踏まえると、9月は「お金がない」のではなく「時間がない」のだと分かります。この時間を、8月のうちから先取りして予約できる仕組みをつくることで、日常を少しでも整えられるように支援できます。そのためには、先取り予約、限定性、プライベート空間といった価値を前面に出すことが重要です。例えば「ようやく一人の時間!」というメッセージは強く響きます。
また、働く女性や母親に向けては、飲み物とWi-Fiが使える静かなワーキングスペースに加えて、ウェルネスエリアの利用を組み合わせるなど、忙しい日常に寄り添うオファーも効果的です。こうしたオファー設定の違いが、結果を大きく左右します。
差別化とは、今この瞬間の顧客ニーズを掘り起こし、先回りして応えることです。その場合、顧客は提示された価格で利用してくれます。
値下げに依存しない美容ビジネスの成功指針

- 既存のリソースを最大限に活用しましょう。
- 独立した体験型スペースを組み込んだパッケージを優先します。
- 施術室では短時間で提供でき、消耗品の使用が最小限の内容を選びます。例としてHead Spa、着衣のままで行うケアやストレッチ、光トリートメント、足裏・手・頭のリフレクソロジーなどがあります。
- ヨガ、ピラティス、瞑想、フェイシャルヨガ、サウンドセッションなど、イベント型または定期開催のプログラムを企画します。
- 料金設定は、費用と目指す粗利率を基準に行います。
これらを踏まえると、売上を安定させ、年間を通して収益性を保ちたいのであれば、値引きという切り札に頼る時代ではありません。事前に計画し、明確な商業戦略を設定することで、既存メニューの価値を下げることなく閑散期を最適化できます。さあ、先を読み、動き出しましょう。
