もはや明白なことですが、世界は変化し続け、そのスピードは加速の一途をたどっています。こうした時代の中で、小規模事業者である美容サロンがどのように対応していくべきか。例えば、顧客の絶え間ない新しいニーズ、データの活用と分析、あらゆる場所での効果的な情報発信などが課題となっています。このような問いに対し、サービスマインドと顧客の期待に関する国際的な専門家である Ralph Hababou 氏に話を伺いました。
取材・構成:Laure Jeandemange
Ralph Hababou 氏について
Ralph Hababou 氏
Ralph Hababou 氏は、ESSEC(エセック・ビジネススクール)を卒業後、コンサルタント、著述家、講演家として活躍しています。コンサルティング会社 PBRH Conseil を率い、カフェチェーン Colombus Café を設立(2004年に売却)しました。代表的な共著に、50万部を超えるベストセラー『Service compris』があります。
Ralph Hababou 氏は、サービス精神と顧客の期待に関する国際的な専門家として知られており、これまでにフランスおよび欧州の大手企業において1500回以上の講演を行ってきました。
情報社会で変わる顧客行動と美容ビジネスの対応力
私たちの生活は、今や非常に高度な分析力と機能を備えたデジタルプラットフォームによって支配されています。現在は「データ3.0時代」とも呼べる段階に入っています。
2000年代には「情報を持つ消費者」が登場しました。それ以前のコミュニケーション手段は、もっぱら広告に限られていましたが、検索エンジンの登場により、消費者自らが情報を探し出せるようになったのです。
2005年以降は、メディアとソーシャルネットワークの発展によって「発信する消費者」が誕生しました。情報を得るだけでなく、周囲と意見を共有したり、評価を伝えたりできるようになったのです。
現在では、消費者はさらに「拡張型」へと進化しています。Uberではタクシー運転手、Airbnbでは宿泊提供者、TripAdvisorでは情報提供者としての役割を果たすことも可能となりました。
デジタルプラットフォームの4つの柱
1. 顧客体験
スマートフォンのわずか1平方センチメートルの画面に表示されるこれらのプラットフォームは、優れた顧客体験を提供するほか選択肢がありません。
2. 評価の重要性
現代の顧客は、美容サロンやレストラン、ホテルに足を運ぶ前に、必ずインターネット上のレビューを確認します。評価や口コミの管理は極めて重要です。かつては一人の顧客が友人に伝えるだけでしたが、今ではSNSの拡散力によって、数千人、あるいは数百万人に影響を与える可能性があります。
3. 利用の簡便さ
「すべてはシンプルかつ直感的であるべき」との思想のもと、プラットフォームは発展してきました。タクシーを2クリックで呼び出す、口座を簡単に確認する――このような感覚で、営業時間、支払い方法、予約手順など、すべてにおいて「簡単であること」を常に追求し続ける必要があります。
4. データ活用
大企業は、データを専門とするチームを擁し、あらゆる情報を絶えず分析しています。サロンでも、顧客の好みや苦手なことを記録し、理解することが不可欠です。同じことを何度も説明させるようではいけません。
顧客体験と感情を重視すべき理由
上記の4要素を踏まえたうえで、差別化の鍵となるのは「顧客体験」と「感情」です。人工知能には、まだ感情を生み出すことはできません。いずれ変わるかもしれませんが、現時点ではAIに感情表現は不可能です。
ある音楽家は、「AIがラブソングを書くには、まず恋に落ちて、失恋を経験しなければならない」と語っています。大企業と同じ土俵で勝負することは難しいかもしれませんが、顧客体験やおもてなし、サービス、関係性といった領域では、それを超える可能性があります。
他の美容サロンも「感情の提供」に力を入れてくるでしょう。その中で違いを生み出すには、自身の強みを見極め、それをさらに磨き上げることが重要です。何に優れているのかを突き詰め、それにこだわり続けるべきです。
満足ではなく「熱狂」を目指す
今や顧客満足だけでは不十分です。目指すべきは「熱狂」です。なぜなら、熱狂的な顧客こそが、あなたのことを周囲に語ってくれるからです。最高の販売員とは、まさに熱狂的な顧客なのです。
広告に投資するのはもうやめましょう。その代わりに、顧客一人ひとりに集中し、心から向き合ってください。その顧客が次の顧客を連れてきてくれるのです。各顧客を唯一無二の存在と捉えることで、好循環を生み出すことができます。
自分が顧客だと想像してみてください。SNSの広告よりも、実際にそのサロンに通っている友人の言葉の方が信頼できるのではないでしょうか?熱心な顧客が、あなたのサロンの最良の広告塔になります。
ただし、これは逆の効果もあるということに注意してください。もしサービスがひどければ、SNS上での評判はたちまち地に落ちてしまうのです。
価格ではなく信頼で顧客を惹きつける
価格を安くすれば、確かに興味本位の新規顧客を引きつけることができます。しかし、そういった人たちは、別の場所でさらに安い価格を見つければ、すぐにそちらへ流れてしまいます。
むしろ、私はサービスの質に見合った形で、料金を少し引き上げることをおすすめします。「えっ、そんなことをしたらお客様が離れてしまうのでは?」と思われるかもしれません。確かに一部の顧客は離れていくでしょう。しかし、そのような人たちは、いずれにせよ他に1ユーロでも安いサービスがあればそちらに流れる人たちなのです。
そうした顧客には長期的な価値がありませんので、むしろ早めに手放すほうが賢明です。注力すべきは、サロンの推薦を広げてくれる顧客層であり、少し高めの料金でも納得して支払ってくれる人たちなのです。
今、もっとも購買力のある層とは?
今日、他の世代よりも「お金と時間」の両方を持っているのは、シニア層です。フランスにおいては、国民の資産の80%が60歳以上の人々に所有されています。
若い世代をターゲットにするよりも、シニア層に注目すべきです。若者の中には一部の施術には来るかもしれませんが、金銭的余裕が少なく、また継続的な利用にはつながりにくい傾向があります。
一方、シニア層はしばしばクラブなどに所属しており、口コミによる拡散力も非常に高いのです。
シニア層とどうつながるか?
私が言っているのは、健康を損なった94歳の高齢者ではなく、いわゆる「シルバーサーファー」のことです。つまり、60歳を過ぎても、孫と連絡を取るためにスマートフォンを使っている人たちです。
InstagramやTikTokのアカウントは持っていないかもしれませんが、Facebook と WhatsApp は使っています。今日、Facebook はシニア世代との最適なコミュニケーションツールであることは疑いようがありません。このことは、10年前、15年前であれば、私も同じことは言わなかったでしょう。
シニア層とのコミュニケーション方法
現在のシニア層は、物を「所有」することに興味があるわけではありません。家具や車を買うことよりも、「体験すること」、たとえば孫と過ごす休暇などに価値を見出しています。つまり、彼らにとって大切なのは「年齢を重ねること」ではなく、「人生に充実を加えること」なのです。残された時間を意識し、その時間をより豊かに過ごすことに重きを置いています。そのため、高品質な体験にはお金を惜しまず投資します。
彼らは時間も資金も持っており、物よりも経験を重視する顧客層です。「アンチエイジング」に惹かれる人もいれば、「リラクゼーション」を求める人もいます。一律には語れないという点では、若年層と同様です。若者には、タトゥーのある人、裕福な人、そうでない人などさまざまなタイプがいるように、シニア層にも多様性があります。
データを活かした経営で顧客満足を最大化する
ビッグデータというと、Google や Amazon のような巨大データベースを思い浮かべるかもしれませんが、そこまで大掛かりである必要はありません。たとえば、リマインダーのSMSを送る、サロンの地図リンクを添えるなど、工夫次第でできることは無数にあります。唯一の制限は「発想力」です。
しかし、顧客のメールアドレスも携帯番号も把握していなければ、何もできません。それは、あなたのビジネスの将来にとって「致命的」です。顧客のメールアドレスと携帯番号を確実に取得すること。これはもはや基本中の基本なのです。
Ralph Hababou 氏からのアドバイス
顧客リストを見直し、それぞれの顧客に対して「もっと良くできたこと」「さらに提供できること」がなかったかを振り返ってみてください。業種の異なる店舗や業界を訪れてみましょう。そこには異なる視点や新しい発見がたくさんあります。視野を広げることがとても大切です。
価格を下げる必要はありません。たとえば、フランスのパン屋では、バゲットの価格が数十年で10倍になりました。かつては1フランで買えたものが、今では1.20〜1.30ユーロ、あるいはそれ以上するようになりました。大手スーパーとの競争に対応するために、パン屋は営業スタイルを大きく変えました。午後にも焼き上げを行うようになったのは、客が夕方にパンを買うようになったからです。また、より高品質なパンを提供することで付加価値を高め、「価格を下げる」のではなく「価値を高める」ことで競争に勝ち抜いてきました。「価格を下げる」という戦略には大きな落とし穴があります。「太った者が痩せると、痩せた者は死ぬ」と言われるように、大手企業は徹底的に価格を下げて、他の事業者を市場から排除する力を持っているのです。
ホスピタリティ業界や飲食業界など、異なる業界の顧客目線に学びましょう。フランス国内でも、海外でも、ヒントは至るところにあります。それほど費用はかかりませんし、現在の仕事に新しい視点をもたらしてくれます。